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公爵家の養女  作者: 透明
第五章 神話の中の話
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剣才

 


 「……良かったぁ」




 エミリアがそう言う隣で、リーナもほっと胸を撫で下ろす。


 そしてシュタインが勝ったことを喜び合う。


 


 「流石、シュタインね!」


 「最初の方は緊張でだめかと思ったけどね」




 そう話すフレイヤとエミリア。


 アリーはリーナに「お噂通り、ヴァンディリア公子はお強いのですね」と目をキラキラとさせながら言う。



 その言葉にリーナは得意気に「そうなんです!」と頷く。




 「初めはもうだめかと思ったのに、急に人が変わったかのように攻撃をして……私、今まで剣客祭とかあまり楽しめなかったのですが、凄く楽しめました!」




 普段、なるべくアサーナトス語で話そうとするアリーだが、今は興奮してか思わず母国語が出ている。


 その姿が、剣のことについて話すシュタインと被り、リーナは微笑ましそうに笑う。




 「にしても、よくあそこまでの緊張状態で持ち直したわよね。シュタインは一度落ち込んだりするととことん落ち込むから。今回はだめかと思ったのに」




 そう話すエミリアにリーナは「何か、相手の騎士の方と話しているようだったけど」と言う。


 その時、挨拶を終えたシュタインがリーナたちの方を振り返ると「リーナ!」と口をパクパクと動かすと「勝ったよ!」と親指を立てていい笑顔を向ける。



 そんなシュタインに「かっこよかったよ!」と返すリーナ。


 リーナに褒められ満足気なシュタインは嬉しそうに笑いながら、ふとリーナの隣に視線を移す。



 そこにはアリーがおり、アリーの姿を目に映した瞬間、シュタインはとても驚いたような表情を浮かべて動きが止まってしまう。


 そんなシュタインを見たエミリアが「なんか動き止まったんだけど?」と不思議そうにしている。



 「緊張が戻ってきたのかしら?」とフレイヤが首を傾げる隣で、リーナとアリーも顔を見合わせ不思議そうにしている。


 シュタインはハッとした表情を浮かべたかと思えば、何も言わず後ろを振り返ると、そそくさと逃げるようにその場を後にした。




 「――シュタインのやつ、何とか初戦敗退せずに済んだな」




 ほっとしたようにそう話すエーデルに、ラインハルトは「やはり、調子が戻ったシュタイン様はお強いですね」と笑みを浮かべる。




 「あぁ。けど、あんなに緊張して震えていたのに……一体、何を話していたんだろうな」




 エーデルたちがそう話をしていると、丁度戻ってきたシュタインが、エーデルたちの元へとやって来る。


 エーデルは「お疲れ」と声をかけると、シュタインは「ほんと、疲れた~」とその場にしゃがみ込む。



 そんなシュタインに「お前、どうして急に調子が戻ったんだ?」と問いかけるエーデル。


 その言葉にシュタインは数秒、エーデルのことを見るので、エーデルは不思議そうな表情を浮かべる。



 だがシュタインはエーデルから視線を逸らすと「べぇつにぃ~」と言う。




 「なんかムカついたから」


 「ムカついた? お前が怒るなんて珍しいだろ。もしかして何か言われたのか?」




 そう眉をひそめるエーデルに、シュタインは「大したことじゃないよ。よく試合前とかに煽る人とかいるでしょ? その程度だから心配しなくていいよ」とあくびをしながら言う。


 そして「兄貴もうすぐでしょ? 準備しなくていいの?」と問う。




 「第三試合だから、まだ大丈夫だよ」


 「そっか~」




 シュタインは気の抜けるような返事をすると、その場でストレッチを始める。


 そんなシュタインを見て、何を言われたのか心配になるも、まだまだ試合はあるので聞くことをやめたエーデル。



 そして第二試合は聖騎士団の騎士の勝利で終わり、いよいよ第三試合が始まる。




 「第三試合を開始します。エーデル・フォン・ヴァンディリア、リン・ロゼットの両者は前へ!」




 審判の声にエーデルと、エーデルの対戦相手のシャッテンヴェヒターの騎士、リン・ロゼットが向かい合う。


 その瞬間、会場内には「ヴァンディリア公爵様!!」「ロゼット卿!!」と歓声が上がる。



 エーデルは言うまでもない、帝国の剣、ヴァンディリアの現当主であり、帝国でも上位に名が上がるほどの剣の腕の持ち主。


 そして相手のリン・ロゼットも剣才揃いのシャッテンヴェヒターの中でも、腕が立つ人物。



 二人とも今回の剣客祭で注目されており、そんな二人が剣を交えるとなれば、会場が歓声に包まれるのも無理はない。


 それに一気に流れを変えたシュタインが行った第一試合に、第二試合もかなり良い試合だったため、その熱気が第三試合にもそのまま引き継がれ、観客たちの熱も高まっているのだ。




 「それでは始め――」




 試合合図の声とともに、両者は剣を構える。


 そして互いに探り合うように、近づいては先に動いたのはリンの方だった。



 エーデルに向かい剣が振り下ろされる。


 だがエーデルはそれを軽々とかわす。



 エーデルがかわしたところをリンはすかさず狙うも、エーデルが剣で攻撃を受け止め、押し合う。


 そして互いに後ろに退き、態勢を整える。




 エーデル・フォン・ヴァンディリア。


 リヒトの家、グランべセル家と同じく帝国の剣と呼ばれるヴァンディリアの当主であり、士官学生時代は難しい首席での卒業を果たしている。



 そして十八と早くに叙任式を受け、皇宮騎士団含め数多の騎士団からスカウトされるも、その全てを断り、当主としての業務に集中する傍ら、自身のヴァンディリア家の騎士団で日々腕を上げている。




