4.お前、俺を助けるんだろ?
※この話は、バッドエンド、ホラー、胸糞です。
「ひのひは!ひふお!」
木下に猿轡をされてるせいでうまく言葉が出ず、俺が何を言っているのかわからない木下はキョトンとした。10年経ち、成長して肉が落ちて骨格が顕になり、全体に彫りが深くなったとはいえ、変わらず大きくパッチリとした目がさらに大きくなっている。くそ。可愛いな。いや、そうじゃない。俺は木下の前に立ち、後ろ手に縛られた手を動かし、木下に歩くよう促した。我に返った木下が俺の後ろを歩き出す。
「おっと…。」
何かに躓いてバランスを崩した木下を体で支えた。
「ひほふへほほ?」
何せホームセンターだ。薄暗い店内の床には、ノコギリだのハンマーだの電動工具だの物騒な物が散乱している。でもまあ、これらはいずれ武器として使える。
木下が俺が入って来た従業員出入り口のドアを開けた。
ゾンビになってまだ日は浅いが色々とわかったことがある。人を食わなければ理性が保てること。人を食わないと痛みで身体中の細胞の腐敗を思い知らされること。食いたい食いたくないの気持ちと関係なく、人を見ると食欲が出ること。そして鼻が異常に良くなること。そのおかげで俺は木下を見つけることができたが、そのせいでホームセンター前の駐車場にヴーアー言ってる映画風のゾンビ達が集まってしまっていた。
「おい、どうすんだ?飯島…お前、俺を助けるんだろ?なんとかしてくれよ。」
そう言われても後ろ手で縛られていては何にもできない。猿轡を噛まされているのでそれを伝えることもままならない。
「ひおひはっ!ほほいへっ!ほえっ!」
俺は間抜けな声を出しながら縛られた両手をふれるだけふって、ロープを解くように訴えた。木下は、「あっ」という顔をして、俺の両手に手を伸ばしたが一瞬躊躇した。
「ひおひはっ!」
俺が叫ぶと木下はグッと下唇を噛んで俺の両手のロープに手をかけた。
「くっそ…しゃあねえな。解いた途端にお前まで襲ってくるとかはなしだぜ?」
「本当に信用ねえなあ。」
俺は自由になった両手で猿轡を外しながら言い、手近にあった斧を手に取りゾンビの群れに切り込んだ。
「いっ…飯島っ!気をつけろよっ!」
木下の応援の声が聞こえた。こんなん、もう頑張るじゃん。
「うおおおおおおっ!」
気合いを入れて、襲ってくるゾンビを次々と薙ぎ払った。ぶった斬られて臭い内容物を撒き散らしながら飛び散る腸、ひしゃげて笑ったような顔になってる首、液状化が進んで黒くてベトベトしたなんかどこかわかんない臓器、黒くて赤いきったねえ汁。体が半分になって尚、臓物を引きずりながら這いつくばって、意地汚く俺に食いついてくるゾンビの頭を斧で叩き割る。硬い骨が砕けて、脳みそがぐしゅっと吹き出す。正直気持ちいい。血が流れてたら勃起してるレベルの快感。
「ははは…あははははははっ!」
気がつくとゾンビは全て腐った臓物ときったねー汁に変わり果て、その真ん中で俺はゲラゲラ笑ってた。
「飯島…?」
「ははっ…あ…木下、無事か?」
振り返ると、青ざめた顔の木下がいた。
「お前こそ…ちょっと齧られてね?足…。」
言われて左足を見るとかまぼこみたいな形にふくらはぎの肉がなくなって、黒い体液が出ていた。
「ああ、本当だ。」
「…痛くないのか?」
木下がしゃがみ込み、俺の足の傷をそっと手でさすった。木下の手には俺の黒く腐りかけた体液がついたが、木下はそれをじっと眺めていた。
「あー…痛いって言えば、ずーっとどこもかしこも痛いんだよ。なんか、細胞が腐ってく感じで。」
「全然そんな感じに見えないけど。」
「一週間くらいで慣れた。」
「慣れるもんか?それ。」
木下がギョッとした面持ちで俺を見た。
「んー、なんか慣れたねえ。痛いのって死と繋がってるから辛いのかもなあ。肩こりとかずーっと痛くてもなんか慣れるじゃん。死なないからさ。それと同じじゃね?」
「肩こりと同じってことあるかよ。」
呆れたように木下が笑った。笑ってくれた。光の笑顔だ。そして、俺の頬をそっと撫でて言った。
「猿轡とか縛った時の後も残っちゃったな。ごめんな。」
言われて手首を見ると、手首もロープの紋様の黒ずんだ痣がぐるりと一周していた。
「あー、血が流れないから鬱血したらそのままなのかね。」
「そうか…ごめんな。」
木下は重ねて詫びてきたが、その目から気持ちを読み取ることはできなかった。




