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1102:勝機

デオンが差し出してくれた情報を精査している時、追加の報告書をもってきてくれた人物が部屋に入ってきた。

外務省の調査責任者を務めているラ・ルヴェリエールであった。


「陛下、こちらが今現在の欧州協定機構加盟国の経済情勢と、これまでに摘発された北米複合産業共同体のスパイを示すグラフとなっております。複数の諜報員から入手した情報を精査し、調査結果がまとまりましたのでご報告致します」

「ありがとう。ところで、ルヴェリエールとしては昨今の情勢を鑑みて経済の方はどうかね……」

「はっ、表向きには戦時体制による兵器増産に舵を切っている国が複数あります。中継拠点となっているカリブ海諸島の発展も進んでおり、ノルウェーやアイルランドでは軍港の再開発や軍需産業への投資で潤っている所もあります」

「うむ……ただ、これが戦争経済でイケイケな状態になるのはあまりよろしくないな。戦争経済というのは経済に薬を撃ち込んで【強制的な好景気】を産み出しているに過ぎない。戦争が終われば余剰生産となった兵器などを作らなくなるし、何よりもプロイセン王国との戦いの後にも一時的に経済が鈍化した事例がある。あまり市民に過剰な投資や出資をしないように注意喚起をしてくれないか?」

「畏まりました。直ちに注意喚起を行う旨を伝達致します」

「よろしく頼む」


彼はフランス革命期に活躍していた政治家であり、幾つかの政変にも関与していた人物だ。

ナポレオンやロベスピエールといった癖の強い人物の影に隠れてしまうが、この人物は中々に強烈なことをしている。


当時王政復古などを主張していた王党派の人物たちが選挙当選しており、王党派が半数に迫る勢いで議会で優位になるような選挙結果に納得していなかったのである。

ではどうしたかというと『反革命的思想に基づいて行われた選挙工作であり、当選結果は無効である』という民主主義全否定のやり方を行い、それも軍部の賛同を受けてこれを実施・成功させてしまったのである。


このクーデターによって多くの王党派議員や代議士の人達が逮捕ないし追放されており、しかもこれらの人物は島流しの刑にされたこともあり、実質的な革命政権による独裁体制が構築されたのである。

無論、この政変においてナポレオンにも協力要請があったとされているが、当時のナポレオンは革命勢力が維持できるのも長くはないと悟っており、実際に彼はこのクーデターから2年後に自身でクーデターを起こし、ナポレオンは皇帝に即位したのである。


この世界においては、ラ・ルヴェリエールは法曹関係の仕事に就いていたようだが、改革派の運動に賛同して海外の法律と比較して改革に着手。

その改革も主に国際法に関わる内容を精査してフランスと諸外国が共通の法律を制定する上で政府に助言を行い、その功績が認められて外務省に入省を果たして今に至るというわけだ。


外務省に入ったのも、国内だけでなく国際協調路線を重視するべきであるという考え方があった為だという。実際にフランス革命においては王党派を打倒して革命政権を担っていた人物の多くが、この世界においては改革派としてフランス王国に仕えて行動を起こしている。

革命によって過激な行動をしていた人物も、この世界においては穏健派であるというIF現象も起こっている。


最も……あのロベスピエールに関しては気を病んでしまった事が原因で史実同様に革命思想に傾倒してしまい、反乱未遂容疑で逮捕・勾留を受けた後に裁判において終身刑が科せられている。

本来であれば死刑が宣告される予定でもあったが、複数人の弁護士がロベスピエールの精神状態が悪化していた旨の報告を行い、彼自身が思い描いていた改革が進んでいないことに絶望した結果起こしてしまった悲劇的な事案であると裁判官に説明したのである。


また、ロベスピエールは曲がりなりにも貧困層への社会支援を行っており、この支援を受けて読み書きができるようになった女性らがロベスピエールの反乱準備に関する行いを批判しつつも、貧困層の支援によって多くの人々が救われた事情も説明したことで、裁判官らはロベスピエールに対して死刑ではなく他人との接見なしの終身刑という判決を下したのだ。


結果として、今もロベスピエールは設備と警備が厳重な刑務所に収監されたが、彼の現状は聞いてはいない。同じ法曹の道を歩んできた改革派の者も多いし、ラ・ルヴェリエールも法曹出身者であるためこの場でロベスピエールの名を口に出すのはよろしくないのだ。

そして、彼が提唱をしていた国際共通法に関する法律の制定ができそうか尋ねた。


「ラ・ルヴェリエールの提唱していた国際共通法の提言は良い感じにまとまりそうか?」

「はい、今現在スタニスラス閣下の元で共通法の制定実施に向けて準備が進められております。早ければ再来年までにはフランスを主軸にした国際法が制定できる見込みです」

「それは良かった……これが制定することができれば、欧州協定機構に加盟していないヨーロッパ諸国も参加できるようになる。いずれは世界の国際法として主軸になれるはずだ」


彼の提案した『国際共通法』も、他国で犯罪を犯した犯罪者に対する逮捕状を他の国でも請求できるようにするものなど、現代の国際条約に関する内容に類似したものが含まれている。

欧州協定機構加盟国は原則として加盟国間で適応される法律が制定されているものの、まだその法律の抜け道となる場合があり、欧州協定機構加盟国ではない第三国を経由して遠方に相手が逃げてしまった場合には、その法律が適応されることが難しいのだ。


今現在ヨーロッパ諸国の大部分が加盟しているが、オスマン帝国から分離・独立を果たしたブルガリアやギリシャ地域に至っては、まだまだ法整備が追いついていないというのが現状である。

これらの地域では救世ロシア神国による侵攻被害もさることながら、一部地域では彼らのカルト宗教じみた教練を信仰している集団が潜伏しているらしく、これらの対象を国際法によって規制・処罰の対象にするべきではないかという意見が各国の間で上がっていたのである。


北米複合産業共同体はまだ海を隔てた大西洋側にあるのに対して、救世ロシア神国は東ヨーロッパ諸国を蹂躙したのである。

最も、オスマン帝国の支配ないし傀儡国家であった東欧のルーマニアやブルガリアなどに侵攻した際に、彼らの思想の一部が現地で残ってしまったようだ。

故に、国際共通法によって組織的な犯罪集団に感化されて犯罪行為を行う集団に対する処罰を望んでおり、この処罰に関しては各国で法律がバラバラに制定されているため、統一しようというのが国際共通法の理念でもある。


ラ・ルヴェリエールの法律が制定できれば、フランスとの外交関係がある国にも条約を結ばせて国際共通法という名で世界に法律を享受することができる。

フランスを主軸にした国際的なリーダーシップを取る事もできるのである。

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