1103:基本的人権の尊重
北米複合産業共同体を下した後にやるべき事は沢山ある。
まず、統一したメートル法の制定と義務化だ。
史実ではアメリカにメートル法に必要不可欠な道具を届けようとした学者が海賊に襲われてしまい、メートル法の定規や本などが奪われてしまったことで、アメリカではヤード・ポンド法が主流となってしまった。
これが現代ではずっと残ってしまっているのがアメリカの独特な数値なのである。
故に、まずは重さなどの単位を統一することが最重要課題でもあるわけだ。
「重量の測定で使われているキロ・メートル法だが、どのくらい欧州協定機構加盟国で進んでいるかね?」
「はい、国土管理局が調べた限りではスウェーデンやポーランド、それにプロイセン王国、スコットランド政府、スペイン、イタリア連合王国などが採用しております。いずれの国もこれらのキロ・メートル法を主軸とした沿線道路の建設や、国際共通法の原案となっている道路の幅の広さなども取り決めることが進められております」
「そうか、国際共通法の一つとして重さや長さの単位を統一化することが重要であると語られていたからな……キロ・メートル法が制定することができれば、世界中で統一された長さと重さの単位が使われることができるようになる……戦後に必要なことだよ」
今現在、多くの国で距離の長さであったり重さの計量が異なるケースが多い。
日本では尺貫法が主流であるし、各国で重さも長さもバラバラの状態では、いざ相手国と交渉をした際に、これらの重さや長さの違いでお互いの文化の違いもさることながら、両替や商品の設計を行う際に不利益が講じてしまうこともある。
実際に、フランスを経由して青龍に渡った技師が日本に技術供与を行ったグリボーバル砲に関しては、メートル法を採用していないため、尺貫法を現地で変換して計算をしたそうだが、かなり骨の折れる仕事だったと伺っている。
重さや長さの単位が統一化することができれば、意味も通じるし言葉が違っていても理解はできる。
それだけ重要な指標ではあるのだが、俺のいた世界では飛行機はアメリカのものが主流を担っていた影響もあり、ヤード・ポンド法を使用していたし、このヤード・ポンド法で設計ミスがあったことで飛行距離を間違えてセットした結果、飛行機が途中で燃料切れを起こして不時着したり、衛星を米英で作成した際にイギリス側がイギリス側のヤード・ポンド法で作ってしまった結果、アメリカのヤード・ポンド法と間違えて使用して火星に激突した事例もあったはずだ。
この世界において、既にメートル法を広めるべくヨーロッパ諸国ではキロメートルの主軸となる重さの測りやセンチ・メートル法の導入は必要不可欠だ。
世界統一単位としてのメートル法実現はこの世界における願いの一つでもある。
そして、メートル法を使用して計測と作物の転換作業を指示した。
「今の流感が落ち着いた頃合いを見計らって占領地の計測、並びに作物の転換をお願いしたい」
「占領地の計測と転換ですか?」
「そうだ。あの地域では国外向けに阿片を生産していたそうだが、それを辞めて綿花栽培にシフトを変えていたはずだ。北米南部産の綿花は大量に生産されているが、今のところ食料自給率を鑑みても幾つかの綿花栽培を中止にして、トウモロコシやジャガイモが栽培できるかどうか、すぐに確かめて欲しいんだ。あの地域は比較的肥沃な大地でもある。トウモロコシやジャガイモを生産して、市民に平等かつ均等に人種に隔たりなく分けられるようにしたいんだ。そのためにも、今の土地がどれだけ使用可能か、もし転換したらどれだけの食糧を賄えるか調べて欲しいんだ」
今現在、欧州協定機構軍は北米大陸南部を占領している。
これらの地域は農業が盛んであり、且つアメリカにおける一大農業地帯でもある。
史実でもアメリカ南部連合が成立した際にも、綿花栽培などを通じた第一次産業で得られた資金を使って北軍と対峙をしていただけの事はある。
綿花栽培に適している土地だけに、他の農作物や畜産物を育てるのには打って付けだ。
それに、この南部地域は現代化に伴って大手IT企業の誘致が進み、カリフォルニア州に変わって大手企業が集中するハイテク企業も盛んだ。
その基盤となる経済政策なども進めておけば、近い将来に北米複合産業共同体から独立して欧州協定機構加盟国になった際に、南部一帯を独立国にするか北米大陸の連合国家にするかにもよるが、食糧生産を行いつつ、第二次産業である製造や建設業、そして第三次産業などの発展にも貢献することができるだろう。
「今現在生産されている分の食糧ですが……トウモロコシやジャガイモの生産量は北米複合産業共同体の中でも半数を賄っていた地域です。この地域でこれだけの生産能力があれば、綿花栽培を転換してもなお、食糧生産を上げて輸出も可能になります」
「それだけ生産量が多いのは何よりだが、トウモロコシやジャガイモには極まれに育成不良になる病気も含まれていると聞いている。その感染がないように輸入には注意も必要だな」
食糧生産を上げても十分にやっていけるようであれば、食糧輸入を行っている国や地域に向けて北米産の農作物を輸出して外貨を稼ぐ手段もある。
……が、航海に一か月以上かかることを踏まえると、傷んでしまう野菜や収穫物も出てくるだろう。
長期保存が効く野菜などを育てて、基盤が整うまではそれで外貨を稼ぐほうがいいかもしれない。
すでにニューヨークでは高層ビルが建設されていることを考慮しても、まだまだ発展の伸びしろがある地域でもあるのだ。
これらの地域でフランス式の憲法の制定と、占領地にいる人々の中から代表者を選び、議会を作ることで民主主義国家を作り出すことが出来る。
一時的な傀儡政権であったとしても、形だけでも民主国家として将来の教科書に胸を張って誇れる国家の樹立を宣言することで正当性を得ることが出来るようになるだろう。
民主主義国家の樹立も楽な事ではない。
北米複合産業共同体から離脱した南部において、議会制政治を導入するにしても北米連合時代の政治家などを集めて憲法制定に向けて行動しなければならないからだ。
立憲君主制が一番理想的な政治体制ではあるものの、北米複合産業共同体以前の北米連合もそうだが、グレートブリテン王国から離反して独立を勝ち取った国家である。
国家元首となる中核の人物が必要となった場合に、他の欧州諸国の王族や皇族を象徴としての王に据え置くことが可能ではあるものの、その王族や皇族に適任とされている人物が赴任されたとしても、現地の人達はグレートブリテン王国の税が重かったこともあり、植民地支配から脱却して離反することになった経緯を踏まえれば、独立戦争によって勝利を勝ち取った反王政国家であることを踏まえても、新しい国家元首としての国王や皇帝の即位は望んでいないだろう。
南部地域が自立をして、ゆくゆくは北米を統治することになれば、少なくとも欧州に離反しないように楔を打ち込むことも必要になっていくだろう……。




