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公爵家の養女  作者: 透明
第四章 最悪な結末
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襲撃

 


 リーナが亡くなる一日前。

 



 『お嬢様? 何をなされているのですか?』




 お茶をリーナの部屋に持って来た、メイド長のエマは部屋に入って来るなり、驚いた表情を浮かべる。


 そんなエマにリーナは『あ、エマ。』と名前を呼んでは、眉を下げ笑みを浮かべて言う。




 『明後日にはこの家を出るでしょう? だから、少し片付けと掃除をと思って』




 机の上には本棚から出された本が積み上げられ、本棚の中を布で拭くリーナ。


 その様子を見たエマは、机の上にティーセットを置くと『掃除なら私がやりますので、お嬢様は休んでください』と慌てて言う。



 だがリーナは『いいの。自分でやらせて? 掃除をしながらいろんな事を思い出せるから』と拒否する。




 『それに、ずっとお世話になったんだし、屋敷全体は無理でも自分の部屋くらい自分で綺麗にしたいの』


 『お世話になったって……ここはお嬢様の家ではありませんか』




 そう寂しそうに話すエマに、リーナは笑みを浮かべる。




 『……エマが淹れてくれるお茶を飲むのも、あと少しだね』




 片付けが終わり、一息ついた頃。


 リーナはエマに淹れて貰ったお茶を飲んでは、そう話す。



 そんなリーナの言葉に『仰ってくだされば、いつでもお茶を淹れに行きますからね!』と前のめりにエマは言う。



 リーナはメイドなどはつけず、一人でシセルバン家へと嫁ぐ。


 慣れない家で一人嫁ぐのは大変だろうと、ノアはメイドをつける事を提案したが、リーナはそれを断った。



 連れて行くとなれば、必然的にメイド長のエマになる。


 自分の結婚で、慣れ親しんだヴァンディリアからエマを離すことは気が引けたのだ。




 『ねぇ、エマ』




 しばらく一息ついていた頃。

 リーナはどこか言いにくそうに、エマの名前を呼ぶ。



 そんなリーナにエマは『どうされました?』と首を傾げる。


 リーナは一瞬、言葉を詰まらせて『……エーデルとシュタインに何かプレゼントを贈りたいんだけど』と話す。




 『プレゼント、ですか?』


 『うん……兄妹らしくなかったとはいえ、今までお世話になったから、何か贈りたいなぁと思って……』




 『私からのプレゼントなんて、嬉しくないかもしれないけれど……』と眉を下げ笑みを浮かべるリーナに、エマは『そんな事は!! きっととてもお喜びになられますよ!!』とリーナの手を握る。


