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公爵家の養女  作者: 透明
第四章 最悪な結末
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魚の目に水見えず

 


 『なぁ兄貴』




 エーデルの執務室にあるソファに座るシュタインは、執務椅子に座り、目の前の書類にずっと目を向けるエーデルに話しかける。


 エーデルは書類から視線を逸らさずに『どうした?』とシュタインに聞き返す。



 シュタインはどこか考えたように、顔を下に向け手をいじりながら『……リーナが婚約したじゃん』と言う。


 その言葉にずっと書類に向けられていた顔は、シュタインの方を向く。



 そんなエーデルに、シュタインは続ける。




 『って事は、いずれ結婚してここを出て行くわけでしょ? それなのに俺たち、未だに兄妹らしい事してないなって』




 そう曖昧に話すシュタインに『何が言いたいんだ?』と首を傾げるエーデル。


 シュタインは『だからさ』と言うと、ずっと自分の手元に向けられていた顔を、エーデルに向ける。




 『リーナがこの家を出て行くまではさ、兄妹らしいことをしたいなって』




 シュタインの言葉に驚くエーデル。


 だがシュタインは気にせずに『今さら遅いかもしれないけど、ずっと俺後悔してて』と話し出す。




 『初めてこの屋敷にリーナが来た時、母上が亡くなって直ぐでずっとモヤモヤしていたこともあるけど、いきなり兄妹になるって言われて、戸惑って、リーナに強く当たっちゃってさ』


 『最初にそんな態度をとっちゃったから、ずっとその態度が抜けなくて……本当は優しくしたいのに、出来なくて……』




 そう申し訳なさそうな表情を浮かべるシュタイン。


 『だから遅いかもしれないけど、家を出て行くまでは兄妹としてちゃんと接したいなと思って』と話す。



 そしてエーデルに『だから、兄貴もリーナにちゃんと接して』と言うのだ。




 『兄貴もリーナにだけ、素っ気ないでしょ。でも、本当は嫌いじゃないんでしょ?』




 シュタインにそう聞かれ、エーデルは口をつぐんでは視線を下に向け『……今更、兄妹らしく接するのをリーナが許してくれるかな』と言う。


 いつも自信があり、何でも完璧にこなすエーデルの、そんな不安そうで弱々しい姿を初めて見た気がするシュタイン。



 そして、そういえばリーナの事になると、いつも悩み葛藤していたような気がすると思い出す。




 『……わからないけど、許してもらえなくてもそれを受け入れなきゃ。リーナが何度も俺たちに歩み寄ろうとしてくれてたんだから』




 シュタインの言葉に、エーデルは『……できるかな』と零すので、シュタインは『できるよ』と返す。


 エーデルは『……そう、だな』と返すも、まだどこか不安そうな表情を浮かべていた。



 そして、この間のパーティーのことを思い出す。


 あの日、リーナとノアが一緒に歩いて行く姿を見ただけでも、心臓は激しく音を立て、嫉妬心がこみ上げてきた。



 そんな状態なのに、今更、リーナに対して兄として接することができるのだろうか。


 エーデルはそんな思いをシュタインだけではなく、他の人にも決して話す事はできなかった。




 そんなある日、リーナが朝早くから街にメイドとともに買い物へと出掛けて行ったのだが、もう深夜を回ろうというのにまだ帰って来ていなかった。


 そのことを受け、エーデルや騎士団はリーナが行きそうなところを探し回ったのだったが、しばらくし、リーナが屋敷に戻って来たと知らせを受け、エーデルは屋敷に戻る。




 無事に帰って来てくれてよかったと、安心したのも束の間、リーナと一緒にいた人物を見て、エーデルの中にある今までずっと隠していた嫉妬心が音を立て、崩れていくのがわかった。




