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狂愛ゾンビランド  作者: 溝野魅苑


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10/12

10.お前じゃなくてもよかったよ。

※この話は、バッドエンド、ホラー、胸糞です。

朝が来た。

俺の情緒はぐちゃぐちゃだし、木下はうずくまったまま動かない。

「き…木下、ごめんな。その、あの…。」

木下の気持ちを知りたい。俺に触れて、抜いてたってことは、俺をオカズにしてたってことで、それは俺を好きってことでいいんだよな?

「き、木下、腹減ったろ?なんか持ってこようか?」

俺は立ちあがろうとしたが、キャリーカートのキャスターが転がってしまいうまく動けない。俺はキャリーカートが捩じ込まれた脚を見て思った。

落ち着け。落ち着けよ、俺。

気持ちの確認なんて必要ない。だって俺、もう死体じゃん…。木下の気持ちを知ってもどうすることもできないじゃん。それなのに知りたいのは、俺が今気持ちよくなりたいだけだ。

心臓が抉られるような気分だった。

「木下。もう、俺のことはいいからお前は港に行けよ。」

長い沈黙が流れる。

「…嫌だ。」

か細い、震える声で木下が答えた。

もしかして、泣いているのか?俺のために?俺なんかのために?一度振った俺なんかの?

「お前の気持ちは嬉しいけどよ、その、俺はもう実質死んでるんだし、生きてるお前はもっと自分を大事にしてくれよ。」

木下の体が小さく震えた。

「俺の気持ちが嬉しい?」

「お…おお…だって…」

「わかるのか?」

「え…あっ…それは…」

「わかるのかよお?!お前にっ!俺の気持ちがっ!」

木下…?

顔を上げた木下は泣いていたんじゃない…笑っていた。


笑っていた。


「お前…何…んぅっ?!」

木下は突然俺にキスをしてきた。

「んぶっ…ふっ…ゔ…あっ!」

キスなんてもんじゃない。木下は俺の口に吸い付き、舌で抉り出すように俺の舌を引き出し、舌に歯を立てた。

「おあっ…えっ!おあぇっ」

木下を突き飛ばす。舌が半分に千切れてる。木下がニヤっと笑った口から青い俺の舌が落ちた。黒い体液が糸を引いている。

「ああ…いいな…いいよ…飯島。死んで、尚そんな顔ができるなんて…。」

舌舐めずりをし、紅潮した顔で木下が言う。

「ああっ…!」

木下がぶるぶると身震いし、股間を抑え、前屈みになった。生臭い匂いがした。

「木下…お前…。」


木下は射精していた。

木下がゆっくりと俺を見て言った。

「俺はお前から離れないよ。」


俺は卒業式の日のことを思い出していた。

「ごめんな。俺、お前の気持ちに応えられるような人間じゃない。」


あの時は、同性からの恋慕に応えられる性的嗜好じゃないということかと思っていた。いやまあ、確かにある意味そうだ。

「飯島、俺は生まれた時から不良品なんだよ…。」

木下は俺にグッと体を引き寄せ、耳元で囁いた。俺は、目の前にいる何十年も恋着し、この身が消える前に共に過ごしたいと思っていた、俺の主人公である木下が、今まで見たどの時よりも美しく、それなのに悍ましく、恐怖を感じる対象となってしまったことがショックで動くこともできなかった。

「サディストなのは、割と早くから気がついてた…SMは異常性欲とは言えメジャーだからな。みんな軽率にドSだからとか言ってる。暴言とか塩対応とか弄りとか虐めとか…そんなわがままを押し通すためだけにさ。糞食らえだよ。そんなもんじゃない。気になる子ができても、頭に浮かぶのはその子が怪我して血を流してたり青ざめて死にそうになってる姿だけだ。傷つける、いや、最悪殺す、そんな不安で好きな子とも距離を取る。もちろん普通のセックスでなんて勃ちやしねえ。そんな本性を隠しているのが辛かった。辛過ぎた。だからこの島を出たかった。この島を出て都会に出たら、救いがあると思ってた。でもダメだった。」