 そんなエマの圧に驚きつつも『だといいんだけど……』と返す。




 『プレゼントはもう買われているのですか?』




 エマの問いに、リーナは『実はまだ買えてなくて……』と首を横に振る。




 『ずっと探してるんだけど、何を贈ればいいかわからなくて……エマ。どこかおすすめのお店ない?』




 リーナの問いに、エマは力になりたいと頭をひねるも、出てこない様子。


 そんな時、コンコンッ――と扉をノックする音がしたので『どうぞ』とリーナが答えると『失礼します』と女性の声がして部屋に入って来る。



 その相手にリーナは丁度良いところに! とエマにした質問を彼女にもする。







 『ごめんね、二人とも。急に誘ってしまって』




 リーナが亡くなるその日、リーナはヴァンディリアの騎士二人と朝早くから街へと買い物に来ていた。


 目的は昨日話していた、エーデルとシュタインへのプレゼントだ。



 昨日、おすすめのお店を聞いたリーナは早速買いに来たのだった。


 明日にはヴァンディリアを出るので、ギリギリの買い物だ。




 騎士二人は『いえ』『お嬢様がシセルバン家に行かれる前に、こうしてお供出来るのがとても光栄です』とリーナに言う。


 リーナよりも、エーデルとシュタインの事に詳しいヴァンディリアの騎士たち。



 二人に聞きながら、エーデルとシュタインへのプレゼントを選ぼうと考えたのだ。


 リーナは『ありがとう』とお礼を言うと、二人は『お任せください!』と張り切っている様子。




 おすすめの店に着き、店内を見回っては騎士二人の意見のもと、プレゼントの候補を選んでいくリーナ。


 おすすめの店は一軒ではなく、何軒か教えて貰ったので全て見て回り、プレゼントが決まったのは数時間経った頃だった。




 『疲れた……』




 休憩にお茶をしに来たリーナたち。


 リーナは椅子に座るなりそう言っては、息を吐く。



 そんなリーナに『お疲れさまです』と声をかける一人の騎士。




 『二人もね……でも、なんか元気に見えるね』


 『体力は我々の取り柄の一つなので』




 騎士の言葉に『確かに』と笑うリーナ。




 『二人のおかげでいいプレゼントが見つかったわ。今日はついて来てくれて本当にありがとう』




 そうお礼を言うリーナに、騎士たちは『我々もお嬢様のお買い物に付き合えていいリフレッシュになりました』と返す。


 『そう言ってもらえて良かった』とリーナ。



 そんなリーナに『エーデル様とシュタイン様、きっととてもお喜びになられますよ』と騎士は言う。


 その言葉に『だといいんだけどね』とリーナは眉を下げ笑みを浮かべる。




 それから、どうせ買い物に来たからと、シセルバン家へと行けば、しばらく忙しく外出はできないだろうと、自分の買い物もしたリーナ。


 丁度、日も暮れ始めそろそろ屋敷に戻ろうと、リーナは馬車に乗り、その馬車の前後を騎士たちが馬に乗り守る。



 ゆらゆらと揺れる馬車に、エーデルと言い合いをしたのと、シセルバン家へと嫁ぐ事の不安から、最近あまり眠れていなかったせいか、だんだんと眠たくなってきて、うとうととしてしまう。


 ゆっくりと目は閉じられていき、完全に夢の中へと行く。



 そして馬車は森の中へと差し掛かった時だった。


 ガタンッ――と馬車が音を立て、激しく揺れる。


 その音と振動でリーナは目を覚ます。




 馬車が止まったのが分かり、リーナは眠い目を擦りながら馬車から出ようとした時だった。




 『お嬢様!! 馬車から出ないでください!!』




 そう焦りの混じった騎士の声が、馬車の外からしたのだ。


 その声に、馬車の扉にかけられた手の動きは止まり、リーナは『な、何……?』と眉を顰める。



 さっきの激しい揺れに、騎士の焦りの混じった声。


 何かあったのかと、リーナは『外で何が起きているの?』と問おうとした。



 だがそれは、騎士たちの苦痛の混じった叫び声により遮られてしまう。


 その声にリーナは『どうしたの? 何があったの?』と扉を叩いては『お願い、返事をして!』と声をかける。



 けれど、返事が返ってくることはなく、リーナは騎士たちの安否を確かめるため、馬車の扉に手をかけようとした。


 その時、ギーッとゆっくりと音を立て、馬車の扉が開かれる。



 だが、扉が開いた先にいた人物の顔を見、リーナの表情は青ざめて行く。


 そして『あなたは……』とリーナが呟いたのと同時に、リーナは頭を強く殴られ気を失ってしまった。







 『リーナ!』




 自分の事を呼ぶ声に、ゆっくりと目を開ければ、そこはヴァンディリアの庭で、暖かい陽の光に照らされたシュタインが立っていた。


 そして『早くこっちにこいよ!』と手を振るのだ。



 その隣にはエーデルが立っており、リーナを見て優しく笑みを浮かべている。


 そんな二人を不思議そうに見つめるリーナ。



 行ってもいいのかと迷うリーナの肩に手が置かれる。


 リーナが顔を見上げると、そこにはヴァンディリア前当主であるクラウスの姿があり、クラウスは『行こう、リーナ』と優しく声をかけてくれる。



 その言葉に、リーナは嬉しそうに笑みを浮かべ頷くと『エーデル、シュタイン!』と名前を呼びながら駆けて行く。


 そして花々が咲き乱れ、暖かく穏やかな空気が流れる中、庭で家族四人でお茶をする。



 それは、ずっとリーナが憧れていた光景だった。




 そんな場所から一変し、薄暗く冷たい何処かの部屋の中。


 床に横たわるリーナの目から涙がこぼれ落ちる。



 そしてゆっくりと目が開かれたかと思えば『こ、こ……』と朧げな目をゆっくりと動かす。


 辺りは血に濡れ、鉄の匂いが鼻を掠める。



 遠くの方では雷が鳴り響いているのが聞こえてくる。


 一体ここはどこなのか。どうして自分はこんなところにいるのか。そんな事を考えるが、頭が激しく痛み、体には力が入らず頭が回らない。




 するとコツコツ――と足音が、雨の音に混じり聞こえてきたかと思えば、ゆっくりと重い鉄の扉が開く音がした。


 そして再び足音が聞こえてきたかと思えば、その足音はこちらへと近づいてきていることがわかり、すぐ目の前でその足音は止まる。



 リーナの目の前には黒の革靴が見える。


 顔を見ようと、目をゆっくりと動かす。



 そんなリーナの視界に、いきなり人の顔が飛び込んでくる。


 かと思えば『こんばんは。リーナ・フォン・ヴァンディリア令嬢。ご気分はいかがですか?』と声がかけられる。



 リーナは目の前の()に会ったことはなかった。


 けれども、噂は嫌というほど聞いており、すぐに彼が誰なのかがわかった。



 黒いカソックを身に纏い、深い茶色の髪に、まるで死んだ魚のような光の無い、真っ黒な瞳。




 『ゼー、ゲン……司祭……』




 リーナの言葉を聞いた彼は『おや? 私のことをご存知でしたか。光栄ですね』と嬉しそうに笑みを浮かべる。


 そう。リーナの目の前にいるのは、神聖国の司祭、ゼーゲン・ヴィッセンだったのだ。

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