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【完結済】伝説の「龍覚者」に覚醒した俺、大切な居場所を守るためなら手段を選ばない 〜始原の森から始まる、現代知識チートによる最強建国記〜  作者: シェルフィールド
5章:救世の龍覚者と導きの龍 〜始原の森へ続く英雄譚〜

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第150話:薔薇の忠誠と王女の憂鬱

復興作業は、オリヴィアの指揮のもと、驚くべきスピードで進んでいた。


彼女の的確な指示と、自ら泥にまみれることを厭わない姿勢。それは、難民や兵士たちの心を掴み、新たな結束を生み出していた。


だが、その信頼の高まりが、思わぬ方向へと火を点けてしまったようだ。


「……で、これは何の話だ?」


その日の夜。俺とオリヴィアは、王宮の会議室に呼び出されていた。


目の前に座っているのは、宰相格のアルバート卿と、騎士団長のセレスティーナ。二人とも、いつになく深刻な表情をしている。


「陛下。オリヴィア様。……公国の地盤は固まりつつあります」


アルバート卿が重々しく切り出した。


「しかし、国家として永続するためには、いまだ欠けているものがございます」


「欠けているもの?」


俺は首をかしげる。食糧、住居、防衛設備。あらかた手は打ったはずだが。


「はい。次はいよいよ、『盤石な礎』が必要です」


セレスティーナが、ドン! とテーブルに分厚い束を置いた。新たな都市計画書か、あるいは法整備の草案か。


俺とオリヴィアが身を乗り出して覗き込むと――。


そこには、『子作り計画書』および『週間・同衾どうきんスケジュール表』と書かれていた。


「ぶふぅッ!?」


俺は飲んでいたお茶を盛大に吹き出した。隣のオリヴィアは、彫像のように固まっている。


「な、ななな、何を言っていますの!? アルバート! セレスティーナ!」


オリヴィアが顔を真っ赤にして立ち上がる。だが、二人は真剣そのものだった。


「オリヴィア様! 恥じらっている場合ではありません!」


セレスティーナが身を乗り出す。


「貴女様は、レン様と結ばれることを誓われました。ならば、一刻も早く『既成事実』を作るべきです!」


「そうですぞ! 民は、お二人の血を引く『正統な後継者』を待ち望んでおります! それこそが、民にとって、最大の希望となるのです!」


アルバート卿が涙ながらに訴える。


なるほど。彼らにとって、主君であるオリヴィアの幸せ(と世継ぎ)こそが、至上の命題なのだ。その忠誠心は疑いようもないが、ベクトルが少々暴走気味だった。


「そ、そうですけれど……! まだ、心の準備というものが……!」


「準備なら整っております!」


セレスティーナが、スケジュール表を指差す。


「今夜は月齢も良く、絶好の『仕込み日和』です! 寝室には、精のつく香も焚いておきました!」


「余計なことをしないでください!?」


オリヴィアが悲鳴を上げる。俺も助け船を出そうと口を開いた。


「おい、二人とも。気持ちは分かるが、こういうのは当人同士のペースが……」


「陛下!」


アルバート卿が、食い気味に俺の手を握りしめた。その瞳から、とめどなく涙が溢れ出ている。


「どうか……どうか、我らに『夢』を見させてくださいませぬか……! 陛下と姫様の間に生まれる、新たな光を……!」


「うっ……」


重い。


亡国の遺臣としての想いが、あまりにも重すぎる。これを無下に断るのは、良心が痛む。


「さあ、お二人とも! 公王私室へご案内いたします!」


「今夜こそは!」


鼻息の荒い二人が、じりじりと距離を詰めてくる。完全に包囲された。


「……レンさん!」


 オリヴィアが、助けを求めるように俺の袖を引く。俺は瞬時に判断を下した。


「……逃げるぞ」


「えっ?」


