表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【完結済】伝説の「龍覚者」に覚醒した俺、大切な居場所を守るためなら手段を選ばない 〜始原の森から始まる、現代知識チートによる最強建国記〜  作者: シェルフィールド
4章:帝国大侵攻と龍覚者の反撃 〜裁かれる罪、王女の決断〜

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

140/186

第140話:狂気の方程式と捨てられた駒

爆風が吹き荒れ、焦げた臭いが鼻をつく。


エルムヘイムの正門前、防壁の外に広がる平原は、かつての美しい緑の面影もなく、無残にひび割れ、えぐり取られていた。


土煙の向こう。


そこに、二つの人影があった。


一人は、焼け焦げたローブを纏い、異形の義手から紫煙を上げている狂気の魔術師、ゼノン。


彼は先ほどのレンの一撃――【龍牙・双極】の直撃を受け、半身を焦がしながらも、痛みを感じていないかのようにゆらりと立ち上がった。


そして、その傍らには。


優雅な、しかしどこか歪んだ笑みを浮かべた男が立っていた。


「……カジミール」


俺は、喉の奥から絞り出すように、その名を呼んだ。


公国の文官として、オリヴィアを支え、俺たちに笑顔を向けていた男。


だが今、彼が向けているのは、獲物を追い詰めた狩人のような、冷酷で勝ち誇った視線だった。


「おやめなさい、レン公王」


カジミールは、扇子をパチリと閉じて、諭すように言った。


「無駄な足掻きです。私の計算では、あなたの勝率は万に一つもありませんよ」


その言葉に、俺の横に立つフィーナが、怒気を孕んで唸る。


俺もまた、拳を握りしめた。


「カジミール……! 貴様、よくも皆を! 信じていたオリヴィアや、民たちを!」


「信頼? ええ、利用させていただきましたとも。おかげで、素晴らしい『お土産』を持ち帰ることができました」


カジミールは懐から一冊の分厚い手帳――見覚えのある革表紙の束によく似た、真新しい複写本を取り出し、パラパラとめくって見せた。


それを見た瞬間、俺は息を呑んだ。


「それは……ティアーナの研究レポートの写しか!?」


「ご明察。ティアーナ殿は実に優秀だ。貴方の魔法の術式構成、マナの波長、アレンジの癖……全てが論理的に解析され、記録されていた」


カジミールは悪びれる様子もなく、ゼノンへと視線を流した。


「原本を持ち出せば騒ぎになりますからね。夜な夜な書き写させていただきましたよ。……ゼノン殿。約束通り、彼の魔法の『設計図ソースコード』は全てここに」


「ああ、実に有意義な資料だったよ」


ゼノンは、カジミールが差し出した手帳を受け取りもせず、自身の頭を指差して薄ら笑いを浮かべた。


「既に全て頭に入っている。……ここ数ヶ月、カジミール卿から送られてくる断片的なデータを元に、君の術式を解読する作業は、最高に退屈で……最高に有意義な暇つぶしだった」


ゼノンが、血走った目で俺を見据える。


その異形の義手が、ギチギチと音を立てて変形し、不気味な赤黒い光を放ち始めた。


「先ほどの攻撃……【龍牙・双極】と言ったか。あれは見事だった。私の知らない『未知の出力』だ。このレポートには載っていない」


ゼノンは焦げた自身の肩を叩き、狂気じみた笑みを深める。


「だが、裏を返せば……『それ以外』は全て解析済みということだ!」


「……舐めるな!」


俺は即座に魔法陣を展開する。


こちらの情報が漏れているなら、それを上回る速度で押し切るまでだ。


まずは牽制。風の刃を複数生成し、死角からゼノンを狙う。


「【風牙ウィンド・ファング】!」


不可視の刃が、音速を超えてゼノンへと殺到する。


だが。


ゼノンは避ける素振りすら見せず、義手の指先を指揮者のように軽く振った。


「位相、確認。……反転リバース


キィィィン……!


