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【完結済】伝説の「龍覚者」に覚醒した俺、大切な居場所を守るためなら手段を選ばない 〜始原の森から始まる、現代知識チートによる最強建国記〜  作者: シェルフィールド
4章:帝国大侵攻と龍覚者の反撃 〜裁かれる罪、王女の決断〜

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第141話:王女の裁き

土煙が晴れていく。


眼前に広がるのは、焼け焦げた大地と、静寂を取り戻した戦場。


俺の足元には、かつて知的な策士を気取っていた男――カジミール卿が、泥にまみれて這いつくばっていた。


ゼノンに蹴り飛ばされ、使い捨ての駒として切り捨てられた男。


その顔には、もはや余裕の欠片もない。


あるのは、死への恐怖と、信じられない現実への混乱だけだ。


「……あ……あぁ……」


カジミールは、震える手で地面を掻いた。


俺が剣を下げたまま、ゆっくりと彼を見下ろす。


「終わりだ、カジミール」


俺の声は、自分でも驚くほど静かだった。


怒りはある。


こいつの裏切りで、多くの仲間が危険に晒された。


だが、それ以上に、哀れみすら感じてしまうほどの凋落ぶりだった。


「ひっ……!」


カジミールが顔を上げ、俺と目が合う。


その瞳が、泳ぐように周囲を見回した。


ゼノンはいない。


帝国軍も撤退した。


自分を守る盾は、もう何もない。


「お、お待ちください……レン公王!」


カジミールが、引きつった笑みを浮かべて後ずさる。


「わ、私は……そう! 私は利用されていたのです! ゼノンに……帝国に脅されて、仕方なく……!」


見苦しい言い訳。


聞くに堪えない。


俺が一歩踏み出すと、カジミールは「ひぃっ!」と悲鳴を上げて、さらに後退った。


その時だ。


カジミールの手が、懐へと滑り込んだ。


その動きは、恐怖に駆られた獣のように素早かった。


「お、おのれゼノンめ……! 私を見捨てたことを後悔させてやる……!」


彼が取り出したのは、どす黒い光を放つ小さな宝珠。


見たことのない、魔力を帯びた代物だ。


だが、直感が告げている。


あれは、ロクなものじゃない。


「私にはまだ、この切り札がある……!」


カジミールの顔に、歪んだ希望の色が浮かぶ。


「帝国製の『転移魔道具』だ! 私をここから遠くへ飛ばしてくれる! さらばだ、公国の田舎者ども! 私は生き延びて、必ず再起して……!」


宝珠が、嫌な音を立てて輝き始める。


緊急離脱用の使い捨てアイテムか。


俺が剣を振り上げるよりも速い。


(……逃がすか!)


俺が魔力を練り上げようとした、その瞬間だった。


ヒュンッ――。


風を切る音さえしない。


夜の闇を縫って飛来した、漆黒の弾丸。


パリーンッ!!


