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公爵家の養女  作者: 透明
第五章 神話の中の話
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変死体



 日が昇り始めた頃、皇都は霧が発生し(もや)がかかっており、視界が悪くなっていた。


 そんな中で、警備隊らは朝の見回りをしていた。




 「すごい靄だな。これでは何をしていても分からないぞ」




 そう話す一人のちょび髭を生やした隊員。その隣を歩く若い隊員は「こんな中で剣を振り回すのは不利になりますね」と辺りを見渡して言う。


 近頃、皇都付近の治安が悪くなっており、こうして毎朝、昼、晩と見回りをすることになったのだ。



 前々からも見回りは行われてはいたが、ここ最近、より強化されたのだった。




 「流石にこんな靄が酷い時に出歩く者はいないだろう。視界が悪くて怪我をしてしまう可能性があるからな」


 「現に誰一人として歩いていませんしね」




 後一周ほどし、見回りを終わらせようと話す二人。


 先ほどよりかは靄が薄くなって来たのか、少し視界が良くなって来た。



 だからといって油断は禁物。

 いつもより慎重に歩みを進める隊員たち。


 そして一周し終え、何も異常がなかったため、屯所に帰ろうと歩いて行こうとした時だった。




 「おわっ……!」




 若い隊員が何かに足を持っていかれそうになったのか、転んでしまいそうになる。


 だが、体幹が良いため転ぶことはなかった。




 「大丈夫か?」と問うちょび髭の隊員に、若い隊員は「はい……何か足元に置いてあったみたいで、足を……」とまで言った時。


 足元に視線を向けては「せ、先輩……!」と酷く顔を青ざめさせる。



 そんな若い隊員の表情を見たちょび髭の隊員は「どうした?」と、足元に視線をやる。


 靄がかかり、はっきりと見えない。



 ちょび髭の隊員は目を凝らし見る。

 するとうっすらと人の足のようなものが見えて来る。



 人か……? 酔っ払って眠っているのか?


