11.会えるなら
「はぁ…あっ…あっあっ…」
木下は俺の口にちんこを突っ込み、頭を掴んで腰を振っていた。木下のちんこは出入りする度に黒い体液に塗れてるのが目に入る。当然俺は唾液なんかもう出なくて、口の中にある水分はそれだけだった。
「んくっ!」
木下に強く掴まれた俺の頭から、髪が抜け、頭皮がずるずると剥がれている。
「飯島っ…はは…きったねえなあ…あっ…最低だな…はぁぁ…最低で、最高だよ…。」
木下の顔を見る。興奮で瞳孔の開き切った目、紅潮した頬、だらしなく開き、涎を垂らしている口元。醜い。あまりにも醜悪な姿。
それなのに俺は、まだ俺の主人公だった頃の木下がどこかにいないかと面影を探してしまう。
「んぁっ…いっ…く…!」
木下が身を震わせ、俺の喉の奥に強く、発射直前でさらに太くなったちんこを捩じ込む。生きていたら息が詰まるだろう太さだった。
「んっ!がっ…ぐぁっ!」
腐った俺の喉は破け、ぶしゅぶしゅと汁っぽい音をさせながら木下のちんこに貫かれた。
「ふっ…」
木下のちんこの圧がなくなり、貫かれた俺の首から木下の精液が流れ出た。
「嫌そうな顔してんな。そりゃ嫌だよなあ。俺だって自分が嫌だよ。こんな事でしか気持ちよくなれない化け物だなんてさ。」
木下に何か言ってやろうと思ったが、声帯を壊されて声が出ない。
ホテルに潜伏してから2日経った。
「見て?飯島。見れる?見れないかな?」
木下に首を掴まれ引き上げられ、俺は自分の姿を見た。なくなった手足やナタが打ち込まれた鳩尾、破れた喉、剥がれた背中や頭皮の皮膚から流れ出した赤黒い体液と緑がかって溶け出してるネバネバの死肉が、木下が自ら放った大量の白い精液と混ざり合っている。
木下が目を覚ましてから陽が傾いている今までずっと、木下が俺の腐ってぐずぐずになりつつある体にちんこを擦り付け射精し続けた結果だった。
「すげーよなー。死んで腐ってるお前の体液と、生命の源である俺の精子が混ざり合ってるぜ?」
木下は俺の体を撫で、手についた赤黒い体液と白くドロドロとした己の精子を愛おしげに見てニヤリと笑った。そして、その手を抗う俺の口に突っ込んだ。
「お…えぇ…えっ…。」
俺は木下とその汚ねえ汁への嫌悪がすごくて、受け入れたくなくてなんとか吐き出そうとしえずいたが、声帯を失い、穴の空いた喉からはヒューヒューと隙間風のような音しか出せなくなっていた。
それなのに、愛おしげに汚物のついた手を見つめた木下の、その目を俺に向けてくれと願ってしまう。
ホテルに潜伏して3日経った。
木下は床に蹲っている。
だいぶ痩せて、肋が浮き出ている。そう言えば、木下が何かを食べているのをみていない。いつから?もしかして、出会った時からずっと何も食べていないのか?
俺が見つめていることに気がついた木下がニヤリと笑って立ち上がり、俺の元へ歩みを進めてきた。右手にカッターを持っていた。また、何か気色悪いことを思いついたのだろう。
「飯島のここはもう反応しないの?」
木下が俺のちんこを撫でさすりながら言った。もし俺がゾンビじゃなくて、木下の本性を知らなければ、俺はもう死んでもいい心持ちになれたのだろうなと思う。逆の意味で死んでもいいとは思っているが。舌の半分と声帯がない俺は、首を縦に振ることでしか反応できない。
「でも気持ち良くなったりはするんじゃないの?」
俺は首を横に振った。
正直、俺に細胞が腐っていく痛み以外の感覚はなかった。それは、足が取れても背中の皮が無くなっても変わりはない。寧ろ、体の部位が減っていくと腐っていく細胞も減るから、部位が減れば痛みも減った。
「ふーん。」
木下は暫く俺のちんこを撫でたり扱いたりしていたが、右手に持ったカッターの刃をチキチキと伸ばし、俺のちんこの先に当て、上目遣いに俺を見た。あの頃とは違う、血走って濁った目。ゾッとして体に力が入る。ちんこの先端に当てられたカッターの刃は、裏筋に沿ってまっすぐ下に下された。「ひっ…」
口から声にできない声が漏れ、体がびくんと跳ね上がる。痛いわけじゃない。というか、木下と出会ってからは、細胞の腐っていく痛みすら遠く感じていた。理由はわからない。最初は愛の力ってすげーなくらいに思っていたけど、木下の本性を知り、狂気をぶつけられ、嫌悪感を抱いている今でも痛みが薄いのはなぜだろう?
