第149話:雷光の采配
アリシアを治療院で休ませた、翌日のことだ。
俺は朝から、別の区画の視察へと足を運んでいた。
向かったのは、居住区画の南エリア。ここは今回の襲撃で最も被害が大きかった場所だ。
流れ弾となった魔法弾が直撃し、多くの家屋が半壊している。瓦礫の山と、舞い上がる砂埃。
本来なら、復興には数ヶ月を要するはずの惨状だ。だが、今のこの場所には、悲壮感よりも熱気が満ちていた。
「第二班、右翼の瓦礫撤去を急いで! 土魔法使いの方は地盤の固定を最優先にお願いします!」
よく通る、凛とした声が響き渡る。
声の主は、瓦礫の山の上に立っていた。作業着に身を包み、長い髪を動きやすいように束ねた女性。
オリヴィアだ。泥にまみれながら、復興の陣頭指揮を執っている。
俺は物陰から、その様子を静かに見守ることにした。
◇◇◇
「重い資材は、腕力のある獣人の方々にお願いします! 細かい分別は、器用なドワーフの方々が担当を!」
オリヴィアの指示は、的確かつ迅速だった。
現場には、公国の住民である獣人や亜人と、周辺から逃れてきた人間の難民たちが入り混じっている。
彼女はそれを「強み」に変えていた。
「そこのあなた! 力仕事なら負けないでしょう? その瓦礫をお願いします!」
「おうよ! 任せときな!」
「そちらの方は、魔法制御が得意ですね? 崩れそうな壁の補強を!」
「了解しました!」
彼女は一人一人の特性を見抜き、適材適所に配置していく。その采配は、まるで指揮者がオーケストラを操るかのように鮮やかだった。
何より驚くべきは、民たちの目の色だ。最初は「元王女」という肩書きに萎縮していた彼らが、今では彼女の背中を、信頼しきった目で見つめている。
「姫様!こっちの区画、片付きました!」
「早いですね! では、すぐに次の区画へ移動しましょう。休憩班、水の手配を忘れないで!」
オリヴィアは指示を出すだけではない。自らも瓦礫の山へ降り立ち、軍手をはめた手で石材を運び始めた。
「お、オリヴィア様!? そんな汚れ仕事、俺たちがやります!」
慌てて駆け寄る作業員を、彼女は笑顔で制した。
「いいえ。わたくしもこの国の民の一人ですもの。汗をかくのは同じですわ」
そう言って、自分の体ほどもある木材を、身体強化魔法を使って軽々と持ち上げる。
「さあ、日が暮れるまでに終わらせますよ!」
「「うおぉぉぉぉぉッ!!」」
彼女の背中を見て、作業員たちの士気が爆発的に上がる。種族も生まれも関係ない。 そこには、「復興」という一つの目的に向かう、強固なチームが生まれていた。
(……すごいな)
俺は感嘆の息を漏らした。彼女は人々を導き、希望を与える「真の指導者」へとさらに成長している。
◇◇◇
しばらくして、作業が一段落した頃。俺は彼女の元へ歩み寄った。
「見事な采配だったな、オリヴィア」
「――!」
俺の声に気づき、オリヴィアが振り返る。その顔は煤と泥で汚れ、汗が流れていたが、宝石のような瞳はかつてないほど輝いていた。
「レンさん! 来てらしたのですか?」
「ああ。邪魔をしたくなくてね。……予定より随分と早く片付いたみたいじゃないか」
俺が言うと、オリヴィアは誇らしげに胸を張った。
「ええ! 皆さんが頑張ってくれましたから。……この調子なら、明日には仮設住宅の建設に入れますわ」
彼女は、自分の手柄だとは言わない。あくまで「みんなのおかげ」だと笑う。
俺は懐からハンカチを取り出し、彼女の頬についた泥をそっと拭った。
「……あ」
オリヴィアが少しだけ驚いた顔をする。
「いい顔をしてるよ。……最初にココに来た頃よりも、ずっと」
「……そう、でしょうか」
「ああ。今の君は、誰よりも輝いて見える」
それはお世辞でも、甘い愛の囁きでもない。 一人の人間として、そして共に国を背負うパートナーとしての、心からの敬意だった。
オリヴィアは俺の目を見つめ返し、ふわりと微笑んだ。
「わたくし、ようやく分かった気がします。国というのは、土地や建物ではなく……そこに生きる『人』そのものなのだと」
彼女は作業員たちが休憩している方角を見やる。
「彼らが笑って暮らせる場所を守りたい。そのためなら、わたくしは泥にまみれることなど厭いません」
その横顔には、覚悟と強さが宿っていた。かつて俺が守ろうとした華奢な少女は、いつの間にか、俺の隣に並び立つ「戦友」になっていたのだ。
「頼もしいな。……これなら、俺が安心して前線に出られる」
「ええ。背中は任せてくださいませ」
オリヴィアは力強く頷いた。
「貴方が剣を振るうなら、わたくしはこの場所を守り抜きます。……それが、今のわたくしの戦いですから」
俺たちは互いに頷き合った。言葉以上の信頼が、二人の間を流れる。
この瞬間の繋がりは、どんな関係よりも深く、強固なものだと確信できた。
「さて、戻ろうか。……みんなが待ってる」
「はい!」
オリヴィアは俺の隣に並び、歩き出した。その足取りは軽く、未来への希望に満ちていた。
「面白かった」 「続きが読みたい!」
と少しでも思っていただけたら、 記事の最下部にある【☆☆☆☆☆】をタップして応援していただけると嬉しいです!
「面白かった!」→ 星5つ 「まぁまぁかな」→ 星3つ
など、気軽な気持ちで評価していただけると、執筆スピードが上がります!
ブックマーク登録もぜひよろしくお願いします。




