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公爵家の養女  作者: 透明
第四章 最悪な結末
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思い出

 


 『リヒト。ここにいたのか……って何してるんだ!!』




 そう言いながら、バルコニーへとやって来たのは若かりし頃のグランベセル公爵。


 そんな公爵の視線の先には、バルコニーの手すりに手をかけ、身を乗り出そうとしている少年がおり、その少年を見るなり公爵は血相を変え彼に駆け寄る。



 少年は『見つかったか……』と悔しそうに呟いては、手すりから降りて『父上』と駆け寄って来る公爵に近づく。




 『手すりになんか登って、一体何をしようとしていたんだ?』


 『……蝶々が飛んでいたので捕まえようと』




 そう答える少年は幼き頃のリヒトで、公爵は頭を抱えては『そんなものを捕まえるために、お前が大怪我をしたらどうするんだ』と息を吐きながら言う。


 そんな公爵を見ながら、本当はそこから逃げようとしたんだけど……と考えては『ごめんなさい、父上。もうやりません』と謝る。



 素直に謝るリヒトに公爵は『頼むぞリヒト。身を乗り出しているのを見て、どれだけ肝が冷えたか……』と眉をひそめる。


 一階にあるバルコニーなので、落ちても軽い怪我程度で済むだろうが、まだ九つと幼いリヒトの場合は別だ。



 いくら高さがないといえ、幼い子どもが落ちてしまえば大怪我をしてしまう。




 『お前は昔から大人しいように見えて、少しわんぱくなところがあるからな。もう少し、グランベセルの嫡男だということを自覚するんだ』


 『わかっています。父上』




 リヒトは公爵の説教が長引くと思い『そういえば父上。僕を呼びに来たのですよね?』と話を変える。


 公爵は、思い出した。と言わんばかりの表情を浮かべると『そうだった。ヴァンディリア公爵たちが来たから挨拶をしに行くぞ』と言う。




 『エーデルとシュタインですか?』




 リヒトの問いに『あぁ。それと、リーナという子も来ている』と話す公爵。


 『リーナ?』と首を傾げるリヒトに、公爵は『この間話しただろ? ヴァンディリア公爵が養子を引き取ったと』と歩き出しながら話す。



 そういえば、そんなことを話していたな。と思いながら、公爵の後に続くリヒト。


 この時、エーデルとシュタインとは何度か会った事があったが、リーナとはまだ会った事がなかった。



 リヒトは公爵に言われるがまま、パーティー会場へと入っては『ヴァンディリア公爵』と嬉しそうに声をかけるグランべセル公爵の後を続く。


 そこにはヴァンディリア公爵と、三人のリヒトと同い年くらいの子どもがいた。



 二人は男の子で、リヒトが何度か会った事があるエーデルとシュタイン。


 もう一人は女の子で、ヴァンディリア公爵の隣に不安そうに立っている。



 確か、エミリアと同い年って言ってたな。

 なんて考えながら公爵の隣に並ぶリヒト。


 ヴァンディリア公爵は『ほら、リーナ。グランべセル公爵とリヒトくんに挨拶を』と幼き日のリーナに言う。



 リーナは不安そうな顔を上下に小さく振ると、一歩前に出て来ては『……初めまして。リーナ・フォン・ヴァンディリアです。よろしくお願いします』と名前に慣れていないのか、少し小さくなった声で自己紹介する。


