その後
礼拝室へとやって来たリヒトを見て、ゼーゲン司祭は「何故、ここに……?」と驚いた表情を浮かべる。
「……教会の周りは、アサを摂取した者たちで囲んでいるので、入ってこられないはず」
そう、眉をひそめるゼーゲンに、リヒトは「あの化け物たちの相手なら、アサーナトスの優秀な騎士たちが相手をしてくれているよ」と言う。
教会を囲むようにいる化け物は、ヴァンディリアとグランべセル、シセルバンの騎士たちが相手をしており、リヒトは教会内へと入ることができたのだ。
その話を聞いたゼーゲンは「……いくら、アサーナトスの騎士とはいえ、突破することはできないと侮っていたようですね」と少し焦ったように笑みを浮かべると「ですが、ここからはどうかな?」と言うと声を上げる。
「お前たち! 出て来なさい!!」
ゼーゲンがそう言うも、誰も出て来る様子はなく、ゼーゲンは後ろを振り返る。
おそらく、礼拝室の奥にある扉から、誰かが出て来る予定だったのだろう。
扉が開き、ゼーゲンが安心した表情を浮かべたのも束の間、扉から出て来た人物を見、目を見開き驚いた表情を浮かべる。
「先ほどぶりですね、ゼーゲン司祭」
そう言って扉から出て来たのはエーデルで、ゼーゲンは「な、何故あなたがそこに……?」と問いかける。
「何故って彼から話を聞いたので」そう言うエーデルの後ろから、ジークフリートが姿を現す。
彼を見て、リーナは「ジークフリート……! 無事だったのね」と安堵した表情を浮かべる。
ジークフリートはリーナを見ては、胸に手を当てお辞儀をする。
そんなジークフリートをゼーゲンは「まさか、あなたまで裏切るとは」と睨みつける。
だが、ジークフリートは「手を組んだ覚えはありません」と淡々と返す。
「ちなみに、そこの部屋で待機させていた化け物たちは全員捕らえ、教会内にいた司祭らも今頃シセルバンの騎士たちに連行されている」
「無駄な足掻きはせずに、大人しくお縄にかかることだな」
エーデルがそう言ったのと同時に、ノアが礼拝室内へとやって来ては「一緒に来てもらえますね?」とゼーゲンの手首に縄をかけると、シセルバン家の騎士に「連れていけ」と指示を出す。
そして、ノアはナハトの元へと近づく。
「一緒に来て頂けますか」ノアの言葉に、ナハトは頷く。
そんなナハトにリーナは「ナハト司祭」と声をかけると、ナハトはゆっくりとリーナを見る。
「助けてくださりありがとうございます」
まさか、お礼を言われるとは思っていなかったのか、ナハトは驚いた表情を浮かべては、ふっと柔らかい笑みを浮かべる。
彼がそんな人間らしい表情を浮かべるところを誰も見たことはなく、周りにいる人たちは驚いた表情を浮かべる。
だが、ナハトは気にせず「……それはこちらのセリフです。ありがとうございます、ヴァンディリア令嬢」と言うと、そのままノアと歩いて行く。
ジークフリートはリーナたちに一礼すると、ナハトたちの後をついて行く。
「リーナ」ナハトたちの後ろ姿を見送るリーナの名前を呼ぶリヒト。
エーデルもリーナのもとへと駆け寄って来ては二人は「怖かっただろ?」「怪我はない?」と心配したように言う。
そんな二人を見て、リーナは安心したのか足の力が抜け、倒れてしまいそうになるも、リヒトが支えてくれ何とか倒れずに済んだ。
「よくここにいるってわかったね」
そう言うリーナに、エーデルは「ジークフリートが教えてくれたんだ」と話す。
リーナは「そっか」と頷くと、少し震える声で「まただめかと思った」と言うと、二人を見る。
そして「助けに来てくれてありがとう」と笑みを浮かべる。
エーデルとリヒトは「当たり前だろ」「リーナが無事で良かった」と頷く。
こうして、長く続いた神聖国の企みは幕を閉じたのだった。
◇
「父上を事故に見せかけ殺害したのは、やはりゼーゲン司祭とその他の儀式に関わっていた神聖国の連中だった」
程なくして、ゼーゲンたちが行っていた儀式や、関わっていた事件が明るみになり、ヴァンディリア前当主であるクラウスが亡くなったのも、ゼーゲンたちの仕業だとわかった。
そして、クラウスが亡くなる前日に、マグヌスとリーベについて書かれた聖書を見たことがわかり、その聖書をクラウスの部屋から持ち出したのは、メイドのハンナだった。
「大司教の関与も認められ、現在捜査中だそうだ」
エーデルの話に、リーナは「ナハト司祭は……? どうなったの?」と問う。
ナハトは、しばらく事情聴取を受け、事件の関与について調べられていた。
エーデルは首を横に振ると「ナハト司祭の関与は認められず、神聖国を立て直すために大司教に任命されたそうだ」と話す。
いくら内部が腐り切っていたからといって、神聖国を潰すわけにはいかない。
そう考えた貴族院たちは、ナハトを大司教に任命した。
罪を背負い、神聖国を再び正しく導く役目を果たしてもらうという意味も込められている。
「でも、まさかエーヴィッヒのやつが皇位を継承するとはな」
エーデルの言葉に「まぁ、あんなことがあったからね」と頷くリヒト。
皇帝陛下は病の治療とはいえ、禁じられているアサを栽培し、人に投与したとし、自ら罪滅ぼしに皇の座をエーヴィッヒに譲り、完全に表の舞台から身を引くことを宣言した。
その際、陛下が全ての罪を背負うと宣言し、シャッテンヴェヒターの団長やマティアスの名は出ることはなかった。
団長やマティアスはその実験を認知はしていたものの、実際に関わってはいなかった。
一見、陛下が全ての罪を背負い、表舞台から引いたように見えるも、実際はエーヴィッヒに全ての面倒事を押し付け逃げたのだ。
そして、エーヴィッヒの婚約者であるブリューテとそのメイドであるハンナは、ゼーゲンと協力し、ヴァンディリア公女を誘拐し、殺害しようとした罪で現在、投獄され、エズワルド侯爵家は爵位を剥奪された。
ブリューテとは婚約を破棄したものの、陛下とブリューテの皺寄せがエーヴィッヒに来て、毎日対応に追われていた。
そして、月日は流れリーナは十九回目の誕生日を迎えようとしていた。




