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公爵家の養女  作者: 透明
最終章 終幕
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実験



 皇帝付きの執事に連れられやって来たのは、皇帝宮にある談話室だった。


 皇帝宮は限られた者、招かれた者しか立ち入ることができない場所。



 いくら血の繋がりがあるエーヴィッヒですら、許可がないと立ち入れないことになっている。


 そんな場所に何故、リーナたちを招いたのか。



 皆目見当がつかない中、エーヴィッヒだけは何か思い当たる節があるようだ。




 執事がコンコンッ――と談話室の扉を叩くと、中から陛下の「入ってくれ」と言う声が聞こえてくる。


 執事が「失礼いたします」と扉を開き、リーナたちに「どうぞ」と視線をやる。



 エーヴィッヒを先頭に談話室に入るリーナたち。




 え……? 談話室に入り、リーナは驚いた表情を浮かべる。


 隣を見てみれば、リーナだけではなくエーデルとリヒトも驚いた表情を浮かべていた。



 何故なら、談話室には陛下以外に、シャッテンヴェヒターの団長と副団長であり、リーナ、エーデルの叔父であるマティアスの姿があったからだ。




 「団長に副団長が何故ここに……?」




 そう驚きながら呟くリヒトに、マティアスは眉を下げ笑みを浮かべると「理由は後で。まずはお座りください」と声をかける。


 マティアスの奥で陛下が頷く。



 リーナたちは言われるがまま、席へと着く。




 長テーブルを囲む形で座るリーナたち。


 妙な緊張感が部屋には走っている気がした。




 「……陛下だけかと思っていたので、お二人がおられて驚きました。よく、俺たちが殿下に会いに来られているとわかりましたね」




 沈黙を破ったのはエーデルだった。


 少し様子を窺うようにマティアスたちに問うエーデルに、エーヴィッヒが言う。




 「エーデルたちが僕に会いに来たら、教えるように言ってあったんでしょう?」




 エーヴィッヒの言葉に、エーデルは「え……?」と眉をひそめ、リーナとリヒトもエーヴィッヒに視線を向ける。




 「僕が例の変死体について内密に調べているのも、リーナと僕が音楽祭の日、例の化け物を見たことも全部ご存知なんですよね?」




 そう陛下たちに問いかけるエーヴィッヒ。


 リーナは「……知っていた?」と陛下たちの事を見る。




 「そして、エミリアが例の化け物に襲われたと聞いた陛下たちは、化け物の存在を知っているリーナが、エーデルたちと僕の元に来ると踏み、僕の宮の使用人に来たら教えるようにとでも言ったのでしょう」




