神話
森の中を走って行く馬車の中。
リーナは、母からの手紙を手に持ち、どこか不安気な表情を浮かべていた。
母からの手紙にはこう書かれてあった。
『神聖国は遥か昔から、フォルトモントの人間を攫ってはとある儀式を行っていたの。それが原因で、フォルトモントは無くなり、フォルトモントの人間は離れて暮らすことになった』
『それでも神聖国はフォルトモントを探し出しては、捕まえ、儀式に使ったの。そんなフォルトモントの中でも、彼らが喉から手が出るくらい欲しいのが、ブロンドの髪をしたフォルトモント』
リーナがもう一度手紙を読み直していると、馬車は目的地に着いたらしく、動きが止まる。
馬車から降りると、風が強く吹き、リーナのブロンドの髪を靡かせる。
手紙にはフォルトモントと神聖国の繋がりについて書かれた神話がユリスにある図書館にあると書かれてあり、リーナはそれを確かめるためにやって来たのだ。
いきなり行くことになり、護衛もつけずに一人やって来たリーナ。
そんなリーナに「あれ? ヴァンディリア令嬢?」と声がかかる。
気を張っていたため、いきなり名前を呼ばれ、驚いたように声のした方を振り返るリーナ。
そこには、ユリスにある孤児院の先生がおり、驚くリーナに「すみません、驚かせてしまいましたね」と謝罪する。
リーナは安堵した表情を浮かべては「いえ……! お久しぶりです」と挨拶する。
「お久しぶりです。護衛もつけずにお一人で来られたのですか?」
リーナが一人だけなのを見て、心配そうにそう尋ねて来る先生に、リーナは「あ……急用で」と眉を下げ笑みを浮かべる。
「そうだったのですね」と先生は頷くと「もし何かあればお声がけくださいね」と一礼し去って行く。
そんな先生の後ろ姿を見送っては、ユリスにある図書館へと急ぐ。
ユリスの図書館には前にも一度、訪れたことがあった。
その時は、フォルトモントと神聖国にまつわる本は見当たらなかったのだが、手紙には『ユリスにある図書館の東棟側にある離れのような建物。そこも図書館になっていて、そこの肖像画の下にある大きな書棚を左右に引くと隠し部屋が出て来るの。そこに神話が載った本が置いてあるわ』と書かれてあったのだ。
前に行った時は、その離れには行っておらず、当然隠し部屋があることも知らなかった。
リーナは図書館へと入ると、東棟側へと向かう。
そういえば前に来た時、私が図書館から出た時、ちょうどナハト司祭と会ったんだっけ。
その時ナハト司祭は、私の探しているものは図書館にはないって言ってたけど……やっぱり、私を惑わすための嘘だったのね。
リーナはそう思い出しながら、足を進め、東棟までやって来た。
東棟には庭へと繋がる扉があり、そこを開くと手紙に書いてあった通り、離れが出て来た。
本当にあった……と驚きながらも、その離れへと近づくリーナ。
鍵がかかっていたらどうしよう。司書の方に話したら開けてくれるのかな……?
そんな不安が頭をよぎるも、離れの鍵はかかっておらず、ギーッ――と古びた音を立てながら扉が開く。
「わぁ……すごい……」
離れの中は、部屋を囲むように書棚が並んでおり、その前には長テーブルが置かれてあり、天井からは大きく立派なシャンデリアが吊るされている。
全体的にブラウンを基調にした内装になっており、どこからともなく香ってくるウッドの匂いが印象に残る。
「肖像画の下の大きな書棚ってこれね……」
奥に行くと、手紙に書かれてあった書棚があり、リーナは左右に引く。
すると書棚は音を立てゆっくりと開いたのだ。
本当に開いたことの驚きと、妙な緊張感でゴクッと唾を飲む。
そして恐る恐る書棚の奥へと入る。
そこは窓はなく、小さな二人用の丸いテーブルが真ん中に置かれてあり、その周りに腰くらいまでの書棚が置いてあった。
そして天井には小さなシャンデリアが吊るされている。
量は少ないとはいえ、この中から探すのは結構時間がかかりそうだな……と思いながら、書棚に近づく。
手紙にはどこの書棚にあるかは書かれていなかった。
一冊一冊中身を確認していく中、ふと一冊の本が目に留まる。
黒い背景に金色で、題名が書かれていたようだが、禿げて来ており詳しくはわからない。
ただ、妙にその本に惹かれ手に取り、本を開く。
「これだ……」
リーナは驚いたようにそう呟く。
本には『神マグヌスとフォルトモントの因縁の話』と書かれてあった。
マグヌスはアサーナトスを造ったとされている神。
それがフォルトモントとどう関係しているのか。
リーナの頭の中に、一瞬、誰かがよぎった気がするも今はそれを気にしている場合ではないと、本を読み進めて行く。
『昔々、この世に生を受けた神マグヌスは、美しく深い紫の髪に深海の底のように暗く黒い瞳を持つ、それはそれはとても美しい見た目をしていた』
『だが、マグヌスの周りの人間はそんな彼を見て忌み子と蔑んだ。何故なら、フォルトモントの特徴である紫の瞳を持たずに生まれたからだ』
リーナはそこまで読み驚いた表情を浮かべる。
マグヌスはフォルトモントの人間だったの……?
