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公爵家の養女  作者: 透明
第五章 神話の中の話
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決勝

 


 「……おめでとう、リヒト。やっぱり強いね」




 エーヴィッヒは眉を下げ笑みを浮かべながら、リヒトに握手を求める。


 リヒトは差し出されたエーヴィッヒの手を見ては、エーヴィッヒの手を握り返す。




 「久しぶりに剣を交えられて良かったよ」




 そう話すエーヴィッヒにリヒトは「本当に思ってますか?」と問う。


 その言葉に驚いた表情を見せつつも「当たり前じゃないか」と返すエーヴィッヒ。



 リヒトは「そうですか」と頷いては、次の試合が始まるのでその場を去る。


 そんなリヒトの後ろ姿を見送りつつも、エーヴィッヒも後ろを振り返ると、歩いて行く。




 「――おめでとう」




 袖に戻って来ると、エーデルがどこか不満気な表情を浮かべながら、リヒトを迎え入れる。


 何故、エーデルが不満気な表情を浮かべているのか、リヒトには見当がついていた。



 何か文句を言われるかと思ったものの、エーデルは「俺とやる時に力を抑えたら絶交だぞ」とだけ言う。


 その言葉に、リヒトは「絶交って……子どもみたい」と笑う。




 その時、次の試合が始まる合図が聞こえて来る。


 次の試合にはシュタインが出る事になっており、エーデルとリヒトは会場内に視線を向ける。



 初めにあんなに緊張していたことが嘘かのように、シュタインは順調に試合を進めていた。


 この試合に勝てば、準決勝へと進むことができる。



 かなり緊張する試合となるが、シュタインは緊張した様子はない。




 「相手は聖騎士団の隊員か」




 エーデルは腕を組みながら、シュタインの向かい側に立つ騎士を見る。




 「聖騎士団は滅多に表に出ないから、あんな騎士がいたかも分からないね」




 リヒトの言葉に「あぁ」と頷いては「それに、相手の力量もわからない」と言うエーデル。




 「聖騎士団もかなりの強者揃いと聞くし、かなり注意をして挑まなければな」




 エーデルたちが心配する中、シュタインたちの試合が始まる。


 シュタインと相手の騎士はかなり体格差があったものの、初めはシュタインが押していた。



 だが後半になるにつれ、シュタインの体力がなくなってき、この試合は聖騎士団の騎士の勝利に終わったのだった。




 「──ただいまより、最終試合を開始いたします。エーデル・フォン・ヴァンディリア、リヒト・フォン・グランべセルの両名は前へ」




 今までのどの試合よりも、一番歓声が上がる。


 決勝は見事に試合を勝ち上がったエーデルとリヒトの二人が戦う。



 二人の対決は会場内にいる観客が皆、待ち望んでおり、少し席を外した観客も戻ってきては、熱い視線を二人に向ける。




 「まぁ予想はしていたけど、まさか兄様とエーデル兄様が戦う事になるとはね」




 観客席で試合を見守るエミリアの言葉に、リーナは頷いては、不安そうな表情を二人に向ける。


 あの二人が剣を交えるところは、何度か見たことがある。



 けれどそのどれもは、木剣での手合わせだった。


 実際に剣を使って、二人が剣を交えるところは見たことがない。



 それに恐らく二人も初めてだろう。


 士官学校時代に剣を交えることはあったかもしれないが、真剣は使われていないはず。




 「勝ち負けも気になるけど、二人とも怪我をしなければいいけどね」




 リーナもエミリアと同じ事を考えており「そう、だね」と小さく頷く。


 二人とも強い。本気でやりあえば、下手をすれば大怪我をしてしまうかもしれない。



 それだけはないようにと祈る中、エーデルとリヒトは向かい合って立つ。


 「始め――」と言う審判の声が場内に響き渡る。


 その瞬間、二人同時に走り出す。



 僅かにリヒトの方が動き出だしが早く、エーデルの目の前まで来る。


 だが直ぐにエーデルは、体を横に移動させては、すぐさまリヒトの首めがけ剣を振りかざそうとする。



 誰もがまずい……! そう思ったのも束の間、リヒトはエーデルの剣をギリギリで避けては、自身の片足をエーデルの前にやり、エーデルに振り下ろされるはずだった剣を真横に振りかざす。



