7.そん時ゃそん時だよ。
※この話は、バッドエンド、ホラー、胸糞です。
「飯島ーっ!飯島ぁっ!」
木下が叫んでいるのが聞こえる。
立とうとしても立てない。脚と胴体の間には爆発の衝撃で歪んだロッカーの扉が突き立っていた。片足が取れていて立てない。走るなんてとんでもない。
ここで俺は終わるのか?
そう思った時、ふわっと抱き抱えられた。
木下だ。
そうだ、木下はチームを引っ張るエースだ。投げるも打つも走るも全てこなせる、どこまでも主人公な男だった。
木下は俺の足が取れてることに気がつくと、その瞬足で俺の元に舞い戻り、その強靭な上半身で俺を抱え上げて、また走って軽トラに戻ったのだった。
「さすがエース…。」
俺の背中や足から吹き出す赤黒い腐った体液に塗れることも厭わず抱き上げてくれたのが嬉しかった。
「ばかやろう、野球なんてもう10年やってねーわ!それより、俺、免許オートマなんだよ。マニュアルよくわかんねー!」
俺が教えると木下は二度エンストさせて、三度目に何とか軽トラを発進させた。
「んで?どこ向かやいいんだ?」
「そのまままっすぐでかまわん。」
木下はアクセルをベッタリと踏みこんだ。軽トラのエンジンが悲痛な唸り声を上げるだけで速度は上がらない。
「シフト、シフト!」
俺が声をかけると、アタフタとシフトチェンジした。
「お前、それよりこれからどうすんだ?足なくて。」
言われて、足のちぎれた跡を見てみる。太ももの間くらいからぶっつりとなくて、緑がかった腐った肉が見えている。その間をねばねばした黒い体液が、止めどなく流れ出て、助手席の足元を汚していた。緑がかった腐った死肉を指で触ってみると、指はずぶずぶと抵抗なく沈み込んでいく。マズいなあ、もう時間はそんなに残っていなさそうだ。
「そんなことより、海岸に近いところに大きなホテルがある。そこにゾンビがいなかったら次はそこに隠れよう。」
「そんなことよりって…結構一大事だと思うがなあ、足ないのは…で?そこまで何キロくらいだ?」
「40キロくらいだな。」
木下はサッとガソリンメーターに目を走らせ、その後目を曇らせた。
「マジか…。」
「どうした?」
「ガソリンが後2目盛だぜ?行けるのか?」
ホームセンターよ、メンテナンス不足じゃねーか。それか最後に借りたやつが常識のないやつだったのか?レンタカーは満タンにして返すのが礼儀だと思っていたが。
「途中、どっかスタンドあるよな。」
呆然としている俺に木下が言った。あるにはある。ただ、ゾンビだらけの島で唯一の人間が、電気は止まっているだろうから、どこかにある発電機を探して、動かしてガソリンを入れて…なんて悠長な事をするのは、食ってくださいと言わんばかりだ。
「俺、この足じゃガソリン入れらんねえよ。」
「俺がやんよ…」
「でも、スタンドだってゾンビだらけじゃねーのか?いや、仮にそん時いなくてもすぐに集まってくる!そんな中お前を行かせらんねーよ。」
俺は食い気味で言った。だめだだめだ、そんなことさせらんない。もし俺の考えてる通りなら、どうあっても満足に食えてない腹ぺこなゾンビ達が大挙して押し寄せて来る。
「そん時ゃそん時だよ。」
「じゃあそん時はお前が俺を食ってくれ。」
「そういうの、冗談でもやめろ。」




