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【完結済】伝説の「龍覚者」に覚醒した俺、大切な居場所を守るためなら手段を選ばない 〜始原の森から始まる、現代知識チートによる最強建国記〜  作者: シェルフィールド
5章:救世の龍覚者と導きの龍 〜始原の森へ続く英雄譚〜

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第146話:コカトリスの唐揚げと復興屋台

復興作業は、極めて順調に進んでいた。


建物の修復もさることながら、それを支える物資の供給も安定している。


特に「食」に関しては、アリシアが管轄する農業区画からのルートが確立されており、パンも野菜も十分に足りていた。


人間、腹が満たされていれば、心にも余裕が生まれる。作業員たちの顔色も良く、街には活気が戻りつつあった。


そんな中、防衛隊長のリゼットから「ある相談」が持ちかけられた。


「……で、これがその『相談の種』か」


俺は、街の郊外にある一時保管庫で、腕組みをして唸っていた。目の前には、天井に届きそうなほど山積みになった「肉」のブロックがある。


リゼットが、困り顔で頭を掻く。


「はい。今回の防衛戦や、その後の周辺警戒で討伐された魔物、『コカトリス』の肉です」


コカトリス。 巨大な鶏のような姿をした魔物だ。復興作業の音に惹かれて森から出てくる個体が多く、防衛隊が良い訓練相手として狩りまくった結果、この有様だという。


「食糧には困ってないんですが、これだけの量をただ捨てるのも気が引けまして……。かと言って、兵士たちに出しても不評なんですよ」


「人気がないのか?」


「ええ。とにかく硬いんです。煮ても焼いてもゴム草履みたいで。おまけに独特の獣臭さがあって、『訓練のあとにこれはキツイ』って苦情が殺到してまして」


リゼットが溜息をつく。


魔物特有の強靭な筋肉繊維と、石化毒(処理済みだが臭みの原因になる)を持つため、食材としては下の下とされているらしい。


「肥料にするか、焼却処分するしかないかと」


俺は肉の塊を一つ手に取り、【鑑定】を発動しつつ、指で弾力を確かめた。確かに、岩のようにカチカチだ。  これでは、普通に焼いても顎が疲れるだけだろう。


だが。 俺の勘が、これはいけると囁いていた。


(筋肉質ってことは、旨味成分は強いはずだ。臭みさえ消して、柔らかくできれば……)


俺はニヤリと口角を上げた。


「リゼット。この肉、廃棄するのは待ってくれ」


「へ? まさか、これを食べる気ですか? 他に美味い肉はいくらでもありますよ?」


「ああ。だが、食材を無駄にするのは俺の主義じゃない。それに、調理法次第で、この『ゴム草履』が大化けするぞ」


俺は袖をまくり上げ、不敵に笑った。


「今日の昼食は俺が作る。調理場を貸してくれ」



◇◇◇



広場の一角に設置された、野外炊事場。俺は調理台の前に立ち、巨大なコカトリス肉と対峙していた。


周囲では、休憩中の作業員たちが「公王様が料理?」と興味津々で遠巻きに見ている。


「さて、まずは下処理だ」


俺は肉の塊をまな板に置くと、手をかざした。使うのは包丁ではない。魔法だ。


「リゼット、よく見ておけよ。これはコツさえ掴めば、誰でもできる」


「――【振動魔法バイブレーション】、出力調整・微細」


ブゥン……という低い音と共に、俺の手のひらから魔力の波が放たれる。それは肉の内部に浸透し、強靭すぎる筋肉繊維を一本一本、細胞レベルでほぐしていく。


ミシミシ、と肉が微かに音を立てて緩んでいく。物理的に叩くよりも均一に、かつ確実に柔らかくする「魔法の筋切り」だ。


「すげぇ……岩みたいだった肉が、ぷるぷるになっていく」


「だろ? イメージとしては、肉の中で小さな音を響かせる感じだ。土魔法や風魔法の応用で再現できるから、あとでマニュアル化して炊事班に配るよ」


「マジっすか! それならウチの連中でもできそうです!」


リゼットが目を輝かせる。  これで「硬い肉」の問題は解決だ。


「次は臭み消しと味付けだな」


俺は一口大にカットした肉を、大きなボウルに放り込むと、虚空に手をかざして【収納魔法ストレージ】を開いた。


取り出したのは、琥珀色の液体が入った瓶と、数種類の香辛料だ。


「こいつは……?」


「アリシアの農業都市で、最近採れ始めた『大豆』の発酵調味料――醤油だ。こっちは『ジンジャーグラス』とニンニクの粉末だな」


「へぇ! アリシア様のところ、もうそんなものまで作れるようになったんすね!」


「ああ。豊作すぎて余ってたから、ちょうどいい」


 俺はドボドボと醤油を回しかけ、スパイスと、ドワーフ族から差し入れられた強めの「果実酒」をたっぷりと加える。


「うわっ、強烈な匂いっすね……」


リゼットが鼻をつまむ。


「これがいいんだ。しっかりと揉み込んで……」


俺は魔力を込めた手で、肉全体にタレが行き渡るように力強く揉み込む。  肉がタレを吸い込み、艶やかな飴色に変わっていく。これで味付けは完了だ。


仕上げに、小麦粉ではなく、芋から精製したデンプン粉(片栗粉の代用)をたっぷりとまぶす。余分な粉をはたき落とせば、準備完了。


目の前には、大鍋に波々と注がれた油が、適温に熱せられてパチパチと音を立てている。


「いくぞ」


俺は下味をつけた肉を、次々と油の中へ滑り込ませた。


ジュワァァァァァァァァッ!!