「なっ……!?」


カジミールの手の中で、宝珠だけが粉々に砕け散った。


「え……?」


カジミールが、自分の手を見る。


そこにあるのは、砕け散った宝珠の破片と、黒い粉だけ。


手が痺れているのか、彼は状況が飲み込めずに呆然としている。


「馬鹿な……私の転移が……!?」


俺は視線を、遥か後方――王城の尖塔へと向けた。


そこには、肉眼では見えないほどの距離に、微かな気配があった。


シエナだ。


彼女は、カジミールが懐に手を入れたその一瞬の殺気を見逃さなかったのだ。


万能な予知能力などではない。


ただひたすらに、俺の死角を守るために神経を研ぎ澄ませていた結果だ。


「……詰みだな」


俺は静かに告げた。


カジミールが、ガタガタと震えながら顔を上げる。


「そ、そんな……嘘だ……私の計画が……私の未来が……」


彼は地面を這いずり、逃げ道を探す。


だが、その退路は既に塞がれていた。


「……見損ないましたよ、カジミール」


凛とした、しかし氷のように冷徹な声が響いた。


カジミールが弾かれたように振り返る。


そこには、三人の女性が立っていた。


銀色の甲冑を纏った近衛騎士、イリス。


氷の仮面を被った騎士団長、セレスティーナ総長。


そして、その中央。


雷光を帯びた銀髪を風になびかせ、冷ややかな瞳で彼を見下ろす、一人の女性。


亡国ドラグニアの王女――オリヴィア・フォン・ドラグニア。


「お、オリヴィア様……!」


カジミールの顔色が、土気色に変わる。


彼にとって、最も合わせる顔のない相手。


そして、最も裏切ってはならなかった主君。


オリヴィアは、静かに歩を進めた。


その一歩ごとに、バチバチと金色の電撃が空気を焦がす。


「わたくしは、貴方を信じていました。 父王亡き後、この身を案じ、支えてくれる忠臣だと」


彼女の声には、激情はない。


ただ、深く、重い失望だけがあった。


「ですが、貴方は……その信頼を、民の命を、なんと心得るのですか」

「お、お待ちください! 誤解です!」


カジミールが、這いつくばったままオリヴィアの足元にすがりつこうとする。


「私は国のためにやったのです! 滅びゆくドラグニアを見限り、強大なる帝国につくことこそが、民を生き残らせる唯一の道だと……!」


「民を?」


オリヴィアが、冷ややかに問う。


「民を鉱山で強制労働させ、魂を魔剣に喰らわせることが……民のためだと言うのですか?」


「そ、それは……必要な犠牲で……!」


「黙りなさい」


拒絶。


オリヴィアの全身から放たれた威圧オーラに、カジミールは言葉を失い、喉をひきつらせた。


「貴方が守ろうとしたのは、民ではありません。 ……貴方自身の、保身とプライドだけです」


オリヴィアの瞳には、かつての優柔不断な少女の面影はなかった。


そこにあるのは、王族としての誇りと、罪人を裁く断罪者の瞳。


「ひっ……うぅ……」


カジミールは、後ずさろうとする。


だが、背後には俺がいる。


横には、剣に手をかけたイリスとセレスティーナがいる。


完全に、包囲されていた。


「た、助けて……助けてください、姫様……」


カジミールは、涙と鼻水で顔をぐしゃぐしゃにして、懇願し始めた。


「私は幼き頃より、貴女様を見守ってきました……。どうか、情けを……! もう二度としません! これからは公国のために……!」


あまりにも醜い。


かつての知性も、気品もかなぐり捨てた、命乞い。


俺は、思わず割って入りそうになった。


こいつを生かしておけば、また災いになる。


俺の手で終わらせるべきか。


そう思って剣を握り直した時。


「……レンさん」


オリヴィアが、俺を見ずに、静かに名を呼んだ。


「手を出さないでください」


「……オリヴィア?」


「これは……ドラグニアの不始末です。 わたくしが、ケジメをつけなければなりません」


彼女の声は震えていた。


だが、それは恐怖ではない。


自分の手で、かつての臣下を裁くという、重い決断への震えだ。


俺は、握りしめた剣の力を抜いた。


「……分かった。 任せるよ」


俺は一歩下がり、彼女の背中を見守ることにした。


これは、彼女の戦いだ。



◇◇◇



(オリヴィア視点)


私は、ゆっくりと息を吸い込んだ。


脳裏に浮かぶのは、故郷の燃える城。崩れ落ちる柱。


そして、最期までわたくしの名を呼び続け、炎の中に消えていった父の手。


『生きろ、オリヴィア……!』


あの日から、わたくしはずっと逃げていたのかもしれない。


運命から。


責任から。


そして、自分の無力さから。


(……でも)


少し離れた場所から、わたくしを見守ってくれているアリシアとティアーナ。


そして、この新しい国で出会った、温かい仲間たち。


(……わたくしは)


二人は、少し離れた場所から、心配そうに、しかし信頼を込めて頷いてくれていた。


『オリヴィアさんなら、大丈夫』


そんな声が聞こえた気がした。


彼女たちの笑顔。


そして、背後に立つレンの、力強い気配。


(わたくしはもう、守られるだけの姫ではありません)


私は、心の中で強く唱えた。


この人たちの隣に立つために。


公国の未来を背負う、一人の王妃として生きるために。


過去の亡霊カジミールとは、ここで決別しなければならない。


「カジミール卿」


「貴方の罪、ここで償っていただきます」


私は右手を掲げた。その掌に、膨大な魔力が収束していく。


「父王と故国……そして、新たなる故郷(公国)を裏切った大罪を!」


「ひっ……や、やめろ……やめてくれぇぇぇッ!!」


カジミールが絶叫し、逃げ出そうと背を向ける。


だが、遅い。


「裁きの時です」


私の瞳が、金色に輝く。


「【サンダー・ジャッジメント】!!」


ドォォォォォォォォォンッ!!!


天空から、一本の巨大な雷柱が降り注いだ。


それは、物理的な破壊をもたらす雷ではない。


邪悪な魂を討ち、罪を浄化する、断罪の聖雷。


「ぎゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」


雷光が、カジミールを直撃する。


彼の悲鳴は、瞬く間に光の中に飲み込まれていった。


裏切り者の体は、雷の熱量で炭化し、そして塵となって崩れ落ちていく。


眩い閃光が収まった時。


そこには、もう何も残っていなかった。


ただ、焦げた地面と、風に舞うわずかな灰だけが、かつてそこに男がいたことを示していた。



◇◇◇



(レン視点)


静寂が戻る。


オリヴィアは、掲げていた手をゆっくりと下ろした。


その背中は、以前よりもずっと小さく、しかし驚くほど大きく見えた。


「……終わりました」


彼女が呟く。


それは、カジミールへの別れの言葉であり、自分自身の弱さへの決別でもあった。


イリスが、静かに進み出て、跪いた。


「見事なご裁定……感服いたしました、姫様」


セレスティーナもまた、敬礼を捧げる。


俺は、何も言わずにオリヴィアの隣に並んだ。


彼女が顔を上げる。


その瞳には、うっすらと涙が浮かんでいたが、もう迷いはなかった。


「レンさん……」


「ああ。 ……立派だったよ、オリヴィア」


俺が短く告げると、彼女はふわりと、いつもの優しい微笑みを浮かべた。


東の空が、白み始めている。


地平線の彼方から、朝陽が差し込み、戦場を照らし始めた。


長く、苦しい夜が、ようやく明けようとしていた。


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