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公爵家の養女  作者: 透明
最終章 終幕
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本当の結末



 ユリスの図書館の前で、人のようなものにやられその場に倒れ込んでしまったはずなのに、何故かリヒトは、薄暗く冷たいどこか建物の中に木の椅子に縛り付けられ座っていた。


 まだ朦朧とする意識の中、辺りを見渡すリヒトの元にコツコツッ――と足音が聞こえてくる。



 そして、部屋の前で止まったかと思えば、ギーッ――と音を立て、部屋の扉が開く。




 『おや? お目覚めですか?』




 リヒトの目の前にやって来た人物の声が、頭上から降ってくる。


 その声はよく聞いたことがあり、リヒトはゆっくりと顔を上げ、虚な目を向けては『ゼーゲン……』と呟く。




 『ご気分はいかがですか?』




 そう笑みを浮かべるゼーゲンをリヒトは『やはりお前の仕業だったのか……』と睨みつける。


 だがゼーゲンは首を傾げては『はて? 何のことでしょう?』ととぼける。




 『とぼけても無駄だ。気味の悪い化け物に俺らを襲わせたのはお前たちだろ? ヴィルスキン辺境伯はどうした? 他の騎士たちもいただろ……?』




 リヒトの問いに、ゼーゲンは『……あぁ。彼らならぐっすりと眠っていますよ。それはそれは死んでいるかのようにね』と話す。


 その言葉にリヒトは『お前……!』と体を動かそうとするも、椅子に縛られているため思うように動かない。



 そんなリヒトを見て『おー、怖い。そんないきなり動いては傷が開きますよ?』とさほど怖くなさそうに言う。




 『……シセルバン伯爵もお前たちの仕業か?』




 そう落ち着かせるように息を吐きながら問うリヒトに、ゼーゲンは『彼がいけないんですよ』と眉を下げる。




 『神聖国(我々)の秘密を暴こうとするのが。神の天罰が降ったのですよ』


 『神の天罰……? お前たちが手にかけたのに、天罰も何もあるか。それとも、生涯を神に捧げているあまり、自分が神にでもなったと勘違いしているのか?』




 リヒトは眉をひそめ、鼻で笑うと『それでヴァンディリア令嬢も手にかけたのか?』と問う。


 その声は低く、微かに震えており怒りが伝わってくる。




 『……何のことを言っているのかわかりませんね。ヴァンディリア令嬢を殺害したのは、エズワルド令嬢含めパラディースの盗賊のはずですが?』




 そう首を傾げるゼーゲンに『とぼけるつもりか?』とリヒト。




 『とぼけるも何も、我々には関係のないことですから』


 『……だったら何故、ヴァンディリア令嬢の死について調べている俺やシセルバン伯爵、ヴィルスキン辺境伯を襲った?』


 『調べられてまずいからだろう? 一体、何を企んでいるんだ?』




 リヒトの問いに、ゼーゲンは『……まぁ、隠す必要もありませんか』と呟くと言う。




 『あなたの言う通り、ヴァンディリア令嬢の死は我々が行った事です。ですが、我々だって好きで彼女を手にかけたわけではありません』




 そう話すゼーゲンに『……だったら何故、彼女を手にかけた?』と睨みつけるリヒト。


 すると、ゼーゲンは両手を広げ、天を仰いでは『全てはマグヌスのため』と言うのだ。



 その言葉に『マグヌス?』とリヒトは更に眉をひそめる。




 『我々はかつてマグヌスが存在し、神聖国(我々)が主だった時代をまた作り上げるため、そしてそれが我々の神であるマグヌスの望みのため、古くから私たちはマグヌスを復活させる儀式を行っていました』


 『復活……?』


 『そのための条件に合っていたのが彼女、ヴァンディリア令嬢だったというわけです』




 あまりにも非現実的な話に、リヒトはわけがわからないと眉をひそめている。




 マグヌスの復活……? 死んだ人間を生き返らせることなんてできるわけない。


 けれどもこいつらは、それを信じ込み、彼女を死に追いやった。



 イカれているとは思っていたが、ここまでかと怒りを通り越して、恐怖すら感じる。




 『……それで、その計画を邪魔するかもしれないシセルバン伯爵を殺し、俺たちを襲わせたのか』




 リヒトの言葉に笑みを浮かべるゼーゲン。


 『だったら何故、わざわざ俺をこんなところに連れて来たんだ?』とリヒトは問う。



 リヒトとヴィルスキン辺境伯たちは、図書館の前で襲われた。


 殺すのならあのままにしておけばよかったのに。



 そう思うリヒトに、ゼーゲンは『それは、一つあなたに提案があるからです』と言う。




 『提案?』


 『我々はこのアサーナトスという国を、世界のトップに立たせるため、ある実験を行なっています』




 ゼーゲンの言葉に『実験……?』と眉をひそめるリヒト。


 ゼーゲンは頷いた。すると『アサーナトスの軍事力は高いですが、世界の上に立つにはまだ足りない。他の国が手も足も出せぬ絶対的な力が必要だと考えた私たちは、アサと言う植物を使い、ある存在を生み出したのです』と言う。