 そんな彼女にリヒトも『リヒト・フォン・グランべセルです。よろしくお願いします』と返す。



 そして、リーナが手に持つうさぎの人形に視線をやっては『そのうさぎ可愛いね』と話す。


 するとリーナは嬉しそうに笑みを浮かべては『ありがとう』とお礼を言う。



 そんな彼女の笑顔を見たリヒトの心臓は音を立てる。


 そして彼女の可愛らしい笑顔から視線が離せなくなってしまう。




 『このうさぎ、私の宝物なの』




 そう話すリーナに『えっ』と驚くリヒト。

 彼女に見惚れ、声が遅れて聞こえて来たのだ。


 何か返そうとするも『後一人、リーナちゃんと同い年の娘がいるんだよ』と言うグランべセル公爵の声に遮られてしまう。



 その言葉にリーナの視線はグランべセル公爵へと向けられ、リヒトとの会話は終わってしまう。


 大きな目を目の前にしゃがむグランべセル公爵に向けるリーナ。



 そんな彼女を見て、もう少し話したかったな……と思うリヒト。


 これがリーナとリヒトの初めての出会いであり、リヒトが生涯で唯一恋に落ちた瞬間だった。







 リーナと初めて会った日から七年。


 あの日以降、リヒトはリーナと会うことはなかった。



 体調が悪く、家にいるといった噂を聞いていたが、本当はパーティーに参加した時に、参加者の心無い言葉に傷ついたからだということは、グランべセル公爵から聞いて知っていたリヒト。


 そこから人と会うのが億劫になってしまい、屋敷でも一人で過ごす事が多いと、エーデルが話していた。



 本当は、初めて会った日からずっと、もう一度リーナに会いたかったが、リーナが嫌がることはしたくないと会うのを我慢していた。


 リヒトはエーデルとシュタインと仲が良いので、よく、ヴァンディリアに行っては、剣の稽古をしていたのだが、その時もリヒトはリーナに会うことはなく、帰っていたのだ。



 当然、エーデルたちもリヒトがよくヴァンディリアに来ているということを、リーナに話すわけはないので、リヒトとリーナが会うことはなかった。




 まぁ、リーナが知ったとしても、俺と会ってくれるとは限らないけど。




 そう考えながらヴァンディリアの屋敷を歩くリヒト。


 エーデルと剣の手合わせをした後、シュタインが庭で遊ぼうとせがんできたので、先に庭で待つシュタインの元へと向かっていた。



 エーデルはというと、もうしばらく騎士たちに稽古をつけてもらうと、残っている。




 遠くの方から、シュタインの『アルバート! 早く持って来て!!』と言うはしゃぐ声が聞こえて来る。


 その声を聞いては、またシュタインのやつ、アルバートのことをこき使っているな。アルバートももう歳なのに。と呆れた表情を浮かべては、シュタインの相手を早く変わってあげなければと、少し早足でシュタインの元へと向かう。



