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公爵家の養女  作者: 透明
第四章 最悪な結末
67/87

二週間前



 リーナが殺され、回帰してくる一月前。


 窓から差す月明かりに照らされる先には、黒色にも見える濃く深い紫の髪をした男性が、神々しく描かれた肖像画があり、その肖像画の下では黒いベールと黒いカソックを着用した男が膝をついては、肖像画に向かい祈りを捧げていた。




 『我が偉大なる神、マグヌス。遂に貴方様の命をこの世に再び咲かすことが出来るこの喜び。一体いくつもの喜びの言葉で表現すれば伝わるでしょうか』




 その声は聞き覚えのある声で、ベールから僅かに顔が見える。


 肖像画に向かい祈りを捧げていたのは、司祭、ゼーゲンで、頬を赤らめ興奮したように一人、肖像画に向かい話かけている。




 『私がこの世に存在する意味。全てはマグヌス、貴方の導きがあったからこそ。私の行いを常に見ていてくださったのですね』




 ゼーゲンがそう言った時、部屋の扉が開いたかと思えば、司祭、ナハトが入ってき、肖像画の前で膝をつくゼーゲンを見る。


 心なしか、肖像画の人物とナハトの雰囲気が似ている気がする。



 ナハトは『最近、よくここにいますね』とゼーゲンに話しかけながら、ゼーゲンの元へと歩いてくる。


 ゼーゲンは『ナハト司祭』と嬉しそうに名前を呼んでは『いよいよ儀式を執り行いますからね。マグヌス様に成功を祈っているのです』と立ち上がる。




 『例の。本当に()()なのですか?』




 そう淡々と尋ねて来るナハトに『あの見た目に、フォルトモントの血を引いていること。終いには、聖誕祭の期間に十八の誕生日を迎えること。これ以上条件に合う人は今後現れないでしょう』とゼーゲンは答える。




 『ですが失敗をすれば、()()|に知られてしまう恐れがあるのでは?』


 『そうならないように、行うので心配は要りません。それに、絶対に失敗をする事はないですよ。何故なら、全てはマグヌスの導きの元、物事は進んでいる』




 ゼーゲンの話にナハトは『そうですか』と返すと『上手くいくことを祈っていますよ』と去って行こうとする。


 そんなナハトに『儀式にはナハト司祭は参加されないのですよね?』と問うゼーゲン。



 ナハトは振り返ると『えぇ。皆が儀式に行っては、聖誕祭が回りませんので』と答える。




 『申し訳ない。ナハト司祭に任せる事になってしまう』 


 『構いません。儀式が成功すれば、聖誕祭に回ることも少なくなるでしょうから』




 ナハトはそう言うと、再び前を向いては歩いて行き部屋から出て行く。


 残されたゼーゲンは『いよいよ、かつての時代が戻って来る。神聖国(我々)が芯となるあの頃が』と呟くのだった。







 リーナが殺され、回帰してくる二週間前。




 『――例の変死体の件だが、まだ犯人が見つかっていないそうですね』




 とあるパーティー会場の一角にあるソファ席に座る男性が、眉を顰め話す言葉に、向かいに座るエーデルが『えぇ。皇室騎士団(うち)だけではなく、シャッテンヴェヒターも動いているのですが……何も手掛かりがなく』とため息をつく。




 『今までは皇都付近だけに発見されていたのが、とうとうヴィルスキン辺境伯の領地付近でも見つかったそうじゃないですか。実に不気味ですね』


 『最近は、夜出歩く回数も減りましたよ』




 そう話す男性たちに、ヴィルスキン辺境伯は『皇宮騎士団やシャッテンヴェヒターだけではなく、グランべセル、シセルバン家も動いて下さっています。必ず犯人は見つかるでしょうから、そう怖がらず』と話す。


