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公爵家の養女  作者: 透明
第五章 神話の中の話
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前世の記憶

 


 『マグヌスがマイヤに流れ着いた後、中々パラディースに帰れなくても、リーベに手紙を送った。だが、リーベからの返事は来ることはなかった』


 『マグヌスはリーベに何かあったのではと不安な日々を送り、数ヶ月が経ち、パラディースとマイヤは停戦状態に入り、マグヌスはパラディースに戻ることができた』


 『そこで、ある噂を耳にしたのだ』




 ページを捲る時の紙が擦れる音がやけに大きく聞こえる。


 次のページには『そう。マグヌスが想っていたリーベが結婚したと』と書かれてあった。




 『リーベはパラディースにはおらず、それ以降二人は会うことはなかった。だが、マグヌスの裏切られた傷は癒えることはなかった』




 マグヌスとリーベの話はそこで終わり、そのあとは筆者の主観が混じった言葉が綴られていた。


 マグヌスとフォルトモントの繋がりはわかった。



 けれど、何故フォルトモントを狙っているのか。


 手紙には()()()()()()()()()()()()と書かれてあったけど、儀式って一体……?




 最後のページになり、捲るリーナ。

 最後は文字では無く、絵が描かれてあった。


 その絵を見てリーナは、目を見開く。




 ブロンドの髪に紫の瞳をした、美しい少女が描かれており、恐らく神話に出てきたリーベという少女だろう。


 だが、リーナが気になったのはそこではなかった。



 髪の長さや、前髪は違うがどこからどう見ても、リーナにしか見えないその少女。


 まさに生き写しと言っても過言ではないくらい瓜二つだ。



 本を持つ手が震える。




 こんなに、似ていることってあるの……? 偶然? にしては……。


 リーナがそう考えた時だった。


 頭に激痛が走ったのだ。



 今まで体験したことのないくらい、激しく締め付けられるような痛みに、リーナは頭を押さえ、テーブルに置いてあった本にリーナの手が当たり、地べたに落ちる。




 全身に冷や汗をかき、視界が遠のいていく。


 だめだ……視界が暗くなっていく中、そう思った時「ヴァンディリア嬢……!」そう誰かが呼ぶ声がした気がするが、リーナはそのまま意識を手放した。




 暗くて冷たい場所。


 そこで誰かの声が聞こえてくる。


 


 『我々の目的はただ一つ。かつて、マグヌスが王に君臨し、神聖国が主だった時代を取り戻し、停戦中のパラディーストの戦争を始める事です』


 『全てはマグヌスの導きのもと。これがアサーナトスの運命なのです』


 『マグヌスの復活のためには、フォルトモントの血を引くあなたがね』


 『恨むのなら、その神を欺いた美しい容姿と血を恨むんだな』


 


 その声と同時に見えてきたのは、死んだ魚のような目と、不敵な笑みを浮かべたゼーゲン司祭の顔だった。


 


 「――はっ!」




 驚いたように目を開くリーナの顔は、青ざめており、若干体が震えている。


 リーナは横になっていた体をゆっくりと起こしては、額に手を当て「思い出した……」と呟く。




 そうだ。ずっとノアの屋敷に向かう途中で盗賊に襲われたと思っていたけど、エーデルとシュタインにプレゼントを買いに行った帰りに神聖国の人たちに襲われたんだ。


 それで、神聖国に連れて行かれて……そこで……ゼーゲン司祭に……。




 リーナは、殺された時の記憶を思い出しては、肩を震わせる。


 思い出してはまるで昨日の出来事かのように、恐怖や痛みが襲ってくる。



 どうしてこんな大事なことを忘れていたんだろう……。




 恐らく、殺されたことのショックから記憶が一部変えられ、忘れてしまっていたのだろう。


 記憶を思い出したことと、殺された時のショックが蘇ってきて、気づくまでに時間がかかったが、リーナはあれ……? と辺りを見渡す。




 そういえば、私、どうしてベッドに眠っていたんだろう? というか、ここはどこ……?




 椅子に座り本を読んでいたはずのリーナは、何故か、ベッドと小さなテーブルが置かれた部屋におり、ベッドに眠っていたのだった。


 まさかまた、時間が戻りでもしたのかと焦るリーナ。



 だがその時、コンコンッと扉を叩く音がしたかと思えば、開いた扉からユリスにある孤児院の先生が顔を覗かせる。


 そして、体を起こしているリーナをみては「よかった……! 目を覚まされたのですね!」と部屋へと入ってくる。



 安心した表情をリーナに向ける先生に、リーナは戸惑いが隠せない。




 「どうして先生が……? それにここは?」




 そう問いかけてくるリーナに、先生は「ここは孤児院の中にある部屋ですよ」と話す。




 「孤児院の?」


 「はい。ナハト司祭が、いきなりやって来られて、ヴァンディリア令嬢が倒れたから医者を呼んで欲しいって仰られて」




 「ナハト司祭があんなに焦った表情を浮かべているのなんて初めて見ましたよ」と眉を下げ笑みを浮かべる先生。


 だか、リーナにはその話は全く聞こえておらず、リーナはまるで信じられないとでも言いたげな表情を浮かべ「……ナハト司祭が、私をここに?」と言うのだ。




 「はい。ヴァンディリア令嬢がおられた図書館と、ここの孤児院は繋がっているので、一見離れて見えますけど、図書館の中庭を通ればすぐに来られるんです」




 そう話す先生に、リーナはいや、そうではないと言おうとするも、どこからつっこめばいいのかわからず、黙ってしまう。




 ナハト司祭が私をここまで運んだって? ナハト司祭もあの図書館にいたの? 倒れた私をナハト司祭が運んだ??


