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公爵家の養女  作者: 透明
第五章 神話の中の話
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剣客祭



 とてつもない広さを誇る闘技場内には、アサーナトスを代表する剣の強者たちを一目見ようと、大勢の人たちが集まっている。


 今日は四年ぶりの剣客祭が行われる日なので、武道の国であるアサーナトスの民たちは、聖誕祭の中でもこの剣客祭を楽しみにしているのだ。




 「リーナ!」


 「あ、エミリア」




 たった今、闘技場内にやって来たリーナの元にエミリアが駆け寄って来ると「久しぶりね」と嬉しそうに笑みを浮かべる。


 そんなエミリアにリーナも「そうだね。元気にしていた?」と問いかける。




 「もちろん。久しぶりに会うのが闘技場っていうのは、あまり華がないけれど……リーナに会えてよかった」




 そう二人が話していると、だんだんと観客が増えて来たのか、辺りが騒がしくなって来る。


 その様子を見たエミリアが「にしても、毎度毎度すごい人数ね」と眉を顰めて言う。




 「聖誕祭のメインみたいなものだもんね」


 「それに今年はヴァンディリアの当主と、グランベセルの次期当主が出るからね」




 突如そう話す声が、二人の元に聞こえて来たかと思えば「久しぶり」とこちらに向かって手を振るフレイヤがいた。


 そんなフレイヤに、驚いたように「フレイヤ様」「お久しぶりです」と挨拶するエミリアとリーナ。



 フレイヤは二人の元へと来ると「帝国の剣と呼ばれる二つの家の若き剣士が戦うところを一目見ようと、みんな集まってるのよ」と笑みを浮かべる。




 「なんせ、四年前の剣客祭は二人とも参加年齢に達していなかったから、参加できなかったからね」




 フレイヤの言う通り、四年前の聖誕祭の年は二人ともまだ十六歳で、剣客祭の参加可能年齢である十八歳に満たず、参加できなかったのだ。


 なので、今年の剣客祭は本人たちも観客たちも待望の参加となる。




 「それに加え、ヴァンディリアはシュタインも参加するんでしょう?」




 フレイヤの言葉にエミリアが「え? そうなの?」とリーナを見る。


 リーナは「そうなの」と頷くと「へぁ〜……」と抜けたような返事をしながら頷いた。




 「叙任式を受ける前に、剣客祭(ここ)で力を見せつけるんだって張り切ってたわ」


 「シュタインらしいっちゃらしいけど……受ける前って言っても、もうすぐでしょ? 聖誕祭が終わったらだから」



 

 エミリアの言葉に「え? もうシュタインもそんな歳?」と驚くフレイヤは「あんな小さかったシュタインがね〜」と感慨深そうに頷く。




 「シュタインだけじゃなく、私とリーナも成人を迎えますよ」


 「女性は十八で成人ですから」


 「あれ? あんたたち十八だっけ?」


 