マグヌスの見た目については、肖像画を見たり、学んで知っていた。
だが、フォルトモントの血を引いていると言うことは、どの本にも載っておらず、おそらくアサーナトス帝国の者で知っている人は少ない、いやいないだろう。
フォルトモントの人間という事は、マグヌスは元々パラディースにいたということ?
アサーナトスを造り上げたのはマグヌスだから、おかしな話ではない。
でもどうして、そのことが知られていないの……?
疑問は残るが、リーナは再び読み進めて行く。
『忌み子として育ったマグヌスは愛を知ることなく、周りのフォルトモントの人間に虐げられ続けていた。
そんな彼に唯一、癒しと安らぎをもたらしたのは読書だった』
『マグヌスは幼少期から賢く、朝から晩まで本を読み漁っては、人より何倍もの知識をつけていったのだ』
『そんなある日、フォルトモントに一組の家族がやって来た。父親の見た目はブロンドに青い瞳をし、見るからにフォルトモントの人間ではないことがわかる』
『母親の見た目は紫の髪に瞳を持ち、フォルトモントの人間だと一目で分かった。人間と結婚したフォルトモントの人間が里帰りをしに来たというのだ』
『そしてそんな夫婦の間には一人の少女がいた。その少女の見た目は――』
「父親譲りのブロンドの髪に、フォルトモントの特徴である美しい紫の瞳を持っており、何とも美しかった」
リーナはそう声に出して読む。
今言った少女の特徴は、自分の特徴と当てはまるからだ。
母もブロンドの髪を持っていた。
それは果たして偶然だろうか。
『マグヌスはその少女を嫌った。同じフォルトモントの血を引きながら、周りとは異なる見た目を持つ二人。だが、彼女はフォルトモントの人間で一番大切な紫の瞳を持っているので、忌み子と蔑しまれることはないのだから』
『未来を見ることができると言われている紫の瞳。それは天からの贈り物だと言われており、それを持たぬ者は天から祝福を受けぬ者とされていた』
初めて知るマグヌスの生い立ちと、少女の存在に驚きつつも、もしかして、忌み子と蔑まれて来たことでフォルトモントに恨みを……? とリーナは考える。
だが、続きを読みその考えは直ぐに違うのだとわかる。
『誰もがマグヌスを蔑み、嫌う中、その少女だけはマグヌスに対し、他の者と変わらないように接したのだ』
その話を見、リーナは眉を顰める。
『忌み子と呼ばれる自分にも優しく接するその少女に、いつしかマグヌスも心を開いて行く。少女の名前はリーベ。パラディースの公爵家の一人娘で、その美しい容姿と天使のように優しい性格はマグヌスだけではなく、周りの誰もを惹きつけた』
……私と名前が似ている。
ただの偶然か。同じ、フォルトモントの人間なら似た名前になることもあるのだろうか。
『リーベがフォルトモントへとやって来ては、マグヌスと一緒に過ごした。本だけが癒しだったマグヌスは、いつしか彼女と過ごす時間が癒し、安らぎの時間に変わっていった』
『だがこの幸せな時間も長くは続かなかった。パラディースとアサーナトスとなる前の国、マイヤとの戦争が始まったのだ』
アサーナトス帝国となる前の国マイヤ。
小さな国だったが、王の欲は大きく、その頃近隣国に火種を撒いては戦争を行っていた。
その戦に、パラディースも巻き込まれたのだ。
『リーベはフォルトモントに来る事はなくなり、また、マグヌスも戦争に参加することとなり、二人は会えなくなってしまう』
『それでも二人は手紙でやり取りをし、いつしか思いは通じ合っていた。だがそんなある日、マグヌスが乗っていた船が攻撃を受け、沈んでしまったのだ』
『船に乗っていた人間が亡くなり、行方不明となった中、マグヌスだけはとある国に流され、何とか一命を取り留めることができたという』
「それが、今のアサーナトス帝国であるマイヤだった」
リーナはそこまで読むと、ずっと立ちっぱなしで読んでいたせいか、具合が悪くなってき、座って読もうと場所を移動する。
今読んだ所までは、どれも初めて知ることばかり。
何故か、先ほどから嫌な予感がリーナの胸をざわつかせる。
一つ息を吐くと、再びページを捲る。