 あのナハト司祭がそんなことをする? そう頭の中で多くの疑問が出てくるリーナ。



 その時、再び扉がノックされる音がしたかと思えば「失礼します」とナハト司祭が部屋に入ってきた。


 ナハト司祭と目が合うリーナ。



 リーナはどうしたものかと、何かを言おうとした時、ナハト司祭が「目が覚められたのですね」と声をかけてくる。


 まさか、ナハト司祭から声をかけてくるとは思わず、コクコクと頷くリーナ。



 そんなリーナを見て、ナハト司祭は「よかった」と僅かにだが、安堵した表情を浮かべる。


 その事にリーナは更に驚く。




 今、よかったって安堵した……? あの私の顔を見るたびに、どれだけ嫌なの? ってくらい顔を顰めていたナハト司祭が……?




 先から、訳がわからないことばかり起こりすぎて、思考が稼働しないリーナ。


 そんなリーナを見た先生は「お医者様がいらしてからもずっと、ナハト司祭がついていらしたんですよ」と言うと「ですよね?」とナハトに視線を向ける。



 ナハトは冷静さを取り戻したのか「……えぇ」といつもの仏頂面に戻っている。


 そんなナハト司祭を見た先生は、何を思ったのか「あ……! 私、席外しますね! また何かあったら呼んでください!」と変に気を遣っては、部屋を出ていく。



 あまりにも素早い動きに、リーナは呼び止める暇もなかった。


 先生の背を見送ったリーナとナハト。



 二人きりになった部屋には、気まずい空気が流れる。


 気まずい……と思いながら、リーナはそういえば、お礼を言ってないと思いだし「ナハト司祭」と名前を呼ぶと、すぐ近くに立つナハトを見上げる。




 「あの……ここまで連れてきてくださったと聞きました。ありがとうございます」




 そう素直にお礼を言うリーナを見て、ナハトは目を見開き驚いた表情を浮かべる。


 そんなナハトを見て、リーナは私がお礼を言うことは、そんなに驚くこと? と少し引っかかる。



 ナハトは「……いえ。人として当然のことをしたまでです」と視線を逸らす。




 そうかもしれないけど、ナハト司祭なら目の前で私が倒れていても無視しそうなくらい、私に険しい顔を向けてきていたから……とは流石に言えない。


 そして、リーナはナハトに気になっていたことを聞く。




 「……ナハト司祭もあの図書館に来ていたんですか?」




 リーナの問いに、ナハトは再びリーナに視線を向けては「……言っておきますが、あなたの後をつけたりしていたわけではありませんからね」と言う。




 「別に何も言ってません」


 「疑っているでしょう? 本当に偶然居合わせただけです」




 そう話すナハトに、リーナは「そうですか」と返事をすると、もう一つ聞きたいことを尋ねる。




 「あの図書館には、マグヌスとリーベという少女の話が書かれた本を見に来られたのですか?」




 リーナの問いに、ナハトは眉を顰める。




 「……やはり、その本を探しに来られていたのですね」


 「やはりってことは、ナハト司祭もご存知なのですね」




 ナハトは頷いては「私は神聖国の人間ですからね」と話す。




 「と言っても、あの話を知っているのは神聖国の人間でも一部……大司教と私、それからゼーゲン司祭だけですが」


 「それは、どうして?」


 「神聖国の人間は恋というものは、人を愚かにすると教えられてきています。それなのに、神であるマグヌスが恋というものに現を抜かし、挙句その恋は実らなかったとなれば、神聖国の者に良い印象を与えませんからね」




 ナハトの話に、そういうものかと頷くリーナ。


 ならば何故、ナハト司祭らは知っているのかと問うと、ナハトは言う。




 「神聖国の上の立場になるということは、いわばマグヌスに近い存在だということ。マグヌスの全てを尊敬し、受け入れる人間でなければなれませんから」




 そう話すナハトに、リーナは「……なら、これも教えてくれる?」と問うては、ゆっくりと口を開く。




 「マグヌスを復活させる儀式に、どうしてフォルトモントの血が必要なの?」




 リーナの話に驚いた表情を浮かべたかと思えば「そこまで、知っていたのですね」と言う。


 そして、少し間をおいて言うのだ。




 「フォルトモントの者が持つ目には、神秘的な力があります。未来を見ることができる力に、過去に戻れる力。その力によって、マグヌスを復活させることができると、神聖国では伝えられているのです」


 「それに、マグヌスはフォルトモントでありながら、その神秘的な瞳を持って生まれることはなかった。なので、フォルトモントの目を捧げることで、マグヌスがその目をとりに現世に降りてくると言われています」




 ナハトの話に、そんな嘘みたいな話あるわけないと思うも、実際に、前世では儀式を行いゼーゲンの体にマグヌスが乗り移っていた。


 黙るリーナに、ナハトは続ける。




 「そして、我々神聖国はフォルトモントの中でも、()()()()のものを探していました」




 ナハトの話に「ある条件……」と呟くリーナ。


 ナハトは頷くと、真っ直ぐリーナを見て言う。




 「それは、マグヌスが愛したリーベという少女と同じ、紫の瞳にブロンドの髪を持つ十八の女性です」

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