8.さすがキャリーカート
※この話は、バッドエンド、ホラー、胸糞です。
カラオケボックスから一目盛くらいでガソリンスタンドを見つけた。今のところ、ゾンビの姿は見えない。
「おい…真っ暗だぞ?これどうしたらいいんだ?」
「どっかに非常用発電機があるはず。」
「まずそれ探さなきゃならんのか…。」
「俺がいこうか?なんか棒とかあれば足の代わりにぶっ刺して歩き回れるから。」
木下は俺の顔を見て、それから俺の足に視線を落とした。
「いや、いい。今ゾンビいないし、俺が行く。」
俺は車を降りる木下を見守った。木下は存外に手際よくスタンドの事務所のドアを破り、中へと入っていった。こんな犯罪紛いなことをあの木下が手際よくやるなんて。血が流れていれば心臓がキュッとなるくらいショックだった。
会わなかった10年。その間に、黒くてサラサラとしてた髪は、根元の黒い金髪になり、少し小さめの耳たぶに3つのピアス。
少し肉が落ち、骨格が顕になり、全体に彫りの深くなった顔は、果たして加齢によるものだけなのか?
そんなことを考えながら外を見ていると一匹のゾンビが来るのが見えた。まずい。殺さなくては。俺は慌てて車から降りた。うまく立つことができない。
「ああっ!もう!」
軽トラに捕まって荷台まで行き、何か足の代わりになるものを探した。こういう時に限って、これってやつが見つからない。そうこうしているうちにゾンビはスタンドに辿り着いていた。
「くそっ!」
俺はゾンビから目を離さず、手に触れたものを引き出した。
キャリーカートだった。
俺はちぎれた足にキャリーカートの持ち手を捩じ込んだ。緑の肉塊と黒い汁が糸を弾きながらポタポタと落ちる。ダクトテープで抜けないように固定して、ナタを手にスタンドの事務所に急いだ。
さすがキャリーカート。キャスターがついているので、キックボードと同じ要領で漕いでいくとグングン進む。俺は勢いがついたままゾンビに体当たりした。その拍子に事務所のドアに突っ込んだ。
「なっ?!飯島?」
「木下っ!くるなっ!」
俺の体で抑えられているが、ゾンビは剥き出した歯を木下に向けてカチカチと鳴らしている。木下は椅子を手に取るとゾンビを殴りつけた。
俺がいるのに。
木下は何度も椅子を振り下ろした。
俺がいるのに…。
「きっ…木下っ?」
俺の背中に椅子が当たり、粘ついた肉塊が飛び散った。俺は木下の椅子の猛攻から身を躱し、木下の顔を見た。見たこともない冷たい目をしていた。角度のせいか、口角が上がって見える。俺が避けたことで椅子はゾンビの頭にクリティカルヒットし、頭が椅子の足型に凹み、眼球が飛び出した。次に木下が椅子を振り下ろした時にはゾンビの頭は完全に潰れ、眼球の飛び出した穴から灰色の脳みそが流れ出てきた。
それでも木下は椅子を振り下ろし続けた。
冷たい目をして。口角を上げて。激しく体を動かしたせいか頬に赤みが差して、息が荒く乱れていた。
美しかった。
でも何故か、恐怖を感じた。
「木下っ!もういい!やめろ!そいつはもう動かない!」
「はっ…あっ…い、飯島…。」
「発電機は動かせたのか?」
「んぁ…あー、動かした。さっさと給油してここから逃げよう。」
そういう木下は見慣れた木下だった。