俺はまだ木下に未練があるのかな…。
「ふっ…っ…むっ…っっ…」
「本当に何も感じないの?なんか感じてるっぽく見えるけどな。」
木下はバキバキに勃起した己のちんこを、俺のちんこの開きと共に握りしめ扱いていた。木下の行動が予想外だし気持ち悪いし…正直怖くて声が出るなら絶叫していた。でも、実際に出たのはか細く漏れる空気の音だけ。逆にそれが木下を興奮させるのか、木下の手は益々ますます動きが早くなり白い飛沫を飛ばした。
ホテルに潜伏して4日が経った。
俺のずっと床に押し付けられてる背中はもう溶けて骨しかない。所謂褥瘡、床ずれってやつだ。
木下はもう座る体力もないのか、ずっと寝転がっている。
もしかして死んでしまったのか。
逃げるなら今のうちだと俺は思って思い切って体を起こそうとした。グズグズとなたの柄が鳩尾の中に沈んでいく。
その気配を察してか、木下がゆっくりと頭を上げた。
痩せすぎて頰はこけ、元々彫りが深かった目元は、もう骨の輪郭が浮き出て、目玉が飛び出しているように見える。
木下は骸骨の目で暫く俺のことを見つめると、俺の方へと這いずってきた。その姿は鬼気迫るものがあり、俺はゾンビだが木下ももう人にあらざる何かになりかけているのでは?と不安になる。必死でなんとか逃れようと更に体を起こすと、なたの刃が骨のどこかに引っかかったのか、にっちもさっちも動かなくなってしまった。
木下はもう目前まで来ている。
焦って無理矢理に上体を持ち上げるとゴキゴキと音がして骨が折れ、俺の鳩尾から飛び出した。
「ふふっ…可愛いな。」
木下は折れた骨を見つめそういうと、震える手を伸ばし俺の手首を握り、そのまま動かなくなった。
俺は起こるであろう何かに身構えたが木下は全く動かない。
今日は何もしないのか?…何も、してくれないのか?
俺はなんでちょっと落ち込んでるんだろう。
ホテルに潜伏して5日が経った。
俺は木下の傍に座っていた。
木下は寝転がって動かない。
「ぃ…!」
呼びかけようとした途端、頬の肉がどろりと溶けて流れ落ち、口を動かすことができなかった。
もう俺はダメそうだな。
木下を目を向ける。
木下は動かない。
痩せたな…もうほとんど骨と皮だ。
木下も、もう死ぬんだろうな。
もしかしたら、食ってやるのが幸せなのかもしれない。
正直、俺はずっと木下を食べたかったが、人間を食べるのは生理的に無理だし、木下のことが好きだから…好きだったから生きて逃げ延びて欲しかった。
でももう…多分それは叶わない。
俺は手を伸ばして木下に触れた。
「ん…飯島…どうした?」
止まって腐って溶け落ちた心臓がドキッとした。その笑顔はあの頃の優しい笑顔だった。
俺の情緒は千々に乱れた。
もし今際の際に木下があの頃の木下に戻るなら。あの頃の木下と会えるなら。
狼狽える俺のドロドロの顔に木下は手を触れて、潰れてない方の目に指を突っ込んだ。
潰れた眼球の黒い涙が肉のない頰を伝った。
黒い涙が。