不快な高周波音と共に、俺の放った風の刃が空中で静止した。


そして、次の瞬間。


ガラスが割れるような音を立てて、魔法そのものが霧散し、消滅してしまった。


「なっ……!?」


「驚くには値しない。君の魔法の『周波数』に合わせて、逆位相の魔力をぶつけただけだ」


ゼノンが嘲笑う。


魔法を力で防いだのではない。


魔法を構成する数式そのものを、逆方向から計算して「ゼロ」に戻されたのだ。


設計図を知られているからこそできる、完璧なアンチ・スペル。


「くそっ、ならこれはどうだ!」


俺は属性を変える。


炎、氷、雷。次々と魔法を放つが、その全てが発動した瞬間に「無効化」され、火の粉一つ残らず消されていく。


「無駄ですよ、陛下」


カジミールが、安全圏から高らかに告げる。


「ティアーナ殿のレポートは完璧でした。貴方の手札は、全て我々の手のひらの上にある」


(……まずい)


冷や汗が背中を伝う。


攻撃が通じないだけじゃない。こちらの魔力が一方的に消耗していく。


「なら……さっきと同じだ! 力押しでいくぞ! フィーナ!」


「うん!」


小細工が通じないなら、先ほどゼノンを吹き飛ばした『調律』による最大出力でねじ伏せるしかない。


俺はフィーナの手を握り、再び魔力を同調させようとした。


龍と人の融合。


この未知の力なら、ティアーナのデータにも載っていないはずだ。


「――それも、予測済みだ。二度は食らわんよ」


ゼノンが、懐からどす黒く濁った水晶を取り出した。


それを見た瞬間、フィーナが「ひっ」と悲鳴を上げて身を震わせた。


「カジミール卿からの報告で、半信半疑だったが……先ほどの一撃で確信した。君のその規格外の出力の源は、その娘……『龍』とのリンクにあるとな」


カジミールの声と共に、ゼノンが水晶に魔力を流し込む。


「ならば、その『絆』を断ち切れば、君はただの凡庸な魔術師に過ぎない!」


ブオォォォォォン……ッ!!!


水晶から、耳障りな不協和音が放たれた。


それは音ではない。


龍の魔力波長を乱すためだけに調整された、呪いのジャミングウェーブ。


「がぁっ……!?」


「きゃあぁぁっ!!」


俺とフィーナの繋いだ手から、バチバチと激しいスパークが弾けた。


いつもの温かい魔力の流入ではない。


泥のような、針のような、不快なノイズが逆流してくる。


「ぐ、うぅぅ……ッ!?」


激痛が全身を走る。


魔力回路が焼き切れそうなほどの熱。


俺たちは堪らず、弾かれたように手を離した。


「はぁ、はぁ……ッ!」


「レン……痛い、よぉ……」


フィーナが涙目でうずくまる。


最大の武器であり、かなめである『調律』が、封じられた。


「ククク……無様だねぇ、龍覚者!」


ゼノンが義手を掲げる。


周囲のマナが悲鳴を上げ、黒い雷へと変換されていく。


「通常魔法はデータで無効化し、切り札の龍魔法はジャミングで封じた。……これで君は、手足をもがれたも同然だ!」


「【深淵の黒雷アビス・ボルト】!」


放たれたのは、回避不能の漆黒の雷撃。


防御魔法を展開しようとするが、ジャミングの影響で魔力がうまく練れない。


障壁が、薄い。


「しまっ――」


バリバリバリバリッ!!


「ぐあぁぁぁぁぁっ!!」


衝撃が身体を貫く。


視界が白く飛び、俺は地面へと叩きつけられた。


「レン!!」


俺は膝をつき、激しく咳き込んだ。


指先が痺れ、視界が霞む。


「チェックメイトですな」


カジミールの冷ややかな声が、頭上から降ってくる。


「さあ、ゼノン殿。トドメを。陛下はもう動きません」


「ああ、頂くとしよう。その尊いサンプルを!」


ゼノンが、再び黒雷を構える。


今度は防げない。


フィーナだけでも逃がさなければ。


俺が這いつくばりながら顔を上げようとした、その時だった。


ドゴォォォォォンッ!!


