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1104:深呼吸(上)

★ ☆ ★


1796年11月6日


僕はシャルル王太子……。

ジョセフ兄さんを失って以降、僕が王位継承者として帝王学などの次期国王に相応しい教育などを受けて勉強に励んでいるところです。

勉学も大切ではありますが、やはり自分の足で視察をする事も大事です。

お父様からも、人に指図するのではなく自分から視察をして様子をみることも大事である旨を聞かされた事と、今日は戦争孤児などを保護している施設への視察を兼ねた訪問をしているところです。


この保護施設というのは、戦争によって身内を失ったり障害を負ってしまって生活が出来ない赤ん坊や子供、そしてお年寄りを引き取り、そこで生活するというスタイルを取っている福祉施設です。

その名も「パリ王立総合福祉所」と呼ばれており、パリ大火によって焼失した区画を整備して建設された施設だそうです。


パリ王立総合福祉所では、戦争孤児や身寄りがない子供たちの保護などを重点的に行っているようで、馬車で施設に入った時、すでに大勢の子供たちが出迎えてくれておりました。

この施設ではパリでも最大級の大きさと収容人数を誇っており、ここでは0歳児から15歳までの少年少女、合わせて700名以上が集団で生活をしております。


「王太子様!ようこそいらっしゃいました!」

「出迎えありがとうございます、ピュイゼギュール侯爵」


施設の代表者としてやってきたのはピュイゼギュール侯爵でした。

彼は動物磁気説と言われている新しい精神治療法を考案している人物であり、8年前まで戦争によって心に深い傷を負ってしまった子供たちの治療のために自費を投じて治療を行っていたそうです。

その際に、戦争孤児の精神状態が安定し、笑顔を見せることも多くなったことを論文として発表。

心に深い傷を負ってしまった少年少女に対して、根気強く治療を施す過程をまとめたものがお父様の目に留まり、このパリ王立福祉総合所において子供たちの精神状態のケアを行う施設長として就任したそうです。


僕としてはこのピュイゼギュール侯爵が私財を投じて行った治療について興味が沸いたのです。

お父様は『精神療法』と呼んで正式な治療として研究を行うべきものであると持論を展開しているのですが、どうやらピュイゼギュール侯爵も同様に動物磁気という言葉ではなく、精神治療法という言葉を用いてケアを行っていると語っておりました。


「動物磁気治療を行っていると伺っておりますが……どういったことをされているのです?」

「そうですね、実は陛下からの助言もあって動物磁気やメスメリズムという名称では、やや信憑性に欠けてしまう点が指摘されたこともあり、目に見えない精神の治療を行うという意味合いの精神治療法という方法で呼ばせて頂いております」

「具体的にどういったことをされているのですか?」

「これも陛下からの助言によるものですが、まず子供たちを安心させてあげることが重要なのです。孤児であったり、親から虐待を受けて捨てられた子供の多くが、大人に対して精神的な拒絶であったり、食事や入浴を拒否してしまうケースが多々あるのです。特に、心に深い傷を負ってしまった子供の多くが拒食症であったり、自傷行為をしたりしてしまう症例が多く見受けられるのです」

「そういった子供たちの治療を行っているということですか?」

「ええ、戦争孤児や虐待で親御さんから離れた子供たちを保護し、ケアを行う……もし、そのまま放置してしまえば、彼らは孤立から犯罪に走ってしまう事が多いのです。特に、貧困層の子供たちにとって自分達の生活が全ての世界でも同じだと考えるようになり、犯罪行為がエスカレーションしてしまう例もあるのです。故に、そういった子供たちを保護し、心の治療を行うことで少しでもそういったリスクを下げる取り組みをしているのです」


ピュイゼギュール侯爵が行っている精神治療法では、孤児や虐待を受けて育った子供の多くが、親に対する喪失感であったり愛情を受けていないことが要因で非行に走ったり、拒食症や自傷行為などを起こすことを減らす取り組みをしているそうです。


その取り組みを視察しに施設に足を運ぶと、とても清潔感のある部屋にたどり着きました。

全体が白色をベースに作られており、大きなテーブルがいくつも並べられている部屋です。

この部屋では『集合談話』を行う場所であり、お互いに最近あったことなどを互いに共有し合う場所だと説明を受けました。


「ここは集合談話室と呼んでいる場所です。ここで子供たちは最近の自分の考え方であったり、良かった事、辛かった事などを同年代の子供たちと共有する場所となっております。多くの子供たちの場合は、共有できる話をしたいと思っているのです。そして、この集合談話室で会話をして、お互いの抱え込んでいる悩みなどを打ち明ける場所として機能しているのです」


ピュイゼギュール侯爵の実施している集合談話ですが、集合して会話することが苦手な子供たちのためにも個室で大人が複数名子供たちの相談を聞いてくれる相談室も用意していると語っておりました。

その場所も案内されましたが、窓辺の部屋であり太陽が常に当たるように窓を大きくした部屋でした。

この相談室では毎日10人以上の子供が相談に訪れており、専門の訓練を受けた女性職員が対応しているそうです。特に、心に傷を負ってしまった子供の多くが人に中々打ち明けることができない事を話す上で重要なのだそうです。


「ここでは常に女性の職員が常駐しており、相談に訪れた子供たちの対応を行っております。本棚には子供向けの絵本だけでなく、積み木ブロックなどを置いて精神の状態を確認するために使っております」

「精神治療法……の中でも、子供たちの状況を調べる上で役に立っているのですか?」

「はい。精神的に不安定な子供の治療であったり、5歳児までの子供が集中して行う治療法として活用されているのです。積み木でブロックを建てることに集中して物がどうやったら倒れるか、またその加減などを調べる上で必要不可欠でもあるのです」

「つまり、そういった事を経験していなかった子供たちにとっても、積み木などを通じて力加減などを学ばせることができるというわけですか」

「その通りです。虐待などを受けてきた子供たちの場合は力加減が分からずに相手に怪我をさせてしまうことが多く、職員に対しても泣きながら暴れてしまう子供もいます。そういった子供たちを落ち着かせる部屋も用意しているのです」


落ち着かせるための部屋も反省室などではなく「静養室」という名前を使っているのも、子供たちに罰を与えているという悪印象を与えるのではなく、治療をしているという印象を持たせるためなのだそうです。

こうした部屋も複数用意されていることもさることながら、最大で16歳までその施設で過ごすことができます。多くの子供が身寄りがなく預ける場所としての機能を維持しており、子供たちも作り笑顔ではなく心の底から楽しんでいるようでした。

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