 その時、あたりに突風が吹き、リヒトの髪が乱れリヒトは目を瞑る。


 それと同時に『わっ!』と言う声が上から聞こえて来た。



 今の声……。と思いながら、顔を上に上げると、そこにはバルコニーがあり、そこには一人の綺麗なブロンドの髪をした少女が目を押さえ立っていた。


 先ほどの突風で、目に砂でも入ったのだろう。



 そんな彼女を見て、リヒトの心臓は激しく音を立てたかと思えば、早く打ち始める。


 七年前、たった一度だけ会った彼女に次に会う時、すぐに分かるだろうか。そしてその時、初めて彼女と会った時のように胸は高鳴るのか。



 そんな事を考えては、彼女に再び会える日の事を待ち望んでいた。


 そして今、視線の先にいるその少女を見て、リヒトの胸は高鳴り、初めて会った時のことを思い出す。




 一目見ただけで、彼女がリーナだということが分かったリヒト。


 嬉しくて、思わず話しかけてしまいそうになるも、出そうになった言葉を飲み込む。



 ここで話しかけてしまえば、彼女を怖がらせてしまうかもしれない。


 恐らく誰も来客が来ていない→来客が来ていない、または、誰も来ていないと思っているだろうから、そこで自分が声をかけてしまえば、驚かせてしまう。



 そう咄嗟に思ったリヒトは、なるべく彼女の視界に入らないように少し場所を移動する。


 けれど視線はずっと彼女に行ってしまう。




 初めて会った時と変わらないな。


 そう考えては、やっと会えたことへの喜びと、今すぐにでも彼女と話をしたいという思いが出てくる。




 彼女はずっと庭の方に視線をやっている。


 その先には、執事長のアルバートや使用人たちと楽しそうに話すシュタインがおり、微笑ましそうにしている。



 シュタインの方を見るのに夢中で、リヒトの方は一切見る事がないリーナに、少し複雑な感情になるも、楽しそうにしている姿を見られて良かったと思う。


 その時『お嬢様』と呼ぶ声がしたかと思えば、おそらくメイドがリーナの元へとやって来たのだろう。



 リーナは後ろを振り返り頷くと、少し名残惜しそうにバルコニーを後にする。


 リーナがいなくなったバルコニーは、どこか寂しさを残しているように見えたのは、自分がリーナが見えなくなり寂しさを感じているからだろうか。



 リヒトはバルコニーをしばし見つめては、視線を逸らしてシュタインの元へと向かう。


 リーナとは話すことはできなかったけど、分かった事がある。



 それは、今でもというかあの頃よりもリーナの事を好きで恋焦がれているという事。


 幼い日の恋心など、大人になれば忘れると聞くけれど、リーナに対するリヒトの思いは忘れるどころか、日に日に増していくばかりだった。



 その日から更に二年経ち、リヒトは十八、リーナは十六歳になりデビュタントを迎えた。




 『リーナ・フォン・ヴァンディリアです』そう言って目の前で、ドレスの裾を広げお辞儀をする彼女に、リヒトも『リヒト・フォン・グランべセルです。デビュタントおめでとうございます』と返す。


 デビュタント会場で再会した二人。



 二年ぶりに会ったリーナは、美しさに更に磨きがかかり、誰もが思わず振り返ってしまうほどの美人になっており、彼女の事を皆はヴァンディリアに咲く白薔薇だと褒め称えた。


 そしてそんな彼女と一緒に是非踊りたいと、彼女を誘う人は後を絶たなかったが、リーナは初めのダンスをエーデルと踊ったきりで全て断っていた。




 まだ、こういった場所には慣れないのかな。




 そんな事を思いながら、リーナを気にかけていたリヒトもまた、こういったかしこまった場所が苦手で、少し外の空気を吸いに行こうと、バルコニーへと出る。


 バルコニーには先に人がおり、リヒトはその人物を見て驚いたように足を止める。



 そんなリヒトに気がついたその人物は、ゆっくりと振り返っては『グランべセル公子』と声をかけて来る。


 名前を呼ばれただけで、うるさくなる心臓を落ち着かせながら『ヴァンディリア令嬢』と平常心を装いながら返すリヒト。


 バルコニーにいたのはリーナだったのだ。



 リヒトは『ヴァンディリア令嬢も風にあたりに?』と問うと、リーナは頷くと『グランべセル公子も?』と問い返して来る。


 リヒトは頷いて『こういった場所はなれなくて』と話す。



 リーナは『私もです』と眉を下げて笑みを浮かべる。


 その表情も可愛らしく見えたリヒトは、きっと彼女がどんな表情や仕草をしても可愛く見えてしまうのだろうと思う。



 そんな事を考えているリヒトに、リーナは『どうぞ使ってください。私はもう戻るので』と場所を譲るので、リヒトは咄嗟に『もう戻られるのですか?』と呼び止めてしまう。


 そして『もしかして、お邪魔してしまいましたか……?』と問いかける。




 『いえ。そろそろ戻ろうと思っていたので』


 『そう、なんですね』




 どこか安心したような表情を浮かべるリヒトに、リーナはクスッと笑みを浮かべると『ここから見える噴水がとても綺麗なんですよ』と視線を左に向ける。


 噴水……? と思いながら、リーナの視線の先に自分も顔を向けた。



 真ん中にある噴水が見えた。




 『本当だ……綺麗ですね』と穏やかに笑うリヒトをリーナはじっと見つめては『グランべセル公子は話しやすいですね』と言う。


 突然の言葉に『え……』と驚くリヒト。



 だがリーナはすぐに『もう戻りますね。』と言っては会場内へと入っていく。


 そんなリーナを見送っては、リヒトは深いため息をついたかと思えばまだ、口元に手を持っていくなり『話しやすいと言われただけでこんなに嬉しくなるなんて……』と眉を下げ笑みを浮かべる。



 そんなリヒトは耳元まで真っ赤になっていた。


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