第145話:フィーナのお手伝い大作戦
復興作業は、順調に進んでいた。
俺が提供した【魔力レンガ】の製造法と、ティアーナたちが急造した魔導重機のおかげで、瓦礫の撤去と道路の舗装は驚くべきスピードで進捗している。
俺も現場監督として、あちこちの区画を飛び回っていた。
「レン、次どっちー?」
「ああ、次は三番街の資材搬入だ。急ごう」
俺のコートの裾を掴んでついてくるのは、フィーナだ。今日も彼女が俺のパートナーだ。
現場では、防衛隊員や市民たちが汗を流して働いている。その活気ある様子を、フィーナはじっと見ていた。そして、きゅっと小さな拳を握りしめ、俺を見上げた。
「レン!」
「ん? どうした?」
「フィーナもやるの! おてつだい!」
金色の瞳が、やる気に燃えている。どうやら、みんなが働いているのを見て、自分だけ見ているのが歯がゆくなったらしい。
(可愛いなぁ……)
俺は頬が緩むのを抑えきれなかった。健気な申し出を断る理由はない。
「よし。じゃあ、あそこにある瓦礫を片付けてくれるかな? 通行の邪魔になってるんだ」
俺は道の端に積み上がった、子供の背丈ほどの瓦礫の山を指差した。まあ、フィーナの力ならら少しずつ運べば……。
「わかった! まかせて!」
フィーナは元気よく返事をすると、トテトテと瓦礫の前へ。そして、無造作に一番下の岩に手をかけ、
「ふんっ!」
ズズズズズズズズンッ!!
地響きが鳴った。 俺の目の前で、信じられない光景が繰り広げられる。
フィーナが持ち上げたのは、瓦礫だけではなかった。瓦礫が絡みついた下の地面――いや、半壊した家の「基礎土台」ごと、ごっそりと引っこ抜いていたのだ。
その大きさ、優に馬車二台分。
「レン、とれたのー!」
「いや、デカすぎるわ!!」
俺は思わずツッコミを入れた。周囲の作業員たちも、持っていたスコップを取り落として固まっている。
さすがは龍。幼女の姿をしていても、本気を出せば、その筋力は龍である。
「えっ? だめ?」
フィーナが首を傾げると、持ち上げた巨大岩塊がグラリと揺れ、周囲の人が「ひいぃっ!」と悲鳴を上げて逃げ惑う。
「だ、ダメじゃないけど! それはちょっと運びにくいから、置いておこうか! そーっとな!」
「はーい」
ズォン……。
フィーナが岩を置くと、再び震度3くらいの揺れが起きた。
「……次は、もう少し細かい作業にしようか」
気を取り直して、次は大工仕事を手伝ってもらうことにした。仮設住宅の壁に、板を釘で打ち付ける作業だ。
「いいか、フィーナ。この釘を、トントンって叩くんだぞ」
「うん、トントンね。……えいっ」
フィーナが人差し指で、釘の頭を軽くデコピンした。
その瞬間。
バヂィィィンッ!!