「【転移テレポート】!」


 俺はオリヴィアの腰を抱き寄せ、即座に術式を発動した。視界が歪む。


「あっ、お待ちください!」


セレスティーナの声が遠ざかり、俺たちは会議室から消え失せた。



◇◇◇



転移した先は、家のバルコニーだった。夜風が、火照った頬に心地よい。


「はぁ……はぁ……」


オリヴィアが手すりに寄りかかり、深いため息をついた。


「ごめんなさい、レンさん。あの方たち、使命感に燃えすぎていて……」


「いや、嫌がられているのかと思ったから、少し安心したよ」


俺が苦笑すると、オリヴィアは慌てて首を横に振った。


「まさか! 嫌だなんて、そんなことありませんわ!」


彼女は俺に向き直り、真剣な瞳で見つめてくる。


「あの日……プロポーズしていただいた時、わたくしの迷いは全て消えました。貴方がわたくしを一人の女性として見てくれていること、疑ったりしていません」


彼女は頬を赤らめ、もじもじと指を絡ませる。


「ただ……あんな風に『業務』のように急かされると、ムードも何もなくて……。わたくし、レンさんとはもっとこう、恋人として順序良く、ロマンチックに……その……」


最後の方は言葉にならず、彼女は両手で顔を覆ってしまった。  耳まで真っ赤だ。


(……可愛いな)


彼女が躊躇っていたのは、王女としての立場や負い目などではない。純粋な「恥じらい」と、乙女心だったのだ。現場指揮を執っていた時の凛々しい姿とのギャップに、俺の胸が高鳴る。


「安心してくれ。俺だって、家臣に監視されながら愛を囁くのは御免だ」


俺は彼女の肩を優しく抱き寄せた。


「俺たちは、まだ始まったばかりだ。焦る必要はない」


「……はい」


「まずは、『ただいま』を言える関係から、ゆっくり始めよう」


 俺の言葉に、オリヴィアは顔を上げ、安堵したように微笑んだ。


「はい……! よろしくお願いします、レンさん」


月明かりの下、二人の影が重なる。それは、誰に強制されたものでもない、俺たち自身のペースで歩む誓いだった。



◇◇◇



「さて、ほとぼりも冷めた頃だろう」


俺たちはバルコニーを後にし、部屋へと向かった。アルバートたちには悪いが、今夜は普通に休ませてもらう。


俺は、俺の私室の隣――新しく整備されたばかりの一室の前で足を止めた。


「ここは……?」


「今日から、ここがオリヴィアの部屋だ。準備していたんだ」


俺が扉を開ける。


すると。


「おかえりなさい、オリヴィアさん! 待っていましたよ」


「ふふ、やっと『全員』の部屋が揃いましたね」


そこには、部屋の飾り付けを終えたばかりのアリシアとティアーナの姿があった。  さらに、部屋の中央には、金色の髪の少女がちょこんと座っている。


「オリヴィアおねえちゃん、おそいー!」


「フィーナちゃん!? アリシアに、ティアーナさんも……?」


オリヴィアが目を丸くする。部屋は、家具と温かい色合いの調度品で整えられ、花瓶には真新しい花が生けられていた。


生活の匂いがする「家族の部屋」だ。


「貴女が復興で忙しくしている間に、私たちが準備しておきましたわ」


ティアーナが胸を張る。


「今日からは、ここが貴女の家です。……私たちと一緒に、暮らしましょう?」


アリシアが優しく微笑み、オリヴィアの手を取った。


そこには、温かい歓迎があった。形式的な同居ではなく、心からの受容。


オリヴィアの瞳から、一筋の涙がこぼれ落ちる。彼女はそれを拭うと、満面の笑みで「家族」の輪に飛び込んだ。


「……はい! ただいま戻りました!」


その夜。


俺の部屋、アリシアの部屋、ティアーナの部屋、そしてオリヴィアの部屋。廊下を挟んで並ぶそれぞれの部屋から、穏やかな寝息が聞こえる公王の居住区画は、世界で一番平和な場所だった。

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