 そう呑気なことを考えるのも束の間、靄が薄くなり、視界に写った光景を見て「これは……!」と口元を手で抑える。



 その手は小刻みに震えている。


 眠っているため横たわっていると思われたその人は、かろうじて上半身が繋がっている状態の、何とも惨い(むごい)死体だった。



 体格的に恐らく男性だろう。


 だが身元が分からないようにするためか、顔も判別できないほどになっていた。



 戦の場でもここまでの死体は見たことがない。


 若い隊員は動揺が隠せないのか、固まってしまっている。



 そんな彼を見てちょび髭の隊員は我に帰ると「俺がここに残る。お前は屯所に戻り直ぐに報告をしてくれ。」と指示を出す。


 その言葉に若い隊員はハッとした表情を浮かべると「は、はい」と頷き走って行く。







 「アルバート! もう少しここを飾ろうよ!」




 シュタインは白い造花を手にしては、キラキラとまるで純粋な子どものような目をアルバートに向ける。


 そんなシュタインに向かい、談話室へとちょうどやって来たエーデルが「それ以上飾ったら視界がうるさいからダメだ」と呆れたように言う。




 「えー……生誕祭なんだよ? うるさいくらい飾らないと!」


 「もう十分飾っただろ? これ以上飾ってお前はうちを花畑にでもするつもりか?」




 エーデルはそう言うと、かなりの数の造花が飾られた室内を指差す。


 エーデルの言う通り、花畑、というよりかは白い造花ばかりで雪が積もっているように見える。




 「これ以上部屋を花畑にするつもりなら、お前だけプレゼントなしだからな」




 その言葉にシュタインは造花を体の後ろに隠しては「はい! もう飾りません!」と言う。


 そんなシュタインを見て一つため息をつくエーデルに、側で見ていたリーナとメイド長のエマが顔を見合わせて、眉を下げ笑い合う。




 アサーナトスを創ったと言われている神・マグヌスの生誕を祝うため、四年に一度、アサーナトスでは生誕祭というものが国全体で開かれる。


 その期間は、家も街も白と金の造花や装飾で飾られ、マグヌスの生誕を祝うのだ。



 シュタインたちも生誕祭を祝うため、屋敷内を飾っていた。




 「よし。談話室飾り終えたし、今度は玄関を飾りに行こう!」




 シュタインはそう言うと、使用人たちを引き連れ、張り切って玄関へと向かう。


 その様子を見ていたエーデルが「あいつ、あと二年で成人なんだよな?」と呆れている。




 「子どものように楽しめるのは素敵なことだよ」




 そう話すリーナにエーデルは「まぁそれもそうだな。」と頷く。




 「成人を迎えたからといって、落ち着くシュタインなんか想像できないしな」


 「確かに」




 エーデルとリーナはそう言って笑い合う。


 その時「おぉ……ここもすごい飾ってあるね」と言う声が聞こえて来る。



 その声がする方に顔を向けると、そこにはリヒトの姿があり、エーデルが「リヒト」と声をかけると「来てたのか」と言う。




 「今ね」


 「玄関の方、騒がしかっただろ?」


 「うん。シュタインが張り切って指示を出していたよ」




 そうエーデルと話していたリヒトは、リーナに視線を向けると「おはよう、リーナ」と挨拶する。


 そんなリヒトに、リーナはどこか緊張したような面持ちで「お、おはよう! リヒト」と笑み浮かべる。




 「そういえば、用があるんだよね? 私たちはもう出るね!」




 どこかよそよそしいと言うか、照れくさそうな様子のリーナはそう言うと、メイド長のエマに「出よう!」と声をかけるとそそくさと談話室から出て行く。


 その様子を見つめるリヒトに、エーデルが「……お前らなんかあった?」と問いかける。




 「え?」


 「いや、なんか最近お前たち……というよりかは、お前を前にしたリーナの様子が変だろ? 喧嘩とかではないだろうけど」




 そう話すエーデルに、リヒトは流石、よく周りを見ているな。と感心する。


 そして「実は、リーナに俺の想いを伝えたんだ」とはっきりと話す。



 あまりにも突然のことで「え?」と驚くエーデル。


 「いつ……?」と言うエーデルに、リヒトは「つい先日だよ。俺の誕生日の日」と話す。



 エーデルは日にちを聞いては「あぁ……あの日」と、帰ってきたリーナがどこかそわそわしていたことを思い出す。




 「返事は? 付き合うことになったのか?」




 その問いに、リヒトは首を横に振ると「返事は貰ってないんだ」と言うので、エーデルは「は……? 何で?」と訳がわからないと言いたげな表を浮かべる。


 そんなエーデルに「……今は気持ちを知っていて貰うだけで十分だから。」と話すリヒト。




 「そんな呑気なことを言ってると、誰かに取られるぞ」


 「リーナがその人を選んだのだとしたら、それでも構わない」


 「お前なぁ……」




 呆れた表情を浮かべるエーデルに「エーデルもそうだろ?」と言うリヒト。