破裂音が響いた。釘は音速を超えて板を貫通し、さらにその奥の柱も貫通し、反対側の壁にめり込んでいた。手前の板は、衝撃波で木っ端微塵に砕け散っている。
「…………あ」
フィーナが自分の指と、粉々になった板を交互に見る。そして、みるみるうちに瞳に涙が溜まっていった。
「うぅ……フィーナ、だめなこ……?」
やばい。この世の終わりのような落ち込みようだ。
俺は慌ててしゃがみ込み、彼女の目線に合わせる。
「そんなことないぞ。フィーナはすごい力持ちなんだ。ただ、今はちょっと力が強すぎただけだ」
「ぐすっ……でも、おてつだい、できない……」
「力仕事以外にも、手伝いはあるさ。……そうだ、フィーナにしかできない、重要な任務を頼もうかな」
「じゅうよう……にんむ?」
涙目のまま、フィーナが顔を上げる。
「ああ。フィーナの鼻と魔力探知で、『埋もれたもの』を探してほしいんだ。瓦礫の下に、まだ大事な資材や道具が残ってるかもしれない」
「……さがすの、とくい!」
フィーナの表情がパッと明るくなった。 やはり彼女には、笑顔が一番似合う。
◇◇◇
それから俺たちは、倒壊した家屋の周辺を回りながら、探知作業を続けた。フィーナは「ここにある!」と的確に資材を見つけ出し、俺がそれを魔法で回収する。素晴らしい連携だ。
そんな時だった。
半壊した民家の前で、一人の少女が座り込んでいるのを見つけた。歳はフィーナと同じくらいだろうか。
膝を抱え、瓦礫の山をじっと見つめている。
「……どうしたんだろう」
俺は作業の手を止め、少女に近づいた。
「君、怪我はないか?」
少女はビクリと肩を震わせ、ゆっくりと顔を上げた。 頬は煤で汚れ、目は赤く腫れている。
「……おじ、ちゃん……」
(おじちゃん……まあ、精神年齢30代だから否定はしないが)
俺はなるべく威圧感を与えないよう、優しく語りかける。
「安心して。この家の中はもうスキャンしたけど、誰も取り残されていないよ。家族のみんなも、広場の避難所にいるはずだ」
俺は【生体探知】の結果を伝えた。 この家の下に、生存反応も遺体もない。
つまり、物理的な意味での「最悪の事態」は起きていない。
それを聞けば安心すると思ったのだが――。 少女の表情は晴れなかった。むしろ、より一層悲しそうに、瓦礫の山へと視線を戻してしまった。
(ショックで動けないのか……?)
家が壊れた喪失感は、計り知れない。 心のケアが必要かもしれない。俺は医療班を呼ぼうと、通信機に手を伸ばした。
だが、その時。 フィーナが俺の袖を、グイッと引っ張った。
「レン、ちがうの」
「え?」
「あの子、『おともだち』を呼んでるの」
「お友達?」
俺が聞き返すよりも早く、フィーナは迷わず瓦礫の山へと歩き出した。 崩れかけた屋根の隙間へ、小さな体を滑り込ませていく。
「おい、フィーナ! 危ないぞ!」
俺は慌てて止めようとしたが、フィーナは「だいじょうぶ!」と声を残し、奥へと消えてしまった。
数秒後。
ガサゴソという音と共に、フィーナが戻ってきた。その顔も服も埃まみれになっている。
だが、その手には―― 薄汚れた、茶色のクマのぬいぐるみが握られていた。
「……あった!」
フィーナがそれを差し出した瞬間。 座り込んでいた少女の顔が、太陽のように輝いた。
「クーちゃん!」
少女は弾かれたように立ち上がり、ぬいぐるみをひったくるように抱きしめた。そして、その顔をぬいぐるみの毛並みに埋め、わっと泣き出した。
「よかったぁ……! ひとりぼっちにしちゃって、ごめんねぇ……!」
それは、悲しみの涙ではなかった。心からの安堵と、再会の喜びの涙だった。
「……ありがとう! おねえちゃん!」
少女が泣き笑いの顔で、フィーナに言う。フィーナは「えへへ」と照れくさそうに鼻をこすった。
俺は、その光景を呆然と見ていた。
(……そうか)
ハッとした。
俺は「命」や「効率」ばかりを見ていた。誰も死んでいない、怪我もしていない。だから大丈夫だと、勝手に決めつけていた。
でも、彼女にとってこのぬいぐるみは、ただの「物」じゃなかったんだ。もしかしたら、亡くなった家族の形見かもしれない。心の支えとなる、かけがえのない「家族」だったのだ。
魔力探知にも、生体探知にも引っかからない。けれど、一番大切な宝物。
それを見つけ出せるのは、魔法でも科学でもなく――同じ子供の目線を持つ、フィーナの優しさだけだった。
「……参ったな」
俺は屈み込み、埃だらけのフィーナを抱き上げた。ずしりとした重みが、愛おしい。
「レンの魔法でも、それは見つけられなかったよ。……すごいぞ、フィーナ。お前のお手伝いは、百点満点だ」
「ほんと? フィーナ、役に立った?」
「ああ。誰にも真似できない、最高のお手伝いだ」
俺が言うと、フィーナは「えっへん!」と誇らしげに胸を張った。
その笑顔は、どんな復興支援よりも温かく、この場の空気を癒やしてくれた。俺たちの「お手伝い大作戦」は、これ以上ない形で成功を収めたのだった
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