とある結末のその後
『――シセルバン伯爵から連絡は来ましたか?』
グランべセル公爵家、リヒトの部屋。
そこにはリヒトとヴィルスキン辺境伯の姿があり、ヴィルスキン辺境伯の問いに、リヒトは眉をひそめては首を横に振る。
『シセルバン伯爵が、何日も連絡が取れなくなるということは今までありません。何かあったと考えた方がいいでしょう』
ヴィルスキン辺境伯の言葉に、リヒトは頷き『シセルバン伯爵家へと様子を見に行ったほうがよさそうですね』と話すと、ヴィルスキン辺境伯は『私も行きます』と頷く。
『念のため、私の騎士たちも同行させましょう』
『ありがとうございます』
二人は二日ほど前から連絡が取れなくなったシセルバン伯爵の様子を見に行くため、シセルバン伯爵領へと向かおうと、部屋から出ようとした時だった。
コンコンッ――と扉を叩く音がしたかと思えば『リヒト様、至急お伝えしたいことが――』と慌てたような声が聞こえてくる。
リヒトとヴィルスキン辺境伯は目を合わせ、リヒトの頭に嫌な予感が流れる。
『入れ』とリヒトが言うと、扉が開きグランべセル騎士団の団長が立っていたかと思えば、神妙な面持ちで言う。
『……たった今、シセルバン伯爵様が亡くなられたと伯爵家より訃報が届きました』
『……は?』
団長の言葉に、リヒトとヴィルスキン辺境伯は訳が分からないとでも言いたげな表情を浮かべる。
『シセルバン伯爵が、亡くなった……?』
リヒトの問いに、小さく頷く団長。
ヴィルスキン辺境伯は『死因は?』と問うと、団長は『事故とだけで、詳しいことは……』と答える。
『公子』とヴィルスキン辺境伯は、リヒトの方を見るとリヒトは頷く。
恐らく、シセルバン伯爵は神聖国の人間に〝殺されたんだろう〟
リーナの死に不信を持っていたリヒトとノア、ヴィルスキン辺境伯は、リーナの死に神聖国が関わっていると踏み調べていた。
そしてつい二日前、ノアからリヒトとヴィルスキン辺境伯の元に、神聖国についてわかったことがあると文が届いたのだ。
ノアはシセルバン伯爵領を離れているため、二日後の今日、グランべセル家で集まろうとのことだったのだが、リヒトやヴィルスキン辺境伯が文を送っても連絡が返ってこなかった。
もしかしたら、シセルバン伯爵家へと帰っているのかと思い、シセルバン伯爵家へと向かった二人。
だが、ノアは留守にしたままで、使用人たちもノアがどこへ向かったのか分からないと聞き、ノアの居場所がわからない状態だった。
そして文に書かれていた通り、グランべセルに集まったのだが、ノアは姿を見せなかった。
何かあったことは間違いない。
二人はもう一度、シセルバン家へと様子を見に行こうとした矢先に、この訃報。
『シセルバン伯爵がどこへ行っていたのか分かれば、シセルバン伯爵が言っていた神聖国についてわかったことというのが何なのかが分かりますが……』
ヴィルスキン辺境伯の言葉に、団長が『……それなら、分かるかもしれません』と言う。
『え? 分かるって?』
『はい。訃報の文と一緒に、シセルバン伯爵家から文が届いておりまして、それに、シセルバン伯爵が家を出る前に秘められた地について調べていたと書かれてありました』
秘められた地。
その言葉を聞き、リヒトとヴィルスキン辺境伯は顔を見合わせる。
『ユリスのことですね。シセルバン伯爵領からはかなり時間がかかるので、ユリスにいた可能性が高いですね』
顎に手を当て話すリヒトに、ヴィルスキン辺境伯は頷くと『直ぐにユリスへと向かいましょう。何かわかることがあるかもしれません』と言う。
『――本当ですか、それは』
ユリスにやってきたリヒトとヴィルスキン辺境伯は、ユリスにある孤児院の先生に、シセルバン伯爵という人物がここに来ていなかったかと尋ねた。
すると、孤児院の先生はシセルバン伯爵が来ていて、図書館で調べ物をしていたということを教えてくれたのだ。
すぐさま、リヒトとヴィルスキン辺境伯はユリスにある図書館へと向かう。
『……孤児院の方の話では、東棟側にある図書室に行っていたとか』
ユリスにある図書館の前へとやってきたリヒトとヴィルスキン辺境伯は、古びた図書館を見てはそう話す。
『ユリスの図書館は神聖国と皇宮の図書館に次いで古く歴史がある。それに、秘められた地と呼ばれるくらいです。シセルバン伯爵が何かを見つけたとしたらここしかありませんね』
リヒトの言葉にヴィルスキン辺境伯が頷き、図書館の中へと入ろうとした時だった。
背後から地面に落ちている枝を踏む音がした。
その音に、二人は後ろを振り返る。
『……誰だ?』
そこには、俯きながら立っている一人の男性がいた。
どこか怪しい雰囲気を纏うその男性に、リヒトがそう問うも、返事は返ってこない。
『様子がおかしいですね』
ヴィルスキン辺境伯がそう言い、警戒しながら男性に近づこうとした時。
男性の顔が不自然に正面を向いたかと思えば、目玉がこぼれ落ちてしまいそうなくらい見開かれた目と視線が合う。
こいつはまずい。二人は瞬時にそう判断し、剣を抜き男性に向け、近くで待機していた騎士たちも出てきて、男性を囲む。
通常の人間の目をしていない。
薬物でもやっているのか?
リヒトがそう考えていた時『グランべセル公子!!』と呼ぶヴィルスキン辺境伯の声が聞こえ、そちらに目を向けると、思わず目を疑いたくなるような光景が目に入る。
『……どうなっているんだ?』
そこには、目の前にいる男性のように目玉が飛び出しそうなくらい目を見開き、裂けているのではないかと思うくらい大きな口をした者たちが、気味の悪い笑い声を上げながらこちらに向かってきているのが見えた。
『人間、ですよね?』
『だと思いたいですが、人間というよりまるで……』
まるで化け物のよう。
リヒトはその言葉を飲み込んだ。
ただでさえ、混乱した状況の中、その言葉を口にしてしまえば更に混乱を招く。
『とにかく、この者たちを捕らえましょう』
ヴィルスキン辺境伯の言葉に、リヒトが頷いた時。
一人の人のようなものが、奇声を発した。
かと思えば、他のものたちも奇声を発し、ケラケラと笑いながらリヒトたちに向かい走り出したのだ。
その得体の知れぬものたちに、騎士たちが同様し、動きが遅れる。
そんな中、リヒトとヴィルスキン辺境伯は瞬時に対応していく。
だが、相手は生身だというのに、力が強く押されてしまう。
そして次々と騎士たちはやられていき、とうとうリヒトとヴィルスキン辺境伯の二人もその場に倒れ込んでしまった。




