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公爵家の養女  作者: 透明
最終章 終幕
94/98

事実

 


 何かおかしい……。


 ハンナに言われ、温室へと向かうリーナたち。

 その最中、リーナはある違和感を覚えていた。




 やけに静かすぎる気がする。


 いつもなら、温室まで行く途中で使用人や、騎士たちに会うはずなのに。


 もう温室が目の前なのに、誰一人として会わない。




 ほとんどの騎士たちが、屋敷を空けているからかもしれないけれど、それでもここまで来るのに見張りが一人も居ないのはおかしい。




 リーナは不審に思ったため、引き返そうかとハンナとジークフリートに声をかけようとした時だった。


 ハンナが突如足を止めたため、リーナはハンナとぶつかってしまいそうになる。



 リーナは「ハンナ? どうしたの?」と問いかける。


 その時、リーナの頭の中で何かがよぎる。




 それは、過去に戻ってくる前、リーナが殺されてしまう前日。


 リーナの部屋の中で、誰かと話している場面だった。



 相手はメイド服を着ており、その顔はよく見覚えがある。




 「ハンナ……?」




 記憶の中のメイドの顔と、こちらを振り返るハンナの顔が重なる。


 そして、そうだったと思い出す。




 あの日、ハンナのお勧めのお店に、エーデルとシュタインのプレゼントを買いに行ったんだった。


 ……でもどうして今、そのことを思い出したんだろう?



 

 「お嬢様」ハンナはリーナを振り返ったかと思えば、そうゆっくりと呼ぶ。


 そんなハンナに返事をしようとした時だった。




 「お嬢様! 走ってください!!」


 「え……」




 突如、ジークフリートがそう大きな声を出したかと思えば、リーナの手を引き走り出そうとする。


 だが、リーナたちの目の前に現れた()()を見て、足を止める。



 前に一度、エーヴィッヒと共に目にした、恐ろしく気味の悪いそれを目の前にし、リーナの足はすくむ。




 「いつの間にこんなに……」




 リーナとジークフリートの周りには、例の化け物が囲むように立っている。


 リーナも、敵の気配には敏感なはずのジークフリートも、その存在を目にするまでは気が付かなかった。



 ジークフリートは、リーナを庇うように立っては、剣を抜き、化け物たちに剣先を向ける。




 「こんなに大量の化け物……エズワルド令嬢ではないな。ゼーゲン司祭の差金か」




 ジークフリートは、肩越しに顔を後ろに向けては、リーナの後ろにいるハンナを睨みつけながらそう話す。



 