 その言葉にエーデルの動きが止まる。




 「リーナが幸せになることが一番だって、話してたじゃない」


 「いや、俺はそうだけど。お前はそういう訳にはいかないだろ……!」


 「そういう訳って?」




 そう首を傾げるリヒトに、エーデルは口をつぐむ。


 恐らく、リーナもリヒトのことを好いているであろう事はエーデルにはわかっている。


 だがそれを今ここで自分の口から言っていいのか? と考えているのだ。



 エーデルはしばらく沈黙すると「……何でもない」と話すのをやめる。




 「兄の俺が言うのも何だが、リーナはそれはそれは美人で性格も良くて、可愛らしいんだ。あいつのことを好いている奴は大勢いる」


 「だから何処の馬の骨かもわからないぽっとでのやつに、リーナを取られてしまうかもしれないってことを、頭に叩き込んでおくんだぞ!」




 エーデルの言葉に「わかってるよ」とリヒトは頷くので「本当かよ」と疑いの目をかけるエーデル。




 「そもそも、そんな奴らにリーナを渡す気はないからね。」




 リヒトの言葉を聞き固まるエーデル。


 そんなエーデルを気にせず「まぁ、リーナは俺のものじゃないけど」と笑うリヒト。



 エーデルは額に手を当てると「……お前ってそういうやつだよな」とため息を一つつく。




 「もうやめだやめ。本題に入る前に疲れた。少しお茶でも飲もう」




 エーデルはそう言うと、ソファーに腰を掛け、用意されてあったお茶を飲む。


 そんなエーデルの向かい側に、リヒトは腰を下ろすと同じお茶を飲む。




 「例の件、シャッテンヴェヒターが引き継いだんだろ?」




 エーデルはティーカップを受け皿に置くと、リヒトを見てそう問いかける。


 リヒトもティーカップを置くと「あぁ。」と頷く。




 「もう、四件目だからね。流石に呑気な陛下もまずいと思ったんじゃないかな」


 「ったく……初めの時点で何らかの事件性がある事はわかっただろうに」




 そう話すエーデルに「まぁ、シャッテンヴェヒター(うち)は他の件も抱えてるからね。そこを配慮する……ような方ではないか」とリヒトは言う。




 「それで、捜査の方はどうなんだ?」


 「目撃情報もなければ、殺害された者たちの共通点もない。正直、お手上げだよ」




 そう言葉の通り手を上げ首を横に振っては、困った表情で笑うリヒト。


 そんなリヒトに「共通点ならあるだろ」と話すエーデル。



 リヒトは「え?」と首を傾げる。




 「四件とも惨い殺され方をしている」


 「まぁ……そうだけど」


 「となれば犯人は被害者に何らかの恨みを持っていた可能性がある人物になるんじゃないか?」


 「と思って調べてはいるけど、被害者たちはいたって普通の人たちだった」




 リヒトの言葉に「まぁ、もう調べてあるか」と頷くエーデル。




 「もう一つ共通点があるだろ? どの件も早朝に発見されているって事。そしてどの遺体も皇都付近で見つかっている」




 初めに変死体が見つかったのは、警備隊が朝早く見回りをしていた時だった。


 その時見回りを担当していた、ちょび髭の隊員と若い隊員が、霧がかかる中見つけたのだった。



 残りの三件は、警備隊だったり、酔っ払いだったり、荷馬車に乗っていた人だったりと発見した人物は違ったが、どの件も早朝に発見されていた。




 「……そういえば、この前お前が言っていた話あっただろ?」




 リヒトの問いにエーデルは「この前?」と一瞬眉を顰めるも、思い出したのか「あぁ……獣のような声が聞こえたってやつか?」と話す。




 「あぁ。お前の話を聞いて俺も気になったから、暇を見つけて調べていたんだけど」


 「お前、ただでさえ忙しいのにそのことまで……ちゃんと休んでいるのか?」




 そう問いかけて来るエーデルに「変死体の件を調べている時に聞き込みをしているから大丈夫だよ」と話す。




 「それより、何人か聞いたことがあると話していた人がいたよ。それもエーデルが聞いた場所と同じ皇都付近で」




 リヒトの話を聞き「やっぱり聞き間違えじゃなかったのか」と腕を組むエーデル。


 そんなエーデルにリヒトは「……これはただの憶測だけど」と話す。




 「この獣のような声と、今回の変死体の件。何か関わりがあるんじゃないかな。何となくだけど」


 「お前もそう思うか? 俺もそんな気がして調べているんだけどな」




 エーデルはそう言うと、真剣な表情を浮かべ「これから生誕祭の期間に入る。何が起きてもおかしくないからな」と話しては、リヒトを真っ直ぐ見る。




 「気をつけろよ」




 その言葉に、リヒトは眉を下げ笑みを浮かべると「エーデルもね」と頷く。




 それから数日後、生誕祭が始まった。

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