 『ヴァンディリア当主』




 屋敷に戻って来たリーナは、何故かノアと一緒におり、ノアはエーデルを見るなり声をかける。


 その状況に訳が分からず『……何故、シセルバン伯爵がうちに?』と問うエーデル。



 ノアは『リーナが帰るのが遅くなってしまったのは、私が原因なので、リーナを送り届けるのと、妹を遅くまで連れ出していたことの謝罪を、と思い』と話す。



 ノアの言葉に、シセルバン伯爵が原因……? とエーデルは眉を顰める。


 そんなエーデルに『遅くまで連れ出してしまい、申し訳ありません。ですが、決してやましい事は何一つしておりません』と謝罪するノア。



 その言葉に、エーデルの心臓はズキッ――と音を立てる。




 ノアの言う事は本当だろう。彼は、結婚前に不誠実なことをするような人ではない。


 そう、分かってはいても、ノアのためにこんなに遅い時間まで叱られるとわかっていても付き合ってあげた事にモヤモヤするエーデル。



 何があったのかは知らないが、リーナが遅くなってもノアに付き合っていたということは、余程のことがあったのだろう。


 けれども今はそんなことはどうでも良かった。



 ただ、普段決して夜遅くに出ることがないようなリーナが、彼のために叱られることを覚悟で遅くまで一緒にいた。


 婚約者なのだから、別におかしくはないのに、その事実が酷くエーデルの心を締め付ける。




 エーデルはぎゅっと手に力を入れると『……謝罪はいいです。もう夜も遅いので帰って頂けますか』とノアに言う。


 その言葉にノアは『しかし……』と躊躇うも『屋敷の者たちももう遅いので、寝かせてあげなければ』と言うエーデルの言葉に『……申し訳ありません。夜遅くに』と謝罪する。



 そして『今日はこれで失礼いたしますが、後日また改めてお詫びを』と一礼すると、屋敷を後にする。


 そんなノアを見送ると、エーデルはリーナに『もう夜も遅い。お前も部屋に戻れ』と声をかける。



 どんなに普段素っ気ない態度を取っても、必ず目を合わせてくれるエーデルだが、今はずっと視線が逸らされている。


 その事に、リーナはエーデルが怒っている事を察し、歩いて行こうとするエーデルの事を『エーデル……!』と呼び止める。



 その声にエーデルは足を止めるも、振り返ろうとはしない。


 だが、リーナは気にする事なく『連絡もしないで、こんなに遅い時間に帰って来てしまってごめんなさい。皆に迷惑をかけてしまったことも……』と謝る。




 『言い訳みたいになるけれど、帰って来るのが遅くなったのには事情があって……ノアは帰れって言っていたんだけど、私が残るってわがままを言ったの。だから彼は悪くないの』


 『本当にごめんなさい』




 その言葉に、エーデルの中でずっと我慢していた思いの制御が効かず溢れてくる。


 それと同時に『……そんなにあいつの方がいいのなら、さっさとこの家から出ていけばいいだろ』とつい口にしてしまう。



 その言葉にリーナは『そんな事は……!』と言おうとするも、エーデルは聞こうとはしない。




 わかっている。別にノアの方が良くてずっと彼についていた訳でも、この家が嫌な訳でもないと言う事も。


 だが、醜い嫉妬心が出てきて、つい冷静にはいられずそんなまるで子どものような、八つ当たりするような事をリーナにぶつけてしまう。




 『もう、お前に振り回されるのはうんざりなんだ。……今はお前の顔を見たくない』




 そうリーナを振り返るエーデルは、酷く傷ついたような苦しそうな表情で。


 今まで見たことのない彼の表情と、聞いたことのない本心に、リーナは驚くのと同時に、そこまでエーデルに嫌われていたのだとリーナは泣きそうになるのを我慢し、手をぎゅっと握る。


 ここで自分が泣くのは違うと『ごめんね、迷惑かけて』とエーデルに謝る。




 その声にエーデルはハッとしたような表情を浮かべ『リー、ナ……』と呼ぶも、リーナは振り返らずに部屋を出て行ってしまう。


 我慢をしていたが、リーナは泣きそうになっていた。


 


 『何、してんだよ……』




 エーデルは自分の醜い嫉妬心をぶつけてしまった事を酷く後悔する。


 それから翌日、リーナはノアの元へと訪れた。



 これ以上、エーデルやシュタインに迷惑をかけられないと、ノアに結婚を申し込みに来たのだ。


 突然やって来たリーナに驚いたノアだが、リーナの表情を見て何かを察したのか『結婚しよう、リーナ』と言ってくれた。



 そしてすぐにリーナとノアの結婚は国中に報じられ、結婚式の日にちも決まった。




 リーナが結婚をするため、シセルバン家へと行く一日前のこと。




 『ほんっとに、何でリーナと喧嘩するかな。この前、兄妹らしい事をしようって話したばかりなのにさ』




 シュタインは部屋に飾る花をエーデルから受け取っては、そう文句を言いながら壁に飾りつける。


 エーデルはシュタインの言葉に『ごめん……』と謝るので、シュタインは『俺じゃなくてリーナに謝りなよ!』と怒る。




 リーナが帰って来るのが遅くなった日、その日シュタインは、もうすぐ叙任式を受けるために、合宿に参加しており帰ってから行く前より二人に距離がある事に気づき、エーデルに何かあったのかと問いただしたのだ。


 エーデルから話を聞き『そりゃ、連絡しなかったリーナも悪いけど、婚約者同士なんだしそんなに怒る事?』とシュタインは言った。



 エーデルも言いすぎた事を反省しており、リーナに謝罪をしたのだが、互いにどこか気まずく、ただでさえ距離がある関係にさらに距離ができてしまった。


 その上、リーナの結婚が急遽決まったものだから、このままでは距離ができたまま離れ離れになってしまうと、シュタインは仲直りすることも含め、リーナの結婚祝いを軽くしようと提案したのだ。



 そして今、飾りつけは自分たちでやるべき! というシュタインの言葉により、エーデルとシュタインはダイニングルームの飾り付けを行っていた。




 『いい? 兄貴。今日は絶対に喧嘩すんなよ!』


 『それはわかってるけど、お前も人のこと言えないだろ?』




 そう二人は言い合いながら、部屋の飾り付けをしていく。


 誰かのために、部屋を飾りつけたのなんて生まれて初めてなので、歪に見えるも、初めてにしては上出来だ。




 『なかなか良いんじゃない?』




 達成感のある顔で、飾られた部屋を見るシュタイン。


 その隣でエーデルは『もっと綺麗じゃないと……』と眉を顰める。



 そんなエーデルに執事長のアルバートは『気持ちが大事なのですよ。エーデル様』と話す。


 その言葉に『そうだよ、兄貴!』と言っては『それより、リーナはまだ帰ってこないの?』とシュタインはメイド長のエマに問う。



 エマは『予定ではそろそろ帰ってこられるはずなのですが……』と懐中時計を見る。


 リーナは朝早くから買い物に出掛けており、お供にはメイドはつけておらず、その代わり、二人の騎士を連れて行った。




 『早く帰ってこないかなぁ。リーナ喜んでくれるかな?』




 そうどこかそわそわと、緊張したように言うシュタインにエーデルは眉を下げ『喜んでくれたらいいな』と笑みを浮かべる。


 だが、それから一時間経つも、予定の時間を過ぎてもリーナは帰って来る事はなかった。

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