6.ハッピーバースデー
※この話は、バッドエンド、ホラー、胸糞です。
「はあ〜…つっかれたなあ。」
木下はソファーに突っ伏してため息を吐いた。俺はゾンビだから疲れとは無縁だが、まだ人間の木下は疲れたのだろう。そりゃそうだ。世界がゾンビまみれになって、隠れて何とか生き延びていたら、小学校の時から今の今まで恋着しているゲイの幼馴染のゾンビに見つかって、大量のゾンビに狙われて。
「木下、お前はなんか食べないとだめだろ?」
木下は眠たげな目で俺を見た。少し潤んだ目は色っぽい。
「えー…なんか食欲ないからいいよ。このまま寝る。」
「わかった。じゃあ俺も横になるわ。」
俺はその辺の床に寝そべった。
「…そうやってると死んでる感強えーな。」
緩く笑いながら眠たげな声で木下が言った。
「死んでる感って何よ?」
「死体だなあっていうね。」
「わけわかんねえな。寝ろよ。」
「うん…おやすみ。」
どれくらい暗闇の中で目を閉じていただろうか?
「はあ…あ…は…」
荒い息遣いと喘ぐような声がする。
「木下?大丈夫か?」
俺がそっと呼びかけると木下の声は止まった。悪い夢でも見てうなされていたんだろう。まだしんどいようなら起こそうと、しばらく聞き耳を立てていたが、その後規則正しい寝息が聞こえた。
俺は起き上がり木下が眠っているのを確認した。
長いまつ毛、少し開いた口、顔にかかるサラサラの髪。木下の主人公然とした綺麗な顔。
この美しい顔に歯を立て、肉を食いちぎり、咀嚼して飲み込んだら満たされるだろうなあ…そう思いながら俺は木下の顔に口を近づけ…キスをした。柔らかい皮膚の下に熱い血が流れている温度を感じる。鉄のようでいて甘い脂の匂い。自分の唇を舐めると、唇についた皮脂と角質から生きてる者の味がした。グッと食欲が湧き上がる。
「う…ん…。」
木下が小さく喘いだ。これ以上はマズい。俺は木下から離れるために外に出た。外には相変わらず映画風のゾンビが集まってきていた。こんなに木下に群がるということは、もうこの島には木下しか生きた人間はいないんだろうか。もしそうなら、絶対にこの島から逃さなくては。俺がスコップを取ろうと後ろを向き、軽トラの荷台に手を伸ばした瞬間、ずっしりと肩に重みを感じた。
「しまった…。」
ゾンビに襲い掛かられ首筋を齧られた。プシュッと音を立てて赤黒い体液が吹き出す。やべえやべえ!俺は手に取ったスコップの先をゾンビの膝に突き刺した。ちょうど関節の繋ぎ目にヒットしたようでゾンビの足は逆の方向に曲がってちぎれ、バランスを崩して倒れた。
「くそがっ!死に晒せっ!」
倒れたゾンビの頭をスコップで突いた。頭皮がずるりと裂けて黒い汁が出て、頭蓋骨が露わとなった。もう一度突いたが流石に骨だ。硬い。そうだ、柔らかいところから狙っていけばいいんだと思い、次は目を狙って突き立てた。灰色に濁った眼球が破裂したが、なかなか脳みそまでは届かない。それでも何度も繰り返していたらスコップが折れて、鋭くなった切先が眼窩から脳みそを突き刺し、ゾンビは動かなくなった。しかし貴重な武器がダメになってしまった。これでは一人倒すののコスパが悪すぎる。俺はカラオケボックスの中に戻り、入り口を入ってすぐのエントランスにある、応接用の椅子やテーブル、その他動かせるありとあらゆるものでドアを塞ぐ即席バリケードを築いた。その向こうでゾンビ達がヴーアー声を上げ、ガリガリと入り口のドアに爪を立てる音が聞こえる。あいつらがなだれ込んでくるのは時間の問題だ。
まだ朝は遠い。どうする?
とにかく室内で攻撃に使えそうなものを見つけてあいつらをコスパ良く遠ざけなくては。しかしカラオケボックスなんて何がある?電気は通じてないから何にも動くものがない。どうしたら…そうか、ガスだ!キッチンならガスボンベがあるかもしれない。即席バリケードは既にガタガタと揺れている。俺はキッチンに飛び込んだ。果たして目的のガスボンベはあった。思ってたのの4分の1くらいのサイズだったがあった。それから運良くバースデーサービス用の蝋燭も。俺はキッチンからそれらを持ち出し、入り口エントランスに運んだ。ドアは既に何ヶ所か亀裂が入り、そこからゾンビ達の青黒い手が飛び込んできていた。俺はガスポンペを開けて即席バリケードの向こう側に置いた。そして、ゾンビが存分に集まった頃を見計らって、バースデーサービス用の蝋燭に火をつけ、即席バリケードの向こうに投げこんだ。ハッピーバースデー!
ものすごい爆音と風圧。
俺は床に身を伏せたが、風圧で服と腐って弱くなってる背中の皮がベロっと剥がれた。木っ端微塵になった椅子やテーブルの破片、衝撃で歪んだロッカーの部品と共に、腕やら脚やら内臓やらの、ゾンビどもの体の部位が降り注いだ。
「飯島っ?何だ今の?!」
木下が慌てふためいて俺の元に走って来た。
「きっ木下。今ならあいつらはいない!車まで走るぞ!』
「飯島っ…お前っ」
立ちあがろうとしてもできない。
「お前、足…。」
木下が言葉を続けた。
俺の片足は取れていた。