 リンは次、エーデルがどう動くか見定めながら、頭の中で考える。



 その剣の腕はまさに天才。

 

 リヒトと同じく、シャッテンヴェヒターも彼をスカウトした。



 だが彼はそれを断ったどころか、どこの騎士団にも入っていない。


 だが毎日鍛え、素振りをしているのだろう。


 腕が落ちるどころか、前に一度拝見した時より更に強くなっている。それに動きも速くなっている気がする。


 

 流石は、シャッテンヴェヒターからスカウトを受けるだけあるな。




 リンは対戦中だが、エーデルの剣の腕に思わず感心してしまう。


 そんなリンに向かいエーデルは剣を振るうも、リンはそれを受け止める。



 だがかなりギリギリで受け止めたため、あっぶなかったぁ……と全く表情に出ていないが、心の中でそう叫ぶのだ。




 「……あーくそっ! やっぱりうちに欲しいな、お前んとこの甥」




 エーデルたちの試合を見ているシャッテンヴェヒターの団長は、そう悔しそうに隣で同じく試合を見るマティアスにそう話す。




 「何とか説得できねぇかな? 叔父の頼み~とか言って」


 「そんな簡単に頷くわけないでしょう。」




 呆れたように話すマティアスに、団長は「だよなぁぁ」とため息混じりに言う。




 「剣の腕、体格、剣の扱い方やっぱりリヒトに近いな」




 そう顎に手をやりながら話す団長に、マティアスは「あの二人は幼い頃から一緒に剣の練習をしていましたからね」と頷く。




 「それにヴァンディリアもグランべセルも幼い頃から他の家に比べて、剣の英才教育が凄いですからね。必然的に似て来るのでしょう」


 「ですが、エーデルもリヒトも違う所があります」




 マティアスの言葉に団長は頷くと「エーデルは頭をよく使い、リヒトは力任せな所だろ」と言う。




 「えぇ。あの二人、一見逆に見えるのが面白いですよね。リヒトは頭を使い、繊細な剣捌きをしそうで、逆にエーデルは力任せで大雑把な剣捌きをしそうです」


 「ですが実際は逆なんですよね。二人と初めて手合わせをした人は皆、驚きますよね」




 そうくすくすと笑みを浮かべるマティアスに、団長は「リヒトは本当、力任せな所があるよな」と頷く。




 「リヒトの戦い方は、もちろん頭を使っているが、あいつは腕や足が例え一本なくなろうが、相手を殺してやるっていう所がある。自分が完全に動けなくなるなら動けなくなるその瞬間まで道連れにしてやるっていうのが見える」


 「逆にヴァンディリア当主は、いかに効率的に被害を負わないで相手を倒せるかを考えて動いているよな。」


 「まぁ、ヴァンディリア当主は若くして莫大なヴァンディリアの当主になったこともあって、そうなったっていう線だろうがな」




 団長の言葉にマティアスは頷くと「エーデルも昔は力任せな所がありました。普通の人では無理であろうことも、エーデルやリヒトのように剣の才に恵まれた人物だからこそできることをさらっとやったりね」と話す。




 「ほんと、化け物だよな。いつもリヒト見てて味方でよかったって思うもん」




 団長の言葉に、近くにいるリヒトが「さっきから聞いていれば、力任せだの化け物だの……酷いですね」と真顔で言う。


 そんなリヒトに「事実だろ」と団長。




 「頭を使ってる暇はないんですよ。特に戦場は瞬時の判断で勝ち負けが左右されますし」


 「簡単に言うけどな、それが難しいんだって。瞬時に判断なんてできねぇよ。だから化け物だって言ってんだよ。そこの直感がお前は優れすぎてるからな」




 団長の話に「天才故、ですよね。その直感の良さは。こうと思っても、それを可能にする力がなければ意味がありませんから」とマティアス。


 だがリヒトは微妙そうな表情を浮かべては「褒められている気がしません」と言う。




 「何故です? 褒めているでしょう?」


 「普段、お二人が誰かを褒めることがないからですよ」


 「はぁ? それはマティアスだけだろ!」




 そう三人が話していると、エーデルとリンが互いに距離を取り向かい合う。


 そしてそのままどちらも動かない。



 会場内は動かない二人にざわつき出す。


 そんな二人を見た団長が「……あれは二人とも頭の中でシミュレーションしているな」と言う。




 「剣の才に恵まれ、数多の戦さを体験しているからこそできるシミュレーションだ。次に先に動いた方が勝つな」




 その言葉にマティアスが「ですね」と頷く隣で、リヒトはただ黙ってエーデルを見ていた。


 僅かにエーデルの手が動いた。



 その瞬間、リンはエーデルに向かい走り出す。


 あまりにも速い動き出しで、もうエーデルの目の前までリンは来ている。



 けれども、動きに遅れたのかエーデルは動かない。


 リンがエーデルに向かい、剣を振り上げる。



 ヴァンディリア公爵の負けだ。誰もがそう思った時だった。


 先まで、リンの目の前にエーデルがいたのに、今目の当たりにしている光景は、エーデルがリンの横におりリンの首に剣先を当てている状態だった。




 「な、何が起きたんだ……?」と会場内にどよめきが起きる中、リンはエーデルに振り下ろされるはずだった剣を上げたまま固まっており、かすかに震えている。


 エーデルは無表情のまま、リンの首に剣先を当て、真っ直ぐ前を見つめている。



 その光景に、審判はハッとした表情を浮かべては「そ、そこまで! 勝者、エーデル・フォン・ヴァンディリア――!」と赤旗を上げる。




 その言葉を聞いた会場内は、驚きのあまり固まっていたのか、初めはパチパチと少数の拍手だけだったが、やがて沢山の歓声が聞こえてきた。

 

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