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【完結済】伝説の「龍覚者」に覚醒した俺、大切な居場所を守るためなら手段を選ばない 〜始原の森から始まる、現代知識チートによる最強建国記〜  作者: シェルフィールド
4章:帝国大侵攻と龍覚者の反撃 〜裁かれる罪、王女の決断〜

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第116話:奇跡の代償と影の誓い

「……レン、ここにいたのか!」


バンッ、と屋上テラスの扉が勢いよく開かれる。


現れたのは、息を切らせたカイルだった。


「っ……!?」


俺とオリヴィアは、弾かれたように体を離す。


オリヴィアは顔を真っ赤にして、パッとそっぽを向いてしまった。


その耳まで朱に染まっているのが見て取れる。


俺も、心臓が早鐘を打つのを感じながら、努めて冷静さを装ってカイルを見た。


「ど、どうしたカイル。そんなに慌てて」


「お取り込み中、悪かったな。だが、緊急事態だ」


カイルは俺たちの様子にニヤリと笑う余裕もなく、真剣な表情で告げた。


彼は息を整え、俺たちの顔を交互に見る。


「あの少女が……廃村から連れ帰ったあの子が、目を覚ました。それも、完治してな」


「本当か!?」


俺は思わず身を乗り出した。


「ああ。今、執務室の前で待たせてある。『どうしても、すぐに公王陛下に会いたい』って聞かなくてな」


俺とオリヴィアは顔を見合わせた。


エリクサーを投与してから数日。


あの瀕死の状態から、もう動けるようになったというのか。


「行こう、オリヴィア」


「……はい、レンさん」


オリヴィアが、小さく頷く。


俺たちはカイルに続き、急いで階段を降りた。


胸の中には、安堵と共に、なぜか奇妙な胸騒ぎが渦巻いていた。



◇◇◇



公王執務室。


夜の静寂に包まれた部屋の前に、俺たちは到着した。


俺が重厚な扉を開け放つ。


部屋の中には、既に護衛として先行していたイリスと、アリシアが待機している。


そして、その中心に一人の少女が、窓の外の月を見上げるようにして佇んでいた。


「……待たせたな」


俺が声をかけると、少女はゆっくりと振り返った。


その姿を見た瞬間、俺は息を呑んだ。


14歳ほどだろうか。


艶やかな黒髪を肩で切り揃え、簡素だが清潔な衣服を身に纏っている。


(……信じられない。本当に、あの子なのか?)