横合いから飛来した何かが、ゼノンと俺の間の地面を爆砕した。


舞い上がる土煙。


「なっ!?」


カジミールが狼狽する。


煙を切り裂いて現れたのは、巨大な盾を構えた緑の疾風だった。


「レンに……指一本触れさせるかよォッ!!」


「カイル!?」


カイルだけではない。


その背後から、白銀の剣閃が走る。


「陛下! お怪我は!?」


イリスだ。


さらに、上空から光の矢が降り注ぎ、ゼノンの追撃を牽制する。


「レンさん、遅くなりました!」


「お待たせしましたわ!」


アリシア、ティアーナ。


そして、雷光を纏ったオリヴィアと、氷の剣を構えたセレスティーナも駆けつける。


「ば、馬鹿な……!」


カジミールが目を見開いて後ずさる。


「三将軍の部隊はどうした!? お前たちがここに来られるはずがない! 計算では、各都市で釘付けになっているはずだ!」


「あら、残念ねカジミール卿」


ティアーナが、眼鏡を光らせて不敵に笑う。


その手には、怪しく輝く魔導具が握られている。


「研究データを盗み出したこと……褒めて差し上げますわ。でも、詰めが甘くてよ」


ティアーナが魔導具を起動する。


キィィィィィン……!


清冽な高周波音が響き、ゼノンの水晶から放たれていた不快なノイズが、瞬時に相殺された。


「なっ……ジャミングが消えた!?」


ゼノンが驚愕する。


「あなたが持ち出したのは『基礎理論』のレポート。……最新の研究データは、私の頭の中にしかありませんわ!」


ティアーナが叫ぶ。


「私の技術を悪用してレンさんを傷つけたこと……後悔させてあげます!」


「今だよ、みんな!」


アリシアが杖を掲げる。


「【セイクリッド・サンクチュアリ】!」


柔らかな光が広場を満たし、俺の体に残っていた黒雷の痺れと、魔力回路の不調を浄化していく。


カイルとイリスが、左右からゼノンに肉薄する。


「おらぁぁぁっ!」


「はぁっ!」


二人の連携攻撃に、ゼノンは防戦一方となる。


「くっ、おのれぇ……!」


カジミールの顔が、焦りで歪む。


「なぜだ!? なぜ計算が狂う!? 私のデータは完璧だったはずだ!」


「データ? そんなもの、過去の遺物だ」


俺は、震える足に力を込め、立ち上がった。


フィーナが、俺の手をぎゅっと握りしめてくれる。


不快なノイズはもうない。


あるのは、信頼と絆の温かい魔力だけ。


「見せてやるよ、カジミール。お前の知らない……俺たちの『今』を!」


俺はフィーナと視線を交わす。


言葉はいらない。


心臓の鼓動が重なる。


「フィーナ、『調律』だ。……最大出力で!」


「うん!」


二人の体が、黄金と蒼の光に包まれる。


(そうだ……。俺たちの力は、固定されたデータなんかじゃない!)


俺の中で、七色の魔力が荒れ狂い、そして美しく調和していく。


過去の自分ではない。


仲間と共に戦い、傷つき、乗り越えてきた「今」だからこそ出せる、進化し続ける絆の力。


「ゼノン! これが俺たちの答えだ!」


俺は、束ねた魔力の奔流を、両手の中に圧縮する。


それは、夜明けの空のように、あらゆる色が混じり合った極光。


「【龍律・万象の極光オーロラ・バースト】!!」


ズゴオオオオオオオオオオオオッ!!!