 だが、その動きにもエーデルは反応し、当たるギリギリで剣を避ける。


 二人は一旦、離れては体勢を整えている。




 あまりにも二人の動きが早く、観客たちは置いていかれ、何がどうなったのか分からず静まり返っている。


 ただ分かるのは、二人の動きが今までしてきた試合とは全く違うと言う事。




 袖で二人の試合を見ていたシャッテンヴェヒター団長が「……まだあんなに速く動けたのか。リヒトのやつ」と驚きながらも笑みを浮かべている。




 「あそこまでの速さは、我々でも見たことがありませんね。やはり、相手が自分と同等の強さを持つエーデルだからでしょうね」


 「凄く楽しそうです」




 マティアスは驚きつつも、感心したように言う。


 その近くで、同じく二人の試合を見ていたエーヴィッヒは、眉をひそめては悔しそうな表情を浮かべている。




 僕と戦った時も、かなり動きが速いと思っていたけれど、僕と戦った時は本当の力の半分も出していなかったんじゃないか……。




 「……兄貴とリヒト兄さんが手合わせしているのは何度も見たことあるけど、あそこまでのは見たことないな」




 シュタインが驚いたようにそう話す隣で、ヴァンディリアの騎士たちも同じく驚いた表情を浮かべては、エーデルとリヒトの試合を見る。




 「最近、あの二人に少しだけど追いつけたと思ってたのに……全然だ。」


 「もっと練習しなきゃ」




 シュタインは手すりを握る手に力を入れる。


 そんなシュタインを見て「シュタイン様……」とヴァンディリアの騎士団長、ラインハルトはそう呟く。



 そして、再びエーデルたちに視線を向けては、流石は帝国の剣と呼ばれるヴァンディリアとグランべセルを背負っていかれる方達なだけある。と考える。




 前ヴァンディリア当主、クラウス様がエーデル様とリヒト様の動きは、初代の当主たちに似ていると仰られていた。


 幼い頃からお二人は屋敷にある史料を読み漁っては、必死に練習されていた。



 元々の剣の才能だけではなく、努力を惜しまなかったからこそ、今のお二人の強さまでになったのだと、ずっとお二人を見てきたから分かる。




 ラインハルトは手に力を入れては、私も、お二人について行けるように、もっと精進せねば……。と強く思うのだった。




 キンキンッ――と剣がぶつかる音だけが、場内に鳴り響く。


 試合時間も残り僅かとなったが、二人の決着はまだついていない。




 二人とも体力はある方だが、最終試合ということと、互いにリヒトとエーデルの相手ということもあり、体力がかなり消耗しているようで、息が上がってきている。



 剣と剣で押し合いながら、リヒトとエーデルの二人の視線が合う。




 「……やっぱり、お前とはやりにくいな。手の内全て曝け出しているからな」




 そう眉をひそめ笑みを浮かべるエーデル。


 リヒトも「あぁ。やりにくくて仕方ないよ」と頷く。




 「最近はずっと、素振りしかしていなかったみたいだからどうかと思ったけど、流石はエーデル。腕は落ちていないね」


 「お前と決勝で戦うために、ここ一ヶ月はずっと稽古してたに決まってるだろ」




 エーデルの言葉にリヒトは、ははっ……と笑みを浮かべると「俺と戦いたいならそれくらいしないとね」と言う。


 エーデルは「はいはい」と笑うと、二人は互いに距離をとる。



 そして互いに息を整え、肩を動かしだす。


 その二人の動きに、観客たちはざわつきだす。




 「二人ともどうしたのかしら?」




 そう首を傾げるエミリアの隣で、リーナも不思議そうな表情を浮かべている。


 けれど、二人が何をしようとしているのか分かったのか、もしかして……! と思った時、フレイヤが「決着をつけるつもりじゃないかしら」と言う。




 「決着を?」


 「恐らくね」




 そう頷くフレイヤの言う通り、エーデルとリヒトは剣を構えると、どちらかともなく互いに向かい走りだす。


 二人の走り出しはほぼ同時で、とても速い。



 そして互いに目の前までやってきた時に、互いに剣を振り上げると、ほぼ同時に振り下ろす。




 「……っ!!」




 それは本当に僅かな差だった。


 けれども、リヒトの剣の方が早くエーデルの首元に振り下ろされ、エーデルの剣は少しのところで止まっている。



 二人の試合に見入っていたのだろう。審判は、ハッとした表情を浮かべては「そ、そこまで! 勝者、赤リヒト・フォン・グランべセル!!」とリヒトが勝利したことを知らせる。


 その声に観客たちも見入っていたのだろう。直ぐに反応はなく、パラパラと拍手が聞こえたかと思えば、直ぐに大勢の拍手と歓声で会場内は包まれた。



 こうして、誰もが待ち望んでいたリヒトとエーデルの戦いは、リヒトの勝利で終わり、今回の剣客祭の優勝者はリヒトとなったのだった。

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