 その言葉に同じくソファに座るリヒトとノアが頷く。




 『でも驚きましたよ。まさかシセルバン伯爵まで我々に協力していただけるとは』




 エーデルの叔父、マティアスの言葉にノアは『かなりの被害が出て来ていますからね。このまま見過ごすわけにはいきませんから』と話す。


 その時『お話中、失礼いたします』と声がしたかと思えば、その場にいるものは一斉にそちらを振り返る。



 一人の男性が、笑みを浮かべては『これはこれは……シセルバン伯爵。婚約者どのがお出ましですよ』とノアに視線を向ける。


 男性の言う通り、声のする方にはリーナがおり『少し彼をお借りしてもよろしいでしょうか?』と問いかける。



 その言葉に一人の男性が『もちろんですとも! むしろ、ずっと捕まえていてしまい申し訳ない。』と笑う。




 『これ以上、婚約者同士を引き離すわけにはいきませんからね。』




 男性の言葉にリーナは『そんな……』と笑うと、ノアは立ち上がり『では失礼致します』と男性たちに軽く会釈をすると、リーナに腕を差し出し、リーナはノアの腕に手を絡める。


 そんな二人の光景を、エーデルとリヒトが見ていると、一人の男性が『いやぁ……それにしてもシセルバン伯爵は幸せ者ですね。』と話し出す。




 『何せ、あの帝国の白薔薇と呼ばれ、数多の男性が言い寄っても誰にも靡かなかったあのヴァンディリア令嬢の婚約者になれたのですから』




 そう頷きながら話す男性に、その隣に座る男性が『ヴァンディリア嬢が婚約したと聞いた時は、それはそれは私の周りの若い令息たちが灰のようになっていましたよ』と笑いながら言うとエーデルに視線を向ける。




 『ヴァンディリア当主も誇らしいでしょ? あの様に賢く美しい妹君がいて』




 そう言われたエーデルは笑みを浮かべると『えぇ、とても』と頷く。




 『婚約と言ったらグランべセル公子は、ファルバーニ令嬢とお見合いをしたとかで。順調に進んでいるのですか?』




 男性の問いかけにリヒトは『その事についてはまだなんとも申し上げることができません』と返す。


 その返答を聞いた男性が『えぇ? もしかして上手く行っていないのですか?』と返すのに、他の男性も『ヴァンディリア令嬢の美しさには負けるが、ファルバーニ令嬢も天使の様に愛らしいのに……勿体無い』と言う。



