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狂愛ゾンビランド  作者: 溝野魅苑


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3/12

3.ずっと好きだった。

※この話は、バッドエンド、ホラー、胸糞です。

「来るなっ…来るなあああああああっ!くそっ!この化け物があああああああああーっ!」

半狂乱になってる男を目にして、俺は懐かしさと愛おしさと…食欲を感じていた。

「木下…やっと…やっと見つけた…無事でよかった…。」

そして今、俺は島の繁華街にある小さなホームセンターのバックルームで木下と巡り会えたわけだ。

10年会っていない。その間に木下に何があったのかは知らないが、黒くてサラサラとしてた髪は、根元の黒い金髪になっていた。少し小さめの耳たぶにはピアスが3つ光っていた。碌に髭が剃れていないのか無精髭が生えている。中性的だった面立ちは少し肉が落ち、骨格が顕になり、全体に顔の彫りが深くなっていた。それらが全て28歳という年齢の木下にしっくりきていて、やはり木下だなあと俺は思った。

どうあっても、主人公たる風格の男。

怯える姿すら堂々たる風格。


ああ、好きだ。


「よかった…木下。まだお前、人間だったんだ。」

「何だ?お前…何で俺の名を…あ…お、お前…飯島か?あの…。」

木下は、それを口にしてはいけないと自制したのか、気まずげな顔をして口を手で押さえた。続く言葉は俺が口にした。

「そうだよ…高校の卒業式でお前に告った飯島だよ。」


苦い記憶が蘇る。

木下が島に帰ってきたと風の便りで聞いていたのに、10年経った今でも一度も会っていない理由。

木下が本土の大学への進学を選び、島から出ていくと知ったのは、高校3年の夏だった。

「マジかよ?お前そんなに勉強熱心だったっけ?」

正直、ショックだった。てっきり卒業したら親の会社で暫く修行して、それなりの年齢になったら継ぐもんだと思い込んでいたから。そんな想いはおくびにも出さず、いつもの軽口を叩いた。

「お前いつ時代の人間だよ…今時勉強したいから大学行くやつなんていねえって。」

「じゃあ何で?まだ遊びたいって?」

頭の中で急いてくる「何で?」の濁流を必死で押し留め、軽口の体を保ちながら尋ねる。

「まあ、それもね。でも一番はこの島から出たいんだよ。」

全てを持ち合わせた主人公たる木下でも人間だ。完全な形などはあり得ず、小さな闇を抱えていた。

「島中の全員が、俺が親父の子じゃないって知ってる環境なんてもう無理だろ。」

少し憂いを孕んだ笑み。美しかった。闇ですら、木下を引き立たせる薬味にしかならない。

木下は、島で一番大きな網元の息子ではあったが実子ではなかった。子に恵まれなかった木下夫妻が家の断絶を阻止するために木下の父の弟の子を養子にした。

そしてなぜ一介のモブである俺が知っているかと言うと、島中の誰でもが知っているからだ。地方の狭いコミュニティなんかそんなもんだ。そんな環境から逃れたい。そりゃあそうだろうなとは思うものの、俺は心がギシギシと音を立てているのを感じた。

木下といられるのは後半年。

その半年ですら、木下は夏期講習や模試、通信制の塾での勉強なんかで忙しく、一緒に過ごせる時間は減っていき、俺は一人で悶々と悩むだけの日々を過ごした。今更進路は変えられない。頭も悪いから、木下と同じ大学は目指せないし。木下に懇願する…不自然すぎる。いっそ告白し…いや、それこそ大変なことになる。