 エーヴィッヒの話に、リーナは「それって、まるで……」と呟くと、エーヴィッヒは頷き、陛下たちを見て言う。




 「例の化け物を生み出しているのは、陛下たちですよね?」




 リーナたちはその言葉を聞き、信じられないとでも言いたげな表情を浮かべる。


 だが、陛下たちの表情は一切変わる事なく、何も言わない。



 エーデルは、マティアスに視線をやっては「……本当なんですか? 叔父上」と眉をひそめる。


 すると、陛下が「……本当だ」と頷く。




 「だが、少し違う」




 そう話す陛下に、リヒトが「少し違うとは?」とすかさず問うと、マティアスが「私が説明いたします」と話し出す。




 「私たちは化け物を生み出してはいますが、決して外には出していませんし、人を襲わせるようなことは決してしていません」




 マティアスの言葉に、エーデルが「……何故、化け物を?」と、傷ついた表情を浮かべ問う。


 エーデルからすれば、マティアスは父が亡くなり、最も親身になってくれた相手であり、良き理解者であり、唯一甘えられる尊敬できる存在だったからだ。



 そんな相手が、人を襲う化け物を生み出していると知れば、傷つくのも無理ないだろう。


 エーデルの問いに、今度は団長が話す。




 「一つ断っておきてえのは、俺たちは好きで化け物を生み出しているわけじゃねぇ」


 「今行っている()()に必要なんだ」




 団長の言葉に、リーナは「実験……」と顔を曇らせる。


 化け物が生まれる実験とは一体、何なのか。

 何にせよ、恐ろしいものには違いない。



 団長は淡々と話す。




 「()()と言う植物は知っているな?」




 団長の言葉に、リーナたちは反応する。


 アサはかつて、マテオ司祭含め、一部の神聖国の人間とバートン当主らが、パラディースに密輸していた植物。



 かつてアサーナトスに生息し、今は全世界で所持や栽培を禁じられたアサ。


 密輸の捜査については、エーデルとリヒトも関わっており、その事件はアサーナトス中で大々的に報道されたため、知らない者はいないはず。




 そんな禁じられたはずの植物の名前が、団長の口から出て来た。


 リーナは嫌な予感がする。




 「そのアサを使い、俺たちは今()()()()()()()()()()()()()()の治療薬を作っているんだ」


 「……え?」




 リーナたちの声が重なる。


 つっこむところが多すぎて、どこからつっこめばいいのか分からないよう。




 「流行病の治療薬って……そもそも、アサは人間には害でしかないのでは? それで、栽培も所持も禁止されたはずですよね?」




 リヒトの問いに、今度はマティアスが答える。




 「えぇ。ですが、ヨルと呼ばれる植物と混ぜると、人に対して害となる成分が無くなるどころか、今流行っている病を治すことがわかりました」


 「ヨル……」




 リーナはそう呟いて、前に一度、皇宮の温室にエーヴィッヒと行った時の事を思い出す。


 その時、エーヴィッヒが流行病の治療薬に用いられていると教えてくれた花が、そのヨルという花だった。




 「ですが、調合の方法が難しく、少しでも量を間違えてしまえば、薬として機能しない。患者に薬を試すわけにもいかない。そこで私たちは、罪人である者たちを実験台とし、薬を作ることにしたのです」


 「調合が合えば薬となるのですが、少しでも合わなければ害となってしまう。その実験段階の薬を摂取している者たちの中に、合わず、理性を失う者たちもいます」


 「それが先ほど話していた〝化け物〟の正体です」




 薬の開発に、罪人が実験台として使われることはよくあること。


 だが、まだ実験段階とはいえ、理性を失い人が化け物になってしまうという話は聞いたことがない。



 とても信じがたい話に、リーナたちの表情は暗くなる。




 「ですが、先ほども申し上げたように、我々は理性を失ってしまった者たちを殺処分するまで皇宮の地下に閉じ込め、人数も把握し、決して外には出しておりません」


 「信じられないかもしれませんが、我々は変死体の件の犯人は他にいると考えています」




 マティアスの言葉に、エーヴィッヒが「それを伝えるために、わざわざエーデルたちが僕の元を訪れたのを報告させたんですか?」と陛下を見る。




 「どうしてもっと早く、教えてくれなかったんですか?」




 エーヴィッヒの問いに、陛下は「……いくら、これまで罪人を使い薬の実験が行われて来たといえ、非人道的だ。お前や他の若い者がまだ知る必要はないと思ったんだ」と言い、マティアスと団長も視線を逸らす。




 「罪人を使った実験が行われていることは、僕たちだって知っていますよ」


 「行われていると知識で知っているのと、実際、見て聞いて知るのとではまた違ってくる。それに、アサは禁じられた植物だ。もし我々に何かあった時のために、お前たちには教えなかったんだ。どちらにせよ、我々の勝手なエゴだがな」




 その話を聞き、リーナは考える。


 まさか、禁じられたはずのアサを使い、実験がおこなわれていたとは思わなかった。



 前世でも知らないだけで、行われていたのだろうか。




 それよりも……。


 リーナはドレスを掴む手に力を入れる。




 例の化け物を生み出しているのが、陛下たちではないのなら、いったい誰が……?




 何かが頭の中をよぎるも、あまり覚えていないのか、はたまた、思い出すのを拒絶しているのかそれが何かはわからなかった。

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