 そんな彼らにヴィルスキン辺境伯は『失礼ですよ。それにあまりプライベートのことなので踏み込まないほうがよろしいかと』と話す。




 『ヴィルスキン辺境伯の言う通りですよ』




 マティアスにまで注意され、男性たちは『申し訳ない、グランベゼル公子』とそれ以上は何も言う事はなかった。




 『――話が盛り上がっていたみたいなのに、呼び出しちゃってごめんねノア』




 隣に立つノアにそう言うリーナに、ノアは『いや……例の変死体の話だよ。でも、そろそろ抜けなければと思っていたから助かったよ』と答える。




 『あぁ……例の。まだ犯人が見つかってないんだよね。ノアも捜査に加わっているんだよね? 気をつけてね』




 そう不安そうに話すリーナに、ノアは柔らかく笑うと『ありがとう。変死体の件じゃなくとも、最近は物騒だから夜遅くに出歩いてはダメだよ』とリーナの頭を撫でる。


 そんなノアにリーナはふふっと柔らかく笑うと『ノアの手暖かい』と言う。




 『そうかな? 普通だと思うけど』


 『そんな事ないよ。ほら暖かい』




 差し出されたノアの手の上に、リーナは自分の手を乗せながらそう言うと、ノアは『リーナの手冷たいね。寒い?』と優しく問う。


 そして自然と絡め合われる手。



 リーナは『そんなに寒くないんだけどね。手は冷えてるの』と言うと、ノアはリーナの手を両手で包み『風邪ひかないようにね』と言う。




 リーナとノアは二月ほど前に出会い、そこから直ぐに意気投合した。


 そして直ぐに婚約関係が結ばれたが、二人の間には友愛はあっても恋愛的な愛はなかった。



 ノアはそもそも結婚などに興味はなく、だが、シセルバン伯爵家と言う重大な家を途切れさせるわけにはいかず、結婚せざるおえない。


 そしてリーナは、いつまでもヴァンディリアでお世話になり、エーデルに迷惑をかけるわけにはいかない。



 そう言った理由がある二人は、互いに条件が合いつい一月前に婚約を結んだのだった。



 恋愛感情こそないが、互いに人として尊敬し、好きなため特に喧嘩をすることも、不満を持つこともなく、そこら辺の恋人より仲むずまじい関係を築いていた。




 『あ……ヴィルスキン辺境伯に話とかなければいけないことがあったんだ。ごめん、戻ってもいいかな?』




 パーティー会場から出て来たノアは思い出したようにそう言っては、隣を歩くリーナを見る。


 リーナは『話なら私は邪魔になるし、ここで待ってるよ』と答える。




 『一人で大丈夫?』


 『心配しすぎだよ。近くに警備の人もいるから平気だよ』




 そう話すリーナの頭を撫でては『直ぐ戻ってくるよ』とその場を後にする。


 ノアに撫でられた頭を抑えては、ノアってよく頭を撫でてくれるな……。と少し照れ臭くなるリーナ。



 ノアが戻ってくるまで、近くにある椅子に座って待っていようと、振り返った時だった。


 コツッコツッ――と革靴の音が聞こえて来たかと思えば、そこにはこちらに向かい歩いてくる、黒いカソックを着用したナハト司祭がいた。



 彼を見るなりリーナは、綺麗なその顔を歪める。




 彼は何故か、リーナを見るたびに誰に対しても仏頂面のその顔を歪ませては、不快そうな表情を浮かべて来たのだ。


 特に何かをした覚えはない。もしかしたら、何か気づかないところで気に触る様なことをしたのかもしれない。



 だが、リーナの記憶が正しければ、彼と初めて会ったその日から、彼はリーナに対して不快そうな表情を浮かべていた。


 リーナも特に何かされたわけではないが、会うたびに不快そうな表情を浮かべられ、何かと強い言葉を発してくる彼が苦手で、必要最低限関わらない様にしていた。



 特にこういった一人の時は、なるべく関わりたくないのだが、運の悪い事に廊下にはリーナとナハトの二人しかいない。


 このままナハトが通り過ぎるまで黙っていたいが、そういうわけにもいかないので、リーナは精一杯笑みを浮かべては『こんばんは、ナハト司祭様』と挨拶する、



 ナハトは足を止めると、じっと何も言わずにリーナを見つめる。




 どうして何も言わないの? と少し眉を顰めるリーナ。


 するとナハトは『ヴァンディリア嬢にご挨拶申し上げます』と胸に手を当て、お辞儀をする。




 黙ったままかと思えば、いきなり話し出すのでリーナはついびっくりしてしまうが、挨拶も無事に終わったので『失礼します』と歩いて行こうとした。


 だが『ヴァンディリア嬢』とナハトが呼び止めるので、足を止め『え?』と思わず驚き後ろを振り返る。




 挨拶を交わして、彼が私を呼び止めることなんてあったかしら?


 そう不思議に思いながらも、ナハトに視線を向けるリーナ。



 するとナハトは『……ご婚約おめでとうございます』と突拍子もないことを言うのだ。


 全くの予想外の言葉な上、まさかナハトに祝いの言葉をもらえるとは思っていなかったリーナは『あっ、りがとうございますマス……』としどろもどろになってしまう。



 だが、ナハトは気にせずに、祝いの言葉を言い満足したのか『では』と言うと再び、革靴を鳴らし歩いて行く。


 そんなナハトの後ろ姿を見送り、何だったの……? と不思議に思うリーナは、気が抜けたのか、一気に疲労が襲いかかって来たのだった。

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