第8話 幻想(8)
死家の最終話。
全員が談話室に集められ、主人公への最後のアピールタイムが始まった。各々のヒロインがどれだけ主人公を好きなのかを表明するのだが、そこにはこれまで積み上げてきた心を抉るような狂気が一ミリもなかった。ひたむきで、純粋で、ただただ主人公が好きなんだと不器用に伝える女の子たちの姿があったのだ。
三十日間の思い出を語り、そしてどんな未来にしたいかを瞳をキラキラさせて語る。
女子高生としての等身大の思いを綴ったのだ。
全員の思いを聞いた主人公は、最後にみんなに問い掛けた。
『なんであんなことをしたんだ?』と。あんなこととは、これまでの狂気に満ちた言動の数々のこと。
それを訊ねられたヒロインたちは、皆一様に頭にハテナを浮かべ、一体なんのこと? と小首を傾げた。
主人公はそこで気付く。
これまで彼女たちが犯してきた狂気は、全て主人公の中にある『欲望』と『願望』が、『こうなったらいいのに』というフィルターを通して見た彼女たちの姿だったと。
自分が怪我をして血を流した時、『好きなら血くらい飲めるよな?』と思った。
爪を切ってもらった時、『好きなら髪の毛も爪も食べれるよな?』と思った。
ベッドで添い寝をした時、『好きなら好き放題にしていいよな?』と思った。
彼女が失敗した時、『好きなら叩いて教えないといけないよな?』と思った。
だから、そんな主人公の『欲望』や『願望』が、純粋に優しく接してくる彼女たちを酷く狂気に満ちた姿で主人公の目に映していた。
自分に取って都合の良い姿で、瞳に映していた。
狂っていたのは、誰でもない自分自身だった。
彼女たちは三十日間ずっと、健気に主人公に好きになってもらおうとしていただけなのだ。
その事実に気付いた時、主人公の目に全く別の世界が映った。
目の前にいるヒロインたちが、酷く疲れ切って、ボロボロで、痛々しい見た目になっている。
魔法も何もない。
ファンタジーでもない。
彼女たちは傷付けば痛いし、すぐに治ることもない。
五感破壊ゲームは、彼女たちの発案ではなく、主人公が無理矢理彼女たちにやらせたのだ。
目をスプーンで抉らせ、鼻をホッチキスで止めらせ、耳に鉛筆を刺させ、舌をハサミで切らせた。
その結果の痛々しい姿で、それでも主人公に好きになって欲しいと訴えていた。大丈夫だよ、何も怖くないよ、と優しく慰めていた。
ヒロインたちみんなで、心に傷を抱えた主人公を、救おうとしていた。
全てを知った主人公はその場で崩れ落ち、懺悔し、泣き、喚き、そして本当の『愛』を知ることになった。
歪み、狂気に満ちた考え方とは決別し、ずっと孤独だった人生に少しの光を見出し、主人公は新しい自分として生まれ変わる決意をする。
主人公の視線の先に、酷く醜い自分の死体が映り、瞬きをすると、その死体が消える。
そして、『これは僕が死ぬまでの……狂気に犯された僕が死ぬまでの、三十日間の記録である』というモノローグでエンディングを迎えた。