放たれたのは、光の濁流だった。


七色の極光が螺旋を描き、空間そのものを震わせながらゼノンへと突き進む。


「な……!?」


ゼノンが防御障壁を展開する。


逆位相の魔力をぶつけようとするが、あまりの出力と複雑さに、計算が追いつかない。


「なんだ、このデタラメな出力は!?」


ゼノンの叫び声が、光の中に消える。


「私の理論を超えている……!? 解析不能! 制御不能! ……素晴らしい、素晴らしいぞぉぉぉッ!!」


断末魔ではない。


それは、未知の現象を目の当たりにした研究者の、狂喜の絶叫だった。


光が弾け、平原を昼間のように照らし出す。


やがて、光が収まると。


そこには、半身を焼かれ、義手を粉砕されたゼノンが立っていた。


ボロボロの姿。


だが、その顔には苦痛ではなく、恍惚とした笑みが張り付いていた。


「ククク……ハハハハッ!」


ゼノンは、黒焦げになった自分の体を愛おしそうに撫でた。


「取れた……取れたぞ! 究極のデータが! 龍の力と、人の心の融合……これこそが、欠けていた最後のピース!」


彼は、懐から禍々しい輝きを放つ結晶――「転移水晶」を取り出した。


「逃がすか!」


カイルが飛び出そうとするが、ゼノンが放った衝撃波に阻まれる。


「この龍の力があれば、皇帝陛下の『呪い』は『祝福』へと昇華される!」


ゼノンの目が、狂気でギラギラと輝く。


「データは揃った……! これで『アーク・セレネ』は蘇る! 皇帝陛下の手によって、世界が終わるその時が来たのだ!」


「アーク・セレネ……だと?」


その不吉な響きに、俺は背筋が凍るのを感じた。


奴の真の目的は、その名の示す「何か」の復活だったのか。


水晶が輝き始め、空間が歪む。


その時。


「ゼ、ゼノン殿!?」


瓦礫の陰で震えていたカジミールが、慌てて飛び出した。


「ま、待ってください! 私もご一緒に……! 私は帝国の功臣となるはずでは……!」


彼は、すがりつくようにゼノンへと駆け寄る。


裏切り者の末路。


公国に居場所をなくした彼にとって、帝国だけが唯一の逃げ場だったのだ。


だが。


「……邪魔だ」


ゼノンは、冷酷な瞳でカジミールを見下ろした。


ドガッ!!


「ぐべっ!?」


ゼノンの足が、カジミールの腹部を蹴り抜いた。


カジミールはボールのように吹き飛び、俺たちの目の前に転がった。


「不要だ。これ以上『ノイズ』はいらない」


「そ、そんな……」


カジミールが、信じられないものを見る目でゼノンを見上げる。


「私は……私は……」


「さらばだ、龍覚者! 次に会う時は、君が『アーク・セレネ』の贄となる時だ!」

高笑いと共に、ゼノンの姿が光の中に消えた。


後に残されたのは、静寂。


そして。


俺たちの足元で、泥にまみれて呆然としている、一人の男だけだった。


「……あ……あぁ……」


カジミールは、虚空に手を伸ばしたまま、震えていた。


帝国に忠誠を誓い、国を売り、仲間を裏切った。


その結果が、これだ。


使い捨ての駒として、無慈悲に捨てられた。


俺は、剣を下ろし、ゆっくりとカジミールへと歩み寄った。


「……終わりだ、カジミール」


「ひっ……!」


彼が顔を上げ、俺を見る。


その顔は、恐怖と絶望で醜く歪んでいた。


かつての知的な面影は、もうどこにもなかった。


「面白かった」 「続きが読みたい!」


と少しでも思っていただけたら、 記事の最下部にある【☆☆☆☆☆】をタップして応援していただけると嬉しいです!


「面白かった!」→ 星5つ 「まぁまぁかな」→ 星3つ

など、気軽な気持ちで評価していただけると、執筆スピードが上がります!


ブックマーク登録もぜひよろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