表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

1091/1093

1089:酩酊

☆ ☆ ☆


1796年9月19日


ヴェルサイユ宮殿 王の部屋


宮殿に自室があるというのはありがたい。

特に、直ぐに冷えた酒を持って来てくれることができるので、現代みたく冷蔵庫からビールを取り出すように、保冷庫から冷えた酒を取り出して5分以内に届けてくれることが出来るのも、この時代では王族や貴族、富裕層の特権でもあったのだ。


スコットランド産の高級ウイスキーを持ってくるように注文をした後に、さらに追加でマイソール王国産の淹れたての紅茶を追加で持ってくるように指示を出した。


「陛下、お待たせしました。ウイスキーと紅茶にございます」

「ありがとう。ツマミはサラミとチーズだけでいいよ。ケーキとかは他の人にあげてやってほしい。今日は一人で呑みたい気分なんだ……」

「畏まりました。またお呼び出しがございましたらベルを鳴らしてください。すぐに参ります」

「ありがとう。助かるよ」


俺は酒をコップに注ぐ。

グラスだと冷えたウイスキーと暖かい紅茶……。

冷たいウイスキーに、暖かい紅茶を注げばウイスキーティーとなり、これが一番身体に染みる。

暖かい紅茶をグラスに注ぐと、熱膨張によってグラスが壊れてしまうため、陶器のコップに淹れて飲むのがいいのだ。

前世ではウォッカとコーラを割って飲んでいたのだが、やはり度数の高い酒と炭酸やお茶などの飲み物を組み合わせて飲むのが一番うまいのだ。


ただ単に酒を飲みたかったからではない。

酒を飲まずにはいられないぐらいに震えているのだ。

アルコール依存症とかではなく、恐れていた事態になってしまった事への恐怖と、今後の展開を鑑みればこれは恐ろしいことでもある。


「酒に逃避したくもなる……天然痘やペストよりも感染力の高い強毒性インフルエンザが流行しているとなれば、この時代にとってまさに悪夢だ……」


恐れていた事態が発生してしまっているのだ。

北米複合産業共同体の領地、及び今現在までに欧州協定機構軍が占領している地域で同時多発的に発生している流感……これがどうも強毒性のインフルエンザウイルスである可能性が高いのだ。

2020年に世界的な大流行を引き起こした新型コロナウイルスや、1918年に発生したスペイン風邪を上回る致死率を叩きだしており、現在欧州協定機構の軍隊並びに占領下に置かれている街や村で述べ7万人の感染が確認されており、うち5800名が命を落としたとされているのだ。


これは現時点で確認が取れた数であり、また更に感染者や死者数は増えていくだろうと予測されている。

おまけに、これが当初フロリダ州で発生した為にフロリダ風邪と呼ばれていたのだが、どうも北米複合産業共同体の首都であるニューヨークで爆発的な感染を引き起こしているらしく、スパイからの情報ではニューヨークでは既に工場などの職場が閉鎖されて野戦病院のような役割を果たしており、遺体の処理が間に合わないためか路上に遺体が放置されている状況だという。


ニューヨークだけでも推定死者3万人を超え、北米複合産業共同体支配地域における具体的な死者数は推定値になってしまうが、約8万人以上ではないかとの見方を示しており、既に北米複合産業共同体で流行している現状では、北米大陸全体で強毒性インフルエンザに見舞われているということだ。


7万人に対して死者5800名……。

これを計算して致死率に換算すれば約8%だ。

あのスペイン風邪ですら強毒性になった際の致死率は5~6%と言われているので、これは高い数値だ。

この時代に猛威を振るっている天然痘では20%以上、ペストに至っては30%を超えているので、それらの感染症に比べたら比較的マシな部類に割り振られるだろう。


天然痘やペストは人類の文明を停滞させた実績のある恐ろしい病だ。

今現在分かっている致死率が8%という事は、12人に1人が死亡するリスクのある病であり、罹患者の予後を考えれば最も警戒すべきウイルスでもある。

対処療法や麻黄湯などの漢方薬の早期服用によってフランス軍内部での罹患者の致死率は5%程度にまで低下したそうだが、それでも5%なのだ。


これはスペイン風邪が流行した時に、最も致死率の高かった変異株での致死率と同じであり、5%であれば20人に1人が死亡する計算となる。

単純計算であっても、それはあまりにも重たいものである。


致死率8%前後のウイルスが流行しているのは非常によろしくない。

感染症によって経済が停滞する指標として致死率が1%以上を超えるウイルスが流行するものがあり、これが致死率10%を超えると大幅な経済活動の停止や物流網の停止、さらに配給制などを行って計画的な経済活動に移行しないと社会秩序が維持できないとされており、今回の強毒性インフルエンザが流行している北米大陸では、計画的な経済活動に切り替えないとマズい状況でもあるのだ。


中世ヨーロッパが暗黒期と呼ばれるようになったのも、戦乱による荒廃もさることながら、ペストの流行によって文化や宗教が大きく衰退したことにより、文明レベルが一気に低下したともされている。

古代ローマ時代に確立されていた建築物や技術がロストテクノロジーと化してしまい、技術水準が低下した上に、ペストが流行して人々は都市部ではなく農村部などで集落を形成し、村社会が基本となった時代がこの頃だと言われている。


故に、致死率の高い病気が蔓延すると、その分感染症による被害も相まって文化的・経済的なダメージが著しい被害を齎すのだ。


俺の知っている知識でも、スペイン風邪ですら致死率は5~6%前後と言われていただけに、その致死率を上回る強毒性を持っていることから、確実に現地の軍隊は停止を余儀なくされるだろう。

もし野営地や駐屯している地域で集団感染が起これば、免疫機能を持っていない人々の間で爆発的な感染が広がるのは必須だ。


ナポレオンが率いている軍隊も、現地でフロリダ風邪に罹患している集団を発見してからは、分隊ごとに行動を行い、食事や寝る場所も離れて行うなどの感染症対策を徹底しているために、進撃速度が低下しているという。


「あそこまで強毒性インフルエンザが流行しているとなれば……鳥インフルエンザウイルスの可能性が高いな……呼吸器疾患や肺炎を引き起こして死に至らしめる。H5N1型の鳥インフルエンザは30%の致死率を持っていたとされているが……今のところ8%程度で済んでいることを鑑みれば、あの型よりは幾分かマシということかな……いや、それでも普通のインフルエンザウイルスより毒性の強いのが流行しているのが危ないんだがな……」


幸い、移動手段は限られているのと、強毒性インフルエンザの発生源さえ特定できればヨーロッパでも対処は可能である。

それでも、既に流行している北米大陸においては戦争どころではない状況に陥る可能性が高まっているため、場合によっては双方で休戦協定を結ぶ可能性も出てきたのである。

今後の戦争の行方がどうなるか……インフルエンザの流行次第では大陸の海上輸送の制限や封鎖をしなければならない事態となるだろう。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ツギクルバナー

☆2020年9月15日に一二三書房様のレーベル、サーガフォレスト様より第一巻が発売されます。下記の書報詳細ページを経由してアマゾン予約ページにいけます☆

書報詳細ページ

― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