俺の脳裏に、凄惨な記憶が蘇る。


右腕を失い、感染症で視力を失い、腐臭を漂わせて死の淵を彷徨っていた少女。


だが今、目の前にいる彼女からは、死の気配など微塵も感じられない。


それどころか、直視できないほどの生命力が溢れ出している。


少女は、音もなく俺の前へと進み出た。


その歩調は優雅で、どこか人間離れした静謐さを帯びている。


彼女は俺のデスクの前まで来ると、流れるような動作で深く膝を折った。


それは、王に対する臣下の礼というよりは、神に対する祈りの姿勢に近かった。


「……お初にお目にかかります、レン陛下」


少女が顔を上げる。


その瞳を見て、俺は背筋に冷たいものが走るのを感じた。


深い、底なしの闇のような黒い瞳。


だがその奥には、狂気的なまでに力強い光が宿っている。


かつて光を失っていたとは信じがたいほど、その瞳は俺の姿を――俺の存在そのものを、焼き付けるように見つめていた。


「わたくしの名は、シエナと申します」


鈴を転がすような、しかし芯のある声。


彼女は、自身の右腕を胸に当てた。


その右腕は、袖口から白磁のように白く、滑らかな肌を覗かせている。


傷跡一つない。


いや、あまりにも美しすぎて、作り物めいてさえ見える「完全な腕」だった。


「レン陛下……。御身は、わたくしの救世主」


シエナは、陶酔したような表情で語り始めた。


「わたくしは、暗闇の中で死を待つだけの肉塊でした。絶望だけが友であり、痛みだけが生きている証でした」


部屋の空気が、ピリリと張り詰める。


カイルが警戒するように腰の剣に手をやり、イリスが眉をひそめる。


だが、シエナは周囲の反応など意に介さない。


彼女の世界には、俺しか存在していないかのようだった。


「ですが、陛下は現れました。わたくしに光を、命を……そしてこの腕を与えてくださいました」


彼女は、再生した右腕を、愛おしげに、そして崇拝するように掲げた。


「あの日、暗闇の中で陛下の手の温もりを感じた瞬間、わたくしの世界は変わりました。……陛下こそが、この腐敗した世界を浄化する唯一の光」


彼女の声に、熱がこもる。


「神話に謳われし『救世の龍覚者』の再来であると、わたくしの魂が理解したのです」


(……おいおい、ちょっと待ってくれ)


俺は内心で冷や汗をかいた。


感謝されるのは嬉しい。


命を救った甲斐があったと思う。


だが、彼女の瞳に宿っている感情は、そんな生易しいものではなかった。


これは、崇拝だ。


それも、狂信に近いレベルの。


「この命と、再生されしこの右腕は、もはやわたくしのものではありません」


シエナの声が、一段低く、熱を帯びる。


「これらは全て、陛下の御為に。陛下の『穢れ』を払い、陛下の覇道を妨げる全ての障害を排除するためにのみ、使わせていただきます」


「……シエナ、と言ったな」


俺は努めて冷静な声を出し、彼女の言葉を遮った。


このまま聞いていると、彼女がその場で自分の心臓でも抉り出しそうな危うさを感じたからだ。


「君が元気になったことは、心から嬉しく思う。だが、俺は神ではない。ただの人間であり、この国の公王に過ぎない。過度な崇拝は不要だ。それに……」


俺は、彼女の目を覗き込んだ。


「君はまだ若い。これからは、普通の女の子としての幸せを探したっていいんだぞ」


それが、命を救った者の責任だと思った。


だが、シエナは首を横に振った。


その表情には、悲壮なまでの覚悟が滲んでいた。


「いいえ、陛下。……わたくしは知っています。光あるところには、必ず濃い影が落ちることを」


「……影?」


「はい。わたくしのような、絶望を見た者でなければ、見えない闇があります。……陛下のような清らかな光の住人には、決して気づけない『闇』が」


彼女は、ふ、と笑った。


それは14歳の少女とは思えない、凄みのある笑みだった。


「だからこそ、わたくしが陛下の『影』となります。光の中に潜む毒を処理し、陛下の手を汚させないために」


(こいつ……本気だ)


俺は言葉を失った。


彼女の思考は飛躍している。


だが、その飛躍こそが、彼女が経験してきた地獄の深さを物語っていた。


彼女にとって、俺への奉仕は単なる恩返しではなく、自らの存在意義そのものになっているのだ。


シエナは懐から、小さく折り畳まれた一枚の紙片を取り出した。


走り書きで、いくつかの名前や、人物の特徴が記されているのが見える。


「これは、わたくしからの最初のお礼……いいえ、最初の奉仕です」


彼女は立ち上がり、音もなく俺のデスクへと歩み寄ると、その紙片を滑らせた。


俺は怪訝に思いながらも、それを手に取る。


そこには、13名分の記述があった。


『食料庫、夜番の小柄な男』『第三工房、右足を引きずっている職人』……そして、いくつかの具体的な名前。


いずれも、黒鉄鉱山から救出された民の特徴だ。


「……これは?」


「帝国のネズミたちです。黒鉄鉱山から救出された数千の民の中に、巧妙に紛れ込んでいます」


「なっ……!?」


傍らで聞いていたオリヴィアが、驚愕の声を上げた。


「まさか! 避難民の身元調査は厳重に行ったはずです! 魔力検査も、尋問も……!」


「待ってくれ」


俺はシエナを鋭く見据えた。


「君はずっと病床に伏せっていたはずだ。今日目覚めたばかりの君に、なぜ彼らが内通者だと分かる? いつ調べたんだ?」


そうだ。彼女に調査をする時間などなかったはずだ。


根拠のない告発なら、看過できない。


だが、シエナは瞬き一つせず、淡々と答えた。


「調べる必要などありません。……聞こえていましたから」


「聞こえていた?」


「はい。わたくしは長く視力を失っていました。その代わり……闇の中の『音』や『気配』には敏感なのです」


シエナは自分の耳を指差した。


「看病に来る者の足音、窓の外を通る人々の話し声、そして……彼らが発する、魂の軋むような不協和音。意識が混濁している間も、わたくしの脳裏には、その不快なノイズがずっと焼き付いていました」