 驚いているフレイヤを見て、先から反応が親みたいだな……と考えるリーナ。


 フレイヤは「あんなに小さかったのに……」というと「じゃあもうお酒飲めるじゃない!」と手を顔の横で合わせる。




 「今日剣客祭が終わったら、皇宮(うち)に来なよ! みんなでお酒飲みながらお泊まり会しましょ!」


 「ダメですよ。リーナはまだ誕生日を迎えてないんですから」




 エミリアの言葉にフレイヤは「大丈夫よ、ただの数字なんだから。体がいきなりお酒を飲める体質になるわけでもないんだし」と言う。




 「そんなめちゃくちゃな……」と眉を顰めるエミリアと、その隣で苦笑いを浮かべるリーナ。


 リーナは話を変えようと「そういえば、フレイヤ様が剣客祭に来られるとは意外ですね。こういう集まりは苦手だと思っていたのですが」と話をふる。



 そんなリーナに「やめてよね、その言い方。それじゃまるで私が集まりに全く顔を出していないみたいじゃない」と言ってはじとっと見るフレイヤ。


 その隣でエミリアが「実際そうでしょう」と呆れて言う。




 「まぁ私も本当はこんな血生臭いところ、来たくなかったし来る予定でもなかったんだけどね。何せ我が弟も参加するって言うから」


 「我が弟って……エーヴィッヒ殿下も参加させるのですか?」




 驚くエミリアに「そうなの」とフレイヤ。


 リーナは「意外ですね。殿下はあまり剣を好まれないのだと……」と話す。



 そんなリーナを見てフレイヤは「まぁ……ほら。感化されたんじゃないかしら?」と意味ありげに笑う。


 その言葉に「あぁ……」と、エーデルとリヒトが出るからかと思うリーナ。




 「それに、同世代にすごいのが二人もいるからあまり注目されないけど、エーヴィッヒの剣の腕もそこそこ凄いのよ」


 「まぁ、騎士学校の時も二人には負けていたけど」




 そう話すフレイヤに、ただ眉を下げ笑みを浮かべることしかできないリーナとエミリア。


 フレイヤはリーナを見ると「エーデルやリヒトを応援するのもいいけど、エーヴィッヒのことも応援してあげてね!」と言う。




 「私たちの応援がなくても殿下はもう十分、多くの声援を貰っているようですが」




 エミリアはそう言っては、エーヴィッヒの婚約者であるブリューテが引き連れる令嬢たちを見るので、フレイヤは「そうね。応援は十分かも」と眉を顰め笑みを浮かべる。


 そのやり取りにただ笑うことしかできないリーナ。




 「そんなことより!」とエミリアは話を変えたかと思えば「今年の勝利の祝杯を交わせる名誉ある女性は誰になるんでしょうね」と頬に手を当て話すのだ。


 エミリアに続き、フレイヤが「前は……誰だったかしら?」と首を傾げる。




 「優勝したのはシャッテンヴェヒターの現団長だったわよね?」


 「確か、特に想っている相手がいなくて、参加していなかった副団長のマティアス閣下と祝杯を交わしたんじゃなかったですっけ?」




 「選ばれたマティアス閣下がすごい顔をしていたって父様が話していましたよ」と話すエミリアに「そういえば、すごい空気になっていたわね」と頷くフレイヤ。




 毎回、剣客祭で優勝した者は、意中の相手と勝利の祝杯を交わすことになっており、剣客祭の後に開かれるパーティーでダンスを踊ることとなる。


 勝利の祝杯を交わす相手に選ばれるのは、令嬢たちの密かな憧れであり、選ばれれば、その年は鼻高く過ごせるのだ。




 「でも、変な話ですよね。勝ち取ったのは相手なのに勝利の祝杯に選ばれた人が得意げになるなんて」




 そう呆れたように話すエミリアに「人はロマンチックなことが好きだから」と分かるようで分からないことをフレイヤは言う。


 その時「私はロマンチックでいいと思いますけどね。勝利の祝杯」という声が聞こえて来る。



 その声に一斉に顔をそちらに向けるリーナたちは、驚いた表情を浮かべては「アリー姫様……!」と言う。


 そこには従者を数人連れた、アンデル国のアリー姫がいたのだ。




 「アリー姫様もいらっしゃったのですか?」




 そう驚いたように問うリーナに、アリーは頷くと「アサーナトスの皇帝陛下に招待していただいたんです」と話す。


