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公爵家の養女  作者: 透明
第四章 最悪な結末
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違和感

 


 あの日、デビュタントのバルコニーで彼女が泣いていたことを、リヒトは後で知る。


 その泣いている理由はリーナがデビュタントをし、以前に比べて社交の場に顔を出すようになり、良くも悪くも目立つ彼女への一部の人たちの嫉妬が理由だった。



 彼女がもてはやされるのをよく思わない者が何人かおり、その筆頭に第一皇子殿下の婚約者もおり、殿下の婚約者から嫌われないようにするため、リーナに嫌がらせをする者が後を絶たなかった。




 『――何をしているんだ?』




 突如、背後から現れたリヒトの姿に、ブリューテと数名の令嬢たちは『ぐ、グランベセル公子……!』と慌てたようにリヒトの方を振り返る。


 そんな彼女たちに取り囲まれるように、頭から何故か水を被った様子のリーナが、俯きながら立っていた。




 『これはその……!』と言い訳でもしようとしたのか、リヒトに向かい何かを言おうとするも、リヒトはそれを無視し、ブリューテたちの間を通り抜けては、俯くリーナの元へと行く。




 『このままでは風邪を引いてしまう。向こうに暖炉がある部屋があるのでそこへ行きましょう。』




 リヒトはそう心配そうな表情を浮かべ、リーナの事を覗き込んでは、胸ポケットからハンカチを取り出し、リーナに渡す。


 そんなリヒトに『……私は大丈夫です。ハンカチが濡れてしまいますよ』と言うリーナ。



 『そんな事を気にしないで。今は自分のことだけを考えて』とリヒトは無理やりハンカチを手に握らせる。


 そのやり取りを見ていたブリューテが『グランべセル公子、これは違うのですわ……! 少しおふざけが過ぎて……』と話し出す。



 そんなブリューテたちのことを振り返るリヒトの目は冷め切っており、軽蔑しているのが窺える。


 そして、先ほどまでリーナに向けていた優しい声音とは違い、低く冷たい声で言う。




 『話すことを許可した覚えはないぞ』




 その言葉に、ブリューテたちは押し黙る。


 リヒトは『言い訳は第一皇子殿下の前でするんだな』と言うと、リーナの方を向き『行きましょう、ヴァンディリア令嬢。早く温めなければ』と言う。



 リヒトの言葉にリーナは頷くと、リヒトはリーナの手を取り歩いて行く。







 『温まりましたか?』




 暖炉の前で椅子に座り、毛布にくるまりホットミルクを飲むリーナの前に、リヒトは膝をついてリーナにそう問いかける。


 リヒトたちはパーティーに来ており、パーティーの主催者であり、会場の持ち主の主人にわけを話すと、すぐに暖炉のある部屋へと案内してくれ、頼んだ通りホットミルクと毛布も持って来てくれたのだ。



 リーナは両手でカップを持ちながら『ありがとうございます、グランベセル公子。もう寒くありません』と礼を言う。


 そんなリーナに『良かった』と笑みを浮かべるリヒト。




 『ここには好きなだけ居ていいと許可をもらっているので、ゆっくり休んでくださいね』




 そう話すリヒトに、リーナは『あ、ありがとうございます……』とどこか曖昧な返事を返す。


 リヒトは、ハッとすると『すみません。俺がいると休まらないですよね』と言って立ち上がると『ゆっくり休んでくださいね』と部屋から出て行こうとする。



 だがそれをリーナが『待って……!』と呼び止める。


 そして言いにくそうにしながら『……エーデルにはこの事……』と話す。



 リーナはエーデルに心配をかけたくないのだろう。

 