彼女は、俺の目を真っ直ぐに見つめ返す。


「目覚めて体が動くようになり、すぐにそのノイズの主たちの名前を書き出しました。……彼らは『汚染』されています。通常の尋問では見抜けないでしょう」


「汚染、だと?」


「はい。思考誘導の術式……あるいは『呪いの楔』とでも言うべきでしょうか。特定の合図で自らの命を捨てて破壊活動を行うよう、魂に命令が刻まれています」


部屋の空気が凍りつく。


呪いによる強制的な自爆テロ。


もし事実なら、防ぎようのない悪夢だ。


だが、証拠は彼女の「感覚」だけだ。


即座に信じていいものか、俺は迷った。


その時、シエナがふと視線を扉の方へと向けた。


「……例えば、今。この部屋の前を通り過ぎようとしている衛兵」


彼女は静かに言った。


「彼からも、同じ『澱み』を感じます」


俺はハッとして、【魔力感知マッピング】を展開した。


廊下を歩く衛兵の反応。


一見すると正常だ。


だが、シエナの言葉を頼りに、その魔力の揺らぎを極限まで拡大して解析してみる。


(……なんだ、これは?)


通常の魔力波長の下に隠れるように、針の先ほどのごく小さな、しかし異質な「歪み」が見えた。


まるで、何者かの意思が埋め込まれているような、どす黒い棘。


「……っ!」


俺は戦慄した。


カジミール卿だけじゃない。


こんな爆弾が、まだ街の中に10人以上も潜んでいるというのか。


「……カジミール卿の裏切りは、氷山の一角に過ぎません」


シエナは、無垢な少女のような顔で、恐ろしい事実を告げた。


「このリストの13名は、いずれ動き出します。……陛下。ご命令をいただけますか?」


彼女の右手が、微かに黒い魔力を帯びる。


その魔力は、俺が見たこともないほど鋭く、そして静かだった。


「今すぐ、彼らを『処理』して参ります」


「……待て」


俺は、慌てて彼女を制止した。


彼女の感覚は正しい。俺の感知でも捉えきれなかった違和感を、彼女は見抜いている。


この情報は無視できない。


だが、だからといって即座に処刑など許せるはずがない。


「殺すな。……だが、放置もできない」


俺はカイルとイリスに向き直った。


カジミールの一件で、俺たちは後手に回りすぎた。


同じ過ちを繰り返すわけにはいかない。


「カイル、イリス。このリストの者たちを、極秘裏に拘束しろ。……ただし、手荒な真似はするな。彼らもまた、帝国の被害者かもしれないんだ」


「……分かった。慎重にやる」


カイルが神妙な顔で頷く。


「御意に。他言無用で動きます」


イリスも緊張した面持ちで続いた。


二人が部屋を飛び出していくのを見送り、俺は改めて目の前の少女を見つめた。


シエナ。


俺たちが救った命。


だが、その命は今、俺への狂信的な忠誠という燃料を得て、とてつもなく鋭利な刃へと変貌を遂げていた。


(俺は……とんでもないものを生み出してしまったのかもしれない)


彼女の有用性は計り知れない。


カジミールの裏切りで穴だらけになった公国の防諜網を、彼女なら埋められるかもしれない。


だが、その瞳に宿る危ういまでの純粋な狂気。


それを制御し、導くことができるのは、どうやらこの世界で俺一人だけのようだった。


「……シエナ」


俺は覚悟を決めて、彼女の名を呼んだ。


「はい、陛下。わたくしの全ては、貴方様の御心のままに」


シエナは、恍惚とした表情で再び深く頭を垂れた。


その姿は、美しくも恐ろしい、一本の黒い花が咲いたかのようだった。

お読みいただいてありがとうございます!


思ったより面白いじゃん!(*'▽')(*'▽')


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