ひとしきり捲し立てると、木下は俺を抱きしめ、俺の背中の皮の剥がれたところを撫でた。

「俺はサディストどころじゃないんだよ…。」

静かに、吐息のようにその言葉を吐き出した木下の指先に力が込もった。ブチブチと音を立てて俺の背中の肉に食い込んでいき、木下の腕に俺の赤黒い体液が流れた。木下は、うっとりとその様を見つめていた。

「そういう店も行ってみたけど出禁になった。嬢が怖がるからって。そらそうよなー。虐められるのはいいけど死体になりたいわけじゃないのに、俺は相手が死ぬまで痛めつけて、さらにその死体も楽しみたいような奴なんだから。更にお前は異質だって突きつけられただけだったよ。」

木下は、せつな気にも、恍惚としているようにも見えるなんとも言い難い妖艶な表情を浮かべ、二の腕に伝った俺の体液を舌で舐めとり、満足そうなため息をついた。くそ…なんで美しく見えるんだ。

「俺なんてもう人間じゃない、化け物妖怪の類だと思った。なんかもう、なんでもどうでもよくなってさ。大学も辞めて、半グレみたいなことやってた。」

木下は俺の首筋に舌を這わせた。俺はゾンビだから何も感じることはない。ただただ、何十年も思い焦がれた木下の変容に怯えるだけ。そんな俺の姿を見つめていた木下は、俺の首筋に歯を立てた。


木下は、サディストでネクロフィリアだった。


確かにゲイである俺だけじゃなく、誰の気持ちにも応えられないだろう。


「俺はこのまま、お前のそばにいて、死んで腐っていくお前の全ての腐っていく姿を見ていたい。そしてそんな俺に絶望するお前の顔を見ていたい。」

多分、生まれて初めて性的に満たされようとしている興奮から、紅潮し、息を荒くしてニヤニヤ笑っている木下…今のこいつはただの性欲モンスターだ。それなのに、俺はまだこいつが自分を好きになってくれたのか知りたいと思っている。今目の前にいる木下以上に気色悪い恋愛モンスターだ。

「きお…き、き、の、下…。」

舌が半分だと名前をうまく呼べない。

「お、え…え…お、れ…お…の…お、れ、の、こ、と、好き?」

木下は島中の女の子と俺を虜にした笑顔で答えた。

「お前じゃなくても良かったよ。」


左目が溶けて流れ出た。涙のように。黒い絶望の涙のように。


俺の中で何かが砕ける音がした。

もう無理だ。

俺は木下を突き飛ばし、逃れるために立ちあがろうとしたが、足のキャリーカートのキャスターが滑り倒れた。慌てて体勢を保ち直そうとしていると、キャリーカートが取れたが這いずった。

「なあ、おい、俺を助けてくれるんだろ?助けてくれよ…一度も満たされたことない俺の性欲をさあ。」

木下はニヤニヤしながら這いずる俺を見下ろし、ゆっくりと歩いてきた。

俺がモブなら木下は主人公だった。島で一番大きな網元の息子で、勉強もスポーツもできる、背も高く顔立ちも整っている。当然女の子達はみんな彼に恋をしていた。

そんな木下がそんな性的嗜好で、ゾンビだらけの世界で取り繕うこともなく俺に性欲を剥き出しにしてくる。

せめて気持ちがあれば。気持ちがあれば応えられた。

「待てよ、飯島。」

木下は俺に追いつくと蹴飛ばした。ナタを振り上げて向かってくる木下を抑えようと出した手はナタで叩き切られ、そのまま仰向けに倒れるしかなかった。木下はそんな俺の鳩尾にナタを突き立てた。

「ああっ!」

ナタは俺を貫通し床に鋭く食い込んで、俺をその場に釘付けにした。

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