一瞬にして、爆発的な音が炊事場に響き渡った。  高温の油が肉を包み込み、激しく泡立つ。


同時に、立ち昇る白い湯気。  そこに含まれているのは、醤油とニンニク、そして肉の脂が焦げる、暴力的とも言えるほどの香ばしい匂いだ。


「な、なんだこの匂いは……!?」


遠巻きに見ていた作業員たちが、一斉に鼻をひくつかせた。  風に乗って広がった香りは、疲れた彼らの胃袋を直撃する。


「うおぉ……腹が、減る匂いだ……」


「これ、本当にあの不味いコカトリスか?」


俺は彼らの視線を感じながら、慎重に揚げ具合を見極める。表面が固まったら一度引き上げ、余熱で火を通す。そして最後に、高温でもう一度揚げる「二度揚げ」だ。


ジュワッ! カラカラッ!


油の音が軽くなる。衣の中の水分が飛び、最高のクリスピー状態になった合図だ。


「よし、完成だ!」


俺は網じゃくしで、黄金色きつねいろに輝く肉の山を一気に引き上げた。油を切るたびに、カラン、コロン、と小気味よい音が鳴る。


「リゼット、味見してみてくれ」


「え、自分っすか? ……じゃあ、遠慮なく」


リゼットはまだ半信半疑といった顔で、揚げたての一つを指で摘んだ。アツアツの湯気が出ているそれを、口へ放り込む。


「熱っ! ハフハフ……ッ!」


カリッ。  ザクッ。


リゼットが噛んだ瞬間、小気味よい破砕音が俺の耳にも届いた。直後、彼女の目がカッと見開かれる。


「――ん!?」


彼女の口の中で、何かが弾けたようだった。硬い衣を突き破った先から、閉じ込められていた熱々の肉汁が、爆発にように溢れ出したのだ。


「う、うめぇぇぇぇッ!!」


リゼットが絶叫した。男勝りな彼女が、頬を赤らめて悶絶している。


「なんすかこれ!? 外側はガリガリなのに、中はトロトロに柔らかくて……噛むたびに旨味が噴き出してきやがる!」


「臭みはどうだ?」


「全然ねぇっす! むしろ、このスパイスと焦げた醤油の香りが食欲を煽って……止まらねぇ!」


リゼットは二個、三個と立て続けに口に放り込み、幸せそうに咀嚼する。そのリアクションは、どんな宣伝文句よりも雄弁だった。


「お、おい……今の聞いたか?」


「あのリゼット隊長が絶賛してるぞ」


「い、いい匂いだ……たまらん!」


作業員たちが、ゾンビのようにふらふらと吸い寄せられてくる。彼らの目は完全に「肉」に釘付けだ。


俺は苦笑しながら、大皿に山盛りの唐揚げをドンと置いた。


「さあ、みんなの分もあるぞ! 厄介者のコカトリスだが、味は保証する。好きなだけ食ってくれ!」


「「うおぉぉぉぉぉッ!!」」


 歓声と共に、男たちが殺到した。



◇◇◇



「ほう……これは見事ですね」


大盛況の屋台の裏で、感心したような声が聞こえた。セレスティーナだ。現在はエルム公国軍の要職にある彼女は、巡回中にこの騒ぎを聞きつけたらしい。


「セレスティーナか。食べるか?」


「ええ、陛下自ら振る舞われていると聞いては、素通りできませんわ。……ふむ」


彼女は差し出された一つを手に取り、しげしげと観察する。


「廃棄寸前だったコカトリスの肉を、独自の術式で加工し、高火力の油で一気に仕上げる……。素材の欠点を補い、長所を最大限に引き出す。まさに用兵術にも通じる合理的な調理法ですわ」


真面目な顔でブツブツと評しながら、彼女は上品に一口かじった。


サクッ。


「……っ!!」


セレスティーナの碧眼が見開かれる。凛とした表情が一瞬で崩れ、頬が朱に染まった。


「お、美味しすぎます……! この濃厚な味付け、白米……いえ、冷えたエールが欲しくなる魔性の味です!」


「はは、気に入ってくれたみたいだな」


「レン様、これは『魔導糧食』として軍で正式採用すべきです! この高カロリーと食べた時の幸福感は、兵士の士気を劇的に向上させます! 何より、訓練で倒した魔物をここまで美味しく頂けるなら、兵たちのモチベーションも上がります!」


箸が止まらないセレスティーナを見て、俺は安堵した。騎士団長のお墨付きがあれば、文句を言う者はいないだろう。


広場を見渡せば、兵士も、職人も、民も、みんなが唐揚げを頬張り、笑顔を咲かせている。


処理に困っていた「厄介者の肉」が、今では彼らの明日を作るエネルギーに変わっていた。


「おかわりー!」


「こっちもだ!」


「はいよ、今揚がるぞ!」


俺は再び、魔法で下処理した肉を油へ投入する。ジュワァァァッという心地よい音が、復興の槌音と重なって、街に響き渡った。


「復興名物・公王陛下の唐揚げ」。


後にそう呼ばれることになるこの屋台は、日が暮れるまで行列が絶えることはなかった。

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