 リヒトはリーナがそう言うだろうと、エーデルには話していなかった。



 リヒトが首を横に振ると、リーナは安心した表情を浮かべては『ありがとうございます』と礼を言う。




 『あそこで公子が来てくださらなかったら、濡れたまま会場に戻らなければいけないところでした』




 そう眉を下げ笑みを浮かべるリーナに、リヒトは『何故、あんなことに?』と問いかける。


 リーナは『……私が令嬢の婚約者に色目を使ったと疑いをかけられてしまいまして』と話す。




 『挨拶をしていただいたから、挨拶をしただけなんですけど……誤解を解くのは難しいですね』




 そう話すリーナ。

 笑みを作っているが、辛そうなのが見てわかる。



 いつしかから彼女につけられた〝帝国一の魔性の女〟と言う名。


 誰が言い出したのかわからないが、大勢の人たちから好かれる彼女に対して、発せられるその言葉とは全く違うということをリヒトは知っていた。




 『……エーデルには話さないつもりですか?』




 リヒトの問いにリーナは『迷惑かけたくないので』と言う。


 その言葉に、()()か……。と視線を逸らすリヒト。



 彼女は帝国一の魔性の女などと言われているが、本当は誰よりも人に興味がなく、寄せ付けない人だ。


 彼女の元に人がやってくれば、笑顔で対応をするが、どこか壁を感じ、決して自ら話すことはない。



 彼女に話しかける者は、話すことに必死になって気づいていないが、側で見ていたリヒトはそのことに気づいていた。



 だから何年も一緒にいるエーデルたちにも、迷惑をかけたくないと常に気を遣っている。


 そして誰にも知られないところで一人涙を流している。


 誰よりも孤独な人だ。



 それを知っているからリヒトは、リーナに想いを伝えることも、アピールすることもなかった。


 自分まで彼女に好意を見せれば、さらに周りが何を言い出すかわからないし、きっと好意を見せた瞬間、彼女は今よりももっと壁を作るだろうから。



 だからこうして、彼女の話を少しでも聞いてあげられる今の関係にとどまっていた。


 なのに……。




 リヒトは目の前に眠るリーナの事を見つめる。


 あんなに血色感のあった肌や唇には血色感がない。



 こんな事になるのなら、想いを告げ、誰も彼女のことを知らない土地に連れて行くべきだったと、後悔するリヒト。


 でもきっと、彼女は頷いてはくれないだろうけど。




 『……もし、もう一度人生をやり直せるのなら……想いを伝える事を許してくれますか? その時あなたは……頷いてくれますか?』


 『もう一度やり直して、想いが届かなかったとしても、今度は必ず、あなたを死なせはしない』




 そう話すリヒトの言葉は、誰に届くわけでもなく、静かな部屋に消えていった。







 リーナが殺された事に、シャッテンヴェヒターらはブリューテが関与しているとし、ブリューテその他数名の斬首を陛下に求めるも、陛下はそれを許可しなかった。


 その事により、ヴァンディリア含め一部貴族や国民たちから皇室に対しての批判の声が上がりはじめている。



 皇帝陛下は身内に甘く、今回、ブリューテが関与したと思われる証拠が多数出て来ているが、陛下はブリューテを庇っているのだ。


 その事に、エーデルは怒り、何百年と築き上げて来たヴァンディリアと皇室の仲に亀裂が入ってしまった。



 今回の件で完全にヴァンディリア含め貴族たちは、皇室に不信感を抱き、このままではいつ反乱が起こってもおかしくはない状況。


 そして、パラディースの盗賊たちも関与していたとし、停戦状態だったアサーナトスとパラディースの戦争の火種となってしまい、貴族たちは戦争に向け着実に準備を進めていた。



 まさに国中は怒りに包まれており、たった一人の死が人々を動かしてしまったのだ。


 

 そんな中、冷静な者が二人。


 事件があった現場にやって来ては、再度調べているようだった。




 『――おかしいと思いませんか?』




 そう言ったのは、もう馬車などは回収されてしまった後の事件現場にしゃがみ込み、僅かに残る血痕を見るノアだった。


 ノアの言葉に、近くにいたリヒトがノアを振り返る。




 『エズワルド令嬢は確かに、リーナの事を嫌っていましたし、動機としては十分ですが、彼女が本当に犯人なのなら何故、証拠となるようなものを自身の部屋に置いていたのでしょうか』




 ノアの言う通り、今回ブリューテのことを拘束するきっかけとなった資料や手紙がブリューテの部屋から出て来たのだ。


 本人はやっていないとずっと否定しているようだが、はっきりとした証拠が出て来ているので、それを聞いてはもらえていない。



 ノアの言葉にリヒトは『それは私も思っていました。いくら考えなしな者でも、証拠となるようなものは自分の手元には置いてはおかないでしょう』と答える。


 そして今度は、リヒトが疑問に思ったことを話す。




 『それに、一度馬車から連れ出された形跡があることも気になりますね。』




 シャッテンヴェヒターの調べによると、馬車に残っていた靴跡は二足あったようで、そのうちの一つの靴跡には泥が混じっていたという。


 丁度、リーナが発見された時は雨が止み、地面がぬかるんでいたのでその時ついたのだろう。



 だが泥がついていたのは、一つの方だけだった。


 ぬかるみを歩いたとすれば、二足とも靴跡に泥が混じっているはずだ。




 リヒトは少し黙ると『……これは憶測ですけど』と話し出す。




 『誰かがエズワルド令嬢の事を犯人に仕立て上げているのではないでしょうか』




 リヒトの言葉に、ノアは表情を変えずに黙ったまま耳を傾ける。




 『エズワルド令嬢がヴァンディリア令嬢の事を殺害した犯人だと分かれば、エーデルは怒り、極刑を求めるでしょう。ですが陛下は身内には甘く、必ず彼女のことを庇い、刑を下さない。』


 『そうなればエーデルは反発し、他の貴族や国民らも不信感を抱く』


 『犯人の狙いはそこにあると思います。』




 リヒトの言葉に『ヴァンディリア公爵家と皇室の仲を裂くこと……』と自分で言い、驚いた表情を浮かべるノア。


 リヒトは頷くと『そこの仲が裂ければ、皇室の力が弱まる。そうなり一番利益を得られるのが〝神聖国〟です』と話す。




 『他の貴族の信頼が厚いヴァンディリア、グランべセルがついている皇室にはなかなか手出しはできない。だがどちらかの家が皇室から離れ、他の貴族や国民らの不満が皇室に全て向いている今なら』


 『いくらでも入り込む隙ができる』




 ノアの言葉にリヒトは頷く。




 『シセルバン(我々)でも調査を進めますが、いくら神聖国に許可なく立ち入ることができるとはいえ、今回ばかりは難しいかもしれません』


 『グランべセル(うち)も動きますが、もう少し協力してくれる者がいればいいのですが……エーデルは、完全に冷静さを失っていますから』




 ノアとリヒトがそう話をしていると、茂みを歩く音がし、二人は瞬時に腰に差す剣に手をかけ警戒する。


 だが、やって来た人物を見てすぐにその警戒心は緩められる。




 『申し訳ありません。驚かせるつもりはなかったのですが……私も、捜査に参加させていただいてよろしいでしょうか』




 そう落ち着いた声で話す彼を見、リヒトは言う。




 『ヴィルスキン辺境伯……!』

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