 「エズワルド令嬢……? ゼーゲン司祭の差金かって……?」




 そうジークフリートの言っていることが理解できていないリーナとは違い、ハンナは「あなたには関係のないことです」と淡々と返す。


 その光景に、リーナは戸惑うも、今はどういうことか尋ねている暇はない。




 「お嬢様、私の側を離れないでくださいね」




 ジークフリートの言葉に、リーナは頷く。


 ハンナの「捕まえて」という言葉に、化け物たちはリーナとジークフリートめがけて来る。



 それをジークフリートは、リーナを守りながら剣で斬っていく。


 初めて、ジークフリートが剣を振るっているところを見たが、騎士たちの噂通り強かった。



 大柄な体で剣を振るっているので、豪快だが、決して力任せだけではない。


 ジークフリートは強い。



 けれど、相手はあの化け物。


 普通の人間とは違い、一振りだけでは倒れることはない。



 リーナを守りながら、一人で何体もの相手をしているので、日頃鍛えているジークフリートでも辛そうだ。




 こんなに化け物が集まり、剣を振るっているのにも関わらず、誰も助けが来ない。


 やはり、誰も寄らないように温室周辺の人を払ったのだろう。



 リーナが何とかして屋敷内にいるバルドゥールや他の騎士たちに助けを求めることはできないか。


 そう考えていた時、ジークフリートの手から剣が落ちた。




 「ジークフリート!! 後ろ!!」




 リーナが気づき、そう叫びながらジークフリートを庇おうとするも、遅く、ジークフリートに向かい、一体の化け物が拳を振り上げた。


 その瞬間、二メートルは超えるジークフリートは、宙に舞った。



 あまりにも衝撃的なことで、スローモーションに見える。


 ドサッと音を立て、ジークフリートはその場に転がる。




 「ジークフリート!!」




 リーナはジークフリートのもとへと駆け寄ろうとするも、目の前を化け物が塞ぎ身動きが取れなくなる。


 バケモノの隙間からジークフリートが見えるも、動いている様子はない。




 「そ、んな……」




 リーナがそう震える声で呟いた時。


 鈍い音が響くのと同時に、リーナは意識を手放した。







 「……お姉ちゃん……お姉ちゃん……!」




 薄っすらと開く視界の中、どこからかまだ幼さを残す少女の声が聞こえて来る。


 お姉ちゃん……? と不思議に思いながら、その声を頼りに目を覚ます。



 視界の先には紫の髪をし、紫の瞳を持つ少女が、安堵したような表情を浮かべていた。




 「ここ、は……」




 リーナは辺りを見渡しては、自身の手首と足首を縄で縛られていることに気がつく。


 ふと隣にいる少女を見てみると、少女も同じように手首と足首を縄で縛られていた。




 「良かった……お姉ちゃん、死んじゃったのかと思った」




 涙で濡れた跡がある顔で、笑顔を見せる少女。


 そんな彼女に、リーナは「あなたは……?」と問いかける。




 「私はリア。お姉ちゃんと同じ、フォルトモント出身だよ」


 「フォルトモント……!」




 リーナは思い出す。


 そういえば、温室にハンナとジークフリートと向かい、襲われたのだったと。




 ジークフリートは!? と辺りを見渡すも、リーナとリアという少女だけで他に誰もいない。


 そんなリーナに「どうしたの?」と首を傾げるリア。



 リーナは「ここはどこかわかる? どうして私たちは縄で縛られているの?」と問う。


 リアはゆっくりと「ここがどこかはわからない」と首を横に振る。




 「けれど、お姉ちゃんのことは、背の大きな男の人が運んできたよ」


 「大きな背の男の人……?」


 「うん。ローブを身に纏っていたの」




 ローブ……神聖国の人間?

 だったらここは、神聖国の中?


 そういえば、ジークフリートがハンナに向かって、ゼーゲン司祭の差金かって言っていた。


 その前にはエズワルド令嬢の名前も……。




 リーナがそう考えていた時だった。


 鉄の扉が開いたかと思えば、誰かが中に入ってきた。



 リーナはその人物を見ては、酷く驚いた顔を浮かべる。




 「ごきげんよう、ヴァンディリア令嬢」


 「エズワルド、令嬢……」




 部屋の中に入ってきたのは、エズワルド令嬢、ブリューテとハンナの二人だった。


 リーナは、ハンナを見ては「……この状況、説明してくれる?」と言う。



 すると、ハンナではなくブリューテが「見た通り、あんたはハンナに騙されたのよ」と馬鹿にしたように言う。




 「ハンナは元々私のメイド。私の指示で、ヴァンディリアでメイドとして働いていたの」


 「どうしてそんなことを?」


 「どうしてって……」




 ブリューテはそう言うと、リーナを思い切り睨みつける。




 「あんたの行動を監視するためよ」


 「行動を……?」


 「あんたが気に入らないから、随時報告させていたの。何か弱みでもあれば、それをばら撒いてやろうと思ってね」




 ブリューテは「それに」と続ける。




 「これはゼーゲン司祭の頼みでもあったからね」


 「ゼーゲン、司祭……」




 リーナは、なるほどと納得する。


 前世、なぜいきなり私を殺した犯人にブリューテの名が上がったのか。


 恐らくそれは、前世でもブリューテとゼーゲンは手を組んでいたのだろう。



 だが、ゼーゲンの裏切り……というよりかは、初めからブリューテに全ての罪をなすりつけようとしていたのだろう。


 私が殺されたのは、全てブリューテの嫉妬から来たものだということにされていた。




 「あんた、フォルトモントとかいう血を引いているんだって? 良かったわね。ヴァンディリアの血を引いていないから、何の役にも立たないと思っていたけど、少しは役に立つじゃない」


 「フォルトモントのことを知っているの……?」




 リーナは驚いた表情を浮かべては「……だったら、ゼーゲン司祭が何をしようとしているかも知っているの?」と問う。


 だが、ブリューテは「そんなの知るわけないじゃない」と言う。




 「ただ、フォルトモントはアサーナトスにとっては害でしかないから、始末しなくてはならないって」




 リーナは、儀式のことやゼーゲン司祭の本来の目的は聞かされていない? と眉をひそめた。


 でも、始末すると知っていながら、私を捕まえることに協力したのは事実。



 どちらにせよ、ここにいるのはまずいわね……。




 その時。


 扉が再び開いた。かと思えば、よく見知った人物が姿を現し「皆さん集まっておられたのですね」と気味の悪い笑みを浮かべる。



 その人物に、リーナは「ゼーゲン司祭……」と警戒心を強めるのだった。

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