 「いつの間に……」と驚いているフレイヤ。




 「もしよろしければ私もご一緒してもよろしいでしょうか?」と聞くアリーに、リーナたちは「是非」と返し、四人仲良く剣客祭を観戦することとなった。







 「ん? やたら獣臭いと思えば、君たちがいたのか」




 皇宮騎士団の制服を着た一人の若い男性は、意地の悪い笑みを浮かべては、試合前で待機しているシャッテンヴェヒターたちを見てそう言う。


 その言葉に、同じく皇宮騎士団の制服を着た者たちはくすくすと笑みを浮かべている。



 だが、シャッテンヴェヒターの隊員たちは、チラリと視線をやるだけで再び話を続ける。


 その態度が気に食わないのか「おい! お前たち! 僕が話しかけたのに無視とはいい度胸だな!」と指を差す。



 そんな彼にシャッテンヴェヒターの団長が「あぁ……チューチュー鳴き声が聞こえると思えばあんただったか。あまりにも小さいし、何を言ってるのか分からなかったからネズミが鳴いてるのかと」と頭をかきながら言う。


 その言葉に「誰が……! ネズミだ……!」と顔を真っ赤にする男性。




 「別にあんたのことをネズミだと言ってねぇよ。ただネズミかと思ったって言っただけだ」


 「人とネズミを間違えるやつがあるか……!!」




 そう怒る男性に、シャッテンヴェヒターの一人が「おたくも俺たちのことを獣と間違えていたでしょう。お互い様じゃないのか」と言う。


 その言葉にまるでゆでダコのように耳まで真っ赤にし、声にならない怒りを表す男性。




 「そうやって余裕こいていられるのも今のうちだぞ!! お前たちみたいな剣を振り回すことしか能がない野蛮な奴らは、真の騎士である我々皇宮騎士団の風上にも置けないのだからな」




 男性の言葉に団長が「脳がないことはないぞ。何せうちにはあのグランべセル家の次期当主様がおられるからな!」と得意げに言っては「なぁ? リヒト!」とグランべセルの騎士団と話すリヒトに話を振る。


 だがリヒトは「いえ。俺は今日、グランべセルの騎士として参加するので、シャッテンヴェヒターは敵ですよ」と言うのだ。




 「何だって!? シャッテンヴェヒターで数少ない脳がある人間だってのに!!」


 「前から言っていたじゃないですか。グランベセルで参加すると」




 呆れたように話すリヒトに、シャッテンヴェヒターの隊員たちは「そんなぁ……リヒトさんが抜けたら頭脳の平均値が一気に下がるじゃないですかぁ!!」「これじゃああのネズミの言う通り、ただの野蛮な集団になるじゃないか!!」と頭を抱え出す。


 そんな隊員たちを見て「何を言ってるんだか……」と呆れた目を向けるリヒト。




 「マティアス副団長がいるじゃないですか」と話すリヒトに、すかさず団長は「あいつはダメだ。今回も参加しやがらないから使えねぇ」と頭を横に振る。




 「そうなんですか?」


 「だから唯一お前だけが頼りだったのに……!!」




 そう悔しそうに話す団長。


 そんなシャッテンヴェヒターのやりとりを見ていた、皇宮騎士団の男性が「おい……! 俺を除け者にして話すなよ!!」と話に入って来る。




 皇宮騎士団は、由緒正しい家出身の者が多くいる中で、シャッテンヴェヒターは家柄関係なく、剣の実力で選ばれた者が大勢いる。



 そのため、中には貧しい家の出の者もいる。

 

 そんな者たちがいるシャッテンヴェヒターが帝国一の騎士団だと言われているのが、皇宮騎士団の者たちは気に入らないらしく、何かとこうして衝突して来るのだった。




 「あ? あんたまだいたのか。皇宮騎士団なら集合かかってんぞ」




 シャッテンヴェヒター団長の言葉に「なっ……! 僕を忘れるなんて……!!」と言い返そうとするも、召集がかかり皇宮騎士団の男性はしぶしぶ側を離れる。


 そんな彼を見て「何がしたかったんだろうな」と不思議そうに見送る団長。




 「多分、自分たちの方が上だと言いたかったのでしょう。知りませんが」




 そう話すリヒトに、団長は呆れた表情を浮かべては「適当だな、お前は」と言うのだった。

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