 その言葉にリヒトは『まさか……』と目を見開く。




 『そうです。あなたとヴィルスキン辺境伯を襲った()()ですよ』




 リヒトの頭の中に、先ほど見た人間の姿形をした化け物を思い出す。




 『あれは、普通の人間に我々が手を加えたアサを摂取させ続けてできた存在です。普通に少量のアサを摂取しても中毒症状を起こすだけですが、我々が開発した新たなアサを摂取させ続けることで、人を超えた存在になれる』


 『まぁ、あなた方を襲った物たちはまだ、実験段階ですがね』


 『これから調教し、いずれは戦場で戦えるようにしなければ、ただの理性を失い狂った屍にすぎませんから』




 そう、平然と話すゼーゲンの話についていけないリヒト。


 人の姿形をしていたとは思ったが、まさか本当に元は人間だったとは。


 見開かれた目に、裂けた口。


 到底、理性を持っていた人間だったとは思えないほど、狂いイカれていた。




 未だ理解が追いつかないリヒトに、ゼーゲンは言う。




 『そこで提案なのですが、是非、あなたには彼らの調教を担当していただきたい。帝国の剣と呼ばれるグランベセル公子直々に調教をして頂ければ、最強の剣士が出来ることに違いないですから!』




 そう意気揚々と話すゼーゲンに、リヒトは『なるほど……』と呟くと『殺されたくなければ、化け物の世話係をしろと』と言う。




 『話が早くて助かります』




 そう笑みを浮かべるゼーゲンに、リヒトは『化け物の世話をするくらいなら、死んだ方がマシだ』と笑う。


 そんなリヒトに、ゼーゲンは『あなたは冷静で聡い人だと思っていたのですがね。本当にそれでいいのですか?』と眉をひそめ問う。



 だが、リヒトの意見は変わらず頷くと『なら、仕方がないですね』とゼーゲンは言う。




 『まだ他に頼れる者はいます』


 『他に……?』




 リヒトがそう眉をひそめた時、扉を叩く音がしたかと思えば『ヴァンディリア公爵をお連れしました』という声が聞こえる。


 その声に、リヒトは『まさか……!』とハッとした表情を浮かべては、ゼーゲンは『やっと気づきましたか? 

帝国の剣はもう一人いる。一人に断られれば、嫌でも協力してもらうまでです』と話す。




 『これ以上、エーデルを巻き込むな……!』




 リヒトはそう言って、体を椅子から離そうとする。


 その瞬間、リヒトの背後から音がしたかと思えば、後ろには扉がありそこから入って来た人物により、リヒトは頭を強打されそのままその場に倒れてしまう。







  辺り一面は炎に覆われ、人々の逃げ回る声が聞こえる。


 足元を見てみれば、剣に矢、そして動かなくなってしまった甲冑を身につけた人たちが、血を流し横たわっている。



 何とも悲惨な光景から、思わず目を逸らしてしまう。


 そんな中、悲鳴とは違う唸り声のようなものが聞こえて来る。



 何事かとそちらに目を向けてみれば、甲冑を着用した人。


 にしては、動きが人間離れしており、到底人とは呼べない()()が剣を構え、向かって来る者たちを素手で投げ飛ばして行く。



 その光景は、あまりにも現実味がなく、恐怖よりも困惑が勝つ。


 そんな光景を見ていた背後で、悲鳴が上がり、後ろを振り返ると何とも恐ろしい顔をした人間が、直ぐそこまで来ていた。




  「――はっ……!」




 心臓が激しく脈を打ち、息が上がっている。

 まだ夜も明けきらず、部屋の中は暗い。


 夢だと分かり、胸を撫で下ろすも、あまりにも生々しい光景に体を震わす。




 「もしかして、今の……私が亡くなった後に起きたこと……?」




 そう呟くリーナの頰は涙で濡れていた。

 

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