私の話
荒くなった息を整えては、リーナは頭の中を整理する。
今夢で見たことが、私が亡くなった後の世界の出来事なら、例の化け物を生み出しているのも、ゼーゲン司祭ということ……?
『普通の人間に我々が手を加えたアサを摂取させ続けてできた存在です。普通の少量のアサを摂取しても中毒症状を起こすだけですが、我々が開発した新たなアサを摂取させ続けることで、人を超えた存在になれる』
先ほど見た夢を思い出しては、体が震える。
夢で見たことはおそらく本当だろう。
陛下たちも、治療薬としてアサを使った実験を、囚人に行っている最中、体に合わず狂った人がいたと言っていたし。
まさか、自分が亡くなった後にノアやヴィルスキン辺境伯、そしてリヒトが殺されていたなんて。
それにエーデルだってもしかしたら……。
「……人が行うことじゃない」
もし、ゼーゲンたちが過去の通り、再びマグヌスを復活させ、アサーナトスを乗っ取ろうとしているのなら、それを阻止しなければならない。
けれど、リーナ一人では止めることができない。
リヒトやエーデル、他の人たちの力を借りなければ。
そうなれば、必然的に皆に自分が過去に戻って来たことを話さなければならない。
信じてもらえるだろうか。
変なふうに思われないだろうか。
そう不安な気持ちは出てくるも、リヒトとエーデルならきっと信じてくれるはず。
リーナは、リヒトとエーデルに全て話す決心をするも、緊張で夜が明けるまで眠ることはできなかった。
◇
「ごめんね、いきなり集まってもらって」
朝になり、リーナはエーデルには直接、リヒトには文を出し、話しておかないといけないことがあるから、話す機会をくれないかと尋ねた。
エーデルはいつでもいいと言うも、リヒトも一緒の方がいいのなら、リヒトが集まれる時に聞くよと言ってくれ、リヒトは手紙を受け取るとすぐにヴァンディリアへとやって来てくれたのだった。
集まってくれたことに謝罪するリーナに「気にしないで」とリヒトとエーデルは言う。
相変わらず、優しい二人。
そんな二人だからこそ、今からする話を聞いて一体どういった反応がくるのか分からず、緊張で手は汗で濡れ震えた。
二人は優しいから、きっと真剣に話を聞いてくれるだろう。
けれど、もし、過去のことを話して二人が私のことをおかしな奴だと思ったら……?
それで拒絶されれば、私は……。
そう考えるリーナに、リヒトが「リーナ?」と名前を呼ぶ。
その声にハッとしたリーナは顔を上げると、リヒトとエーデルが心配そうにこちらを見ている。
「……顔色が悪いけど大丈夫か?」
そう心配そうに尋ねてくるエーデル。
リーナは「だ、大丈夫だよ」と笑みを浮かべるも、自分でもおそらく引きつっているのであろうことがわかった。
そんなリーナにリヒトは言う。
「今からリーナが何を話すのかは分からない。けれど、俺もエーデルも絶対にリーナのことを否定もしないし、何を聞いてもずっと味方だから」
「だから何も気にせずに話して」
そう穏やかな口調と表情で言うリヒトに、リーナは泣きそうになる。
何も言わなくても、心情を察してくれる。
エーデルも隣で頷いている。
「もし、今日話すのが無理そうなら話せる時でもいいよ」
リヒトの言葉に、リーナは「……ありがとう、二人とも」と言うと「私の話、聞いてくれる?」と問いかける。
リヒトとエーデルは顔を見合わせて「もちろん」「あぁ」と力強く頷く。
そして、リーナはゆっくり口を開くと、今まで誰にも話すことのなかったリーナの過去の話をする。
過去では、エーデルとシュタインとは今みたいに親しくなかったこと。
リヒトともそこまで親しくはなく、ノアと婚約をしていたこと。
そして、自分は十八歳でゼーゲン司祭含め、神聖国の人間に儀式の生贄にされこの世を去ったこと。
この世を去ったはずなのに、気がつくとヴァンディリアの自分の部屋のベッドの上にいたこと。
そして、自分が亡くなった後、ゼーゲン含め神聖国が行ったこと。
知っていること全て余すことなく、リーナは二人に話す。
リーナが話をしている間、二人は何も言わずにただリーナの話に耳を傾けてくれていた。
話している最中、手は震え、何度泣きそうになったがなんとか二人に最後まで話すことができたリーナは、少し落ち着かせるために席を外していた。
「――リーナの話、どう思う?」
談話室に残ったエーデルとリヒトは、先ほどリーナから聞いた過去の話について話していた。
エーデルの問いに、リヒトは「……凄く信じがたいよね。」とゆっくりと言う。
「けれど、リーナはつかなくていい嘘をついたりしない。それに、たとえどんな事でも俺はリーナがそう言うなら信じるよ」
リヒトの言葉に、エーデルは「……それは俺も同じだ」と頷く。
「過去に戻って来たのに恐らく、フォルトモントの力が関係しているんだろうけど、本当にそういったことが起こるだなんて……リーナの話は信じるけど、信じられないことだよな」
エーデルの言葉に、リヒトは「そう、だね」と頷く。
「リーナはそんな怖くて辛い思いをして、とても信じがたいことを体験したのに、今までずっと誰にも言えずに、一人で抱えていたんだよね。」
そう話すリヒトを黙って見つめるエーデル。
「もう少し、俺たちが頼れる相手だったら、リーナも一人で抱えなくて済んだのかな」と零すリヒトに、エーデルは「……さぁな。リーナは俺たちに心配かけるのを嫌がるからな。俺たちに頼りがいがあっても、話していたかどうかは分からない」と言う。
「でも、遅かれ早かれリーナは俺たちに話してくれたって事は、俺たちを頼りにしてるってことだろ。何があっても必ずリーナを守るぞ」
エーデルの言葉に、リヒトは少し目を見開いては「……そうだね」と力強く頷く。
そしてその晩、リーナから話を聞いたエーデルとリヒトはある夢を見る。
それは夢と呼ぶにはあまりにも生々しく、現実というにはあまりにも恐ろしく悲しいものだった。