ただ考えるだけの日々。


そして結局、何もしないまま、卒業式の日が来てしまった。

女の子達に囲まれている木下を俺は遠くから妬ましく眺めていた。お前らはいいよな、多少なりともチャンスがあって。

「木下。」

女の子達の波が落ち着いた頃、俺は木下に声をかけた。

「ああ、飯島。なんだ、待っててくれたの?先帰ってよかったのに。」

もう二度と一緒に帰ることができないと言うのにそんな勿体無いことするか。

「流石にそれしたら、俺、冷たくね?一緒に帰れるの今日が最後だっつーのに。」

俺の言葉に木下は笑った。

「それもそうだな。お前はそう言う奴じゃねえよな!」

屈託ない言葉に少し胸が痛む。ごめんな、俺の心はそんな友情に厚いわけじゃなくて下心と性欲に塗れているよ。

「じゃあ俺、こっちだから。25日までは島にいるから遊ぼうぜ。」

木下がひらひらと手を振った。

「木下。」

「んー?」

「俺はお前のこと、ずっと好きだった。」

ひらひらと振られていた手が止まった。

「嘘だろ?」

俺は黙って首を横に振った。

木下の顔はサッと色を失った。眉根に皺を寄せ、キュッと唇を噛み締めたその顔には、嫌悪感が露わになっていた。


まさに今、目の前にあるのと同じ顔。


「そうだよ…その飯島だよ。あのあともずっとずっとお前のこと忘れられなくて…未だに童貞の飯島だよっ!」

「いや!そこまでは知らんし!てかよ?お前、もうなってんだろ?ゾンビ…真っ青だもんな。何でそんな普通に喋れるんだよ?何?その恨みで俺食おうっての?逆恨みだぞ?そんなん!」

「違う!俺はっ…俺…は…お前をここから逃したくて…。」

「あっ?はぁ?」

虚をつかれたのか、嫌悪と憎悪を隠すことなく向けてきていた飯島の顔が緩んだ。

「ゾンビになったからって、急に生の人間に齧りつけるかっていうと、やっぱ意外とできなくてさ。人間を食わないまんまでいたらこうなった。」

「そういうシステムなんだ…。」

「知らんけど。」

「知らんのかい。」

「まあでも、死体だし、だいぶ腐ってきたし、このままいずれ無くなるのはそうなんだろうと思ってね、そうなる前にお前を安全なところに逃そうと思ったんだよ。」

木下は、うーん…と唸りながら髪をワシワシとかき乱した。小学生の時からの癖だ。変わってないな。変わらず、愛おしい。

「安全なとこなんてもうねえよ。お前だってテレビやネットで見たろ?世界人口の八割がもうゾンビなんだぞ?」

「知ってるよ。つまりまだそういう作業してる人間がいるってことだろ?」

「おお…そうなるか。」

「だから、俺が守るから港まで行って、船で本土に行ってそいつらと合流しろよ。」

俺の提案に、また、木下は頭をワシワシする。基本的に頭の回転が早い男で決断力もあるから、いつもパッと答えを出してくるが、じっくり考える時はこうなる。

俺が告白した時もそうだった。うーん…と唸りながら、髪をワシワシとかき乱し、じっくり考えた上で返事をしてくれた。

「ごめんな。俺、お前の気持ちに応えられるような人間じゃない。」


断られたのはそうだけど、あれってどういう意味だったんだろう?


「何でそんなことお前がすんの?」

俺の走馬灯を遮ったのは木下だった。

「好きだから。」

「うわ…。」

「いいから、ほら、行くぞ?」

木下は、手を掴もうとする俺の手を振り払った。

「いや…いやいやいや。無理でしょ?今はまだ、お前、理性的だけどさ、左脳が腐ってなくなったら理性ぶっ飛んで急にガブーっと…なんてこともあるんじゃねえの?」

それは確かにそうで、何分俺もゾンビになるのは初めてだからわからないことだらけで、ないとは言いきれない。木下に納得してもらうにはどうしたらいいか。ふと、辺りを見回すとロープの束が目に入った。さすがホームセンターだ。俺はロープを手に取り、木下の眼前に突き出した。

「じゃあ、木下、これで俺を縛ってくれ。猿轡もしていい。俺はお前を食う気はないが、お前がそれで安心できるならそうしてくれ。」

木下は困惑したような、何かを期待しているような複雑な顔をして黙り込んだ。それがどれくらいの長さの沈黙だったか、本当のところはわからないが、その沈黙は気まずすぎて、永遠のように感じた。

「…わかった。」

木下は、はぁっと息を吐くと、ゆっくりとそう答え、俺の手からロープを取ると、荒々しく俺の口にロープを噛ませた。

「あがっ?!」

「…ふっ」

木下の息遣いが聞こえる。

「ひ…ひのひは…?」

木下は荒々しく俺の両手を掴み背中に回すと、手慣れた感じで縄を体に這わせ始めた。縄が木下の手と俺の体を滑るシュッシュという音と熱く、荒い、木下の息遣いだけが聞こえる。

「できたぞ…。」

木下の言葉に顔を上げ、木下の顔を見ると紅潮していた。何となく色気があって、心臓が動いていれば、きっと俺はときめいていた。

「何だよ?その顔…お前が言い出したんだろ?」

木下がバツの悪そうな顔で目を逸らした。

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