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【完結済】伝説の「龍覚者」に覚醒した俺、大切な居場所を守るためなら手段を選ばない 〜始原の森から始まる、現代知識チートによる最強建国記〜  作者: シェルフィールド
4章:帝国大侵攻と龍覚者の反撃 〜裁かれる罪、王女の決断〜

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第113話:公王の苦悩と二人の妻

深夜の公王執務室。


重苦しい静寂が、部屋の隅々まで支配していた。


窓の外には、冷たい月が浮かんでいる。


俺は一人、その蒼白い光を見上げながら、執務机の椅子に深く体を沈めていた。


(……政略結婚、か)


アルバート卿の悲痛な進言が、頭の中で何度も反響する。


『お二人のご成婚を、正式に発表すべきです』


『それこそが、両民の絆を鋼鉄に変える、最強の政略となります』


頭では分かっている。


理屈としては、これ以上ない正解だ。


カジミール卿というドラグニア側の重鎮が裏切った今、エルムの民とドラグニアの民の間に亀裂が入るのは避けられない。


それを塞ぐには、トップ同士の結合――俺とオリヴィアの婚姻こそが、最も効果的で、即効性のある劇薬だ。


だが。


俺の視線は、机の上に置かれた一枚の羊皮紙に落ちた。


そこには、かつてゴードンに描いてもらった、二つの指輪のデザイン画があった。


太陽の輝きを模した『陽光石』の指輪。


月の静寂を宿した『月影石』の指輪。


あの日、湖畔で誓った言葉が蘇る。


『君たちは二人とも、かけがえのない存在だ』


『これからの人生を、この国の未来を、俺と共に歩んでほしい』


あのアリシアの涙。


ティアーナの笑顔。


俺は、あの瞬間の誓いに嘘をつきたくない。


二人は、俺のわがままを受け入れ、三人で歩む道を選んでくれた。


それなのに、俺はさらに別の女性を娶るというのか?


国の安定という「大義」のために、彼女たちの愛を踏みにじるのか?


(……クソッ)


俺は、ガシガシと頭を掻きむしった。


公王として、国を守るためにはオリヴィアとの結婚は正しい選択だ。


否定のしようがない。


だが、俺は一人の男として、アリシアとティアーナに誓った愛を裏切るのか?


二人を悲しませてまで、俺は王座に座り続けるのか?


「……俺は、どうすればいい」


誰もいない部屋に、弱音が漏れる。


王としての仮面を脱ぎ捨てれば、そこにはただの迷える一人の男がいるだけだった。


どれくらいの時間が経っただろうか。


月が中天にかかる頃、俺はふと顔を上げた。


迷っていても、答えは出ない。


そして何より、俺がここで一人で悩み続けること自体が、二人に対する不誠実ではないか。


俺たちは、家族になると誓ったはずだ。


喜びも、悲しみも、そして苦しみも分かち合うと。


「……二人を裏切るわけにはいかない。嘘をついてごまかすこともできない」


俺の瞳に、小さな決意の光が宿る。


「……話そう。俺の苦しみも、迷いも、全て」


俺は立ち上がった。


椅子が床を擦る音が、静寂を破る。


スケッチを机の引き出しにしまい、俺は執務室を後にした。



◇◇◇



廊下を歩く足取りは、鉛のように重かった。


一歩進むごとに、心臓が早鐘を打つ。


これから俺が話すことは、彼女たちを傷つけるかもしれない。


彼女たちの笑顔を、曇らせてしまうかもしれない。


その恐怖が、俺の足を止めさせようとする。


だが、俺は止まらなかった。


逃げてはいけない。


俺はエルム公国の公王であり、何より、彼女たちの夫なのだから。


寝室の前に着く。


扉の隙間からは、温かなランプの光が漏れていた。


中からは、微かに二人の話し声が聞こえる。


穏やかで、優しい声。


その日常の音が、今は胸に痛い。


「……ふぅ」


俺は一度深呼吸をして、肺の中の空気を全て入れ替えた。


震える手を握りしめ、拳を作る。


そして、コンコン、と扉をノックした。


「……レン?」


アリシアの声がした。


「ああ。……入るぞ」


俺は扉を開けた。



◇◇◇



寝室に入ると、アリシアとティアーナは、小さなテーブルを囲んでハーブティーを飲んでいたところだった。


俺の姿を見た瞬間、二人の表情が変わった。


「レン……?」


アリシアが心配そうに立ち上がる。


俺の顔色が、よほど酷かったのだろう。


ティアーナも、静かにカップを置き、俺を真っ直ぐに見つめた。


「……何か、あったのですね?」


彼女の洞察力は、いつも鋭い。


俺が夜遅くまで執務室に籠もり、そして今、重い足取りでここに来た理由を、既に察しているようだった。


「……ああ」


俺は扉を閉め、二人の前に歩み寄った。


喉が渇く。


言葉が、喉につかえて出てこない。


だが、言わなければならない。


「……重要な、話がある」


俺は、二人を見据えた。


その瞳には、俺への信頼と愛情が満ちている。


その光が、俺に勇気をくれた。


「……先ほど、アルバート卿から進言があった」


俺は、一つ一つ、言葉を紡ぎ出した。


カジミール卿の裏切りがもたらした影響。


民の間に広がりつつある不安と不信。


それを払拭するための、唯一にして最強の手段。


「……オリヴィアとの、政略結婚を進言された」


その言葉を口にした瞬間、部屋の空気が凍りついたように感じた。


「国をまとめるためだそうだ。彼女を妃に迎えることで、エルムとドラグニアは真に一つになれる、と」


俺は、二人の反応を見るのが怖かった。


だが、目を逸らさずに続けた。


「だが、俺は……俺は、お前たちを愛している。お前たちを傷つけたくない」


これは、王としての言葉ではない。


一人の男の本音だ。


「公王として、この国を守らなければならない責任があることは分かっている。だが……俺の心には、お前たちがいる。お前たちとの誓いを、踏みにじるような真似はしたくないんだ」


俺の声は、情けなく震えていたかもしれない。


苦悩と自己嫌悪が、言葉の端々に滲み出ていた。


アリシアの瞳が、一瞬、悲しげに揺れた。


その緑色の瞳の奥に、痛みが走るのを俺は見た。


当然だ。


夫から、別の女性との結婚の話を聞かされて、平気なはずがない。


だが、次の瞬間。


彼女は、俺の手をそっと両手で包み込んだ。


「……レン」


その手は、驚くほど温かかった。


「謝らないで」


彼女は、俺を見上げて微笑んだ。


その笑顔は、悲しみを乗り越えた、慈愛に満ちたものだった。


「レンがどれだけ私たちを大切に想ってくれているか、痛いほど伝わってるよ。だって、レンはこんなに苦しそうな顔をしてるんだもん」


「アリシア……」


「私たちは、レンの妻だよ。でも同時に……この国の妃でもあるの」


彼女の言葉は、優しく、そして強かった。


俺が忘れていた視点。


彼女たちもまた、この国を背負う覚悟を持っていたのだ。


「レン」


ティアーナが、静かに口を開いた。


彼女は立ち上がり、俺のもう片方の手を取った。


その青い瞳には、月光のような理知と、深い愛情が宿っていた。


「レンさんの苦しみ……。あなたにここまで悩ませてしまうことこそが、私たちの不徳です」


「不徳だなんて……そんなことはない!」


「いいえ。私たちは知っています。あなたがどれほど誠実で、どれほど深く私たちを愛してくださっているか」


ティアーナは、俺の手を強く握り返した。


「オリヴィア様もまた、この国になくてはならない方です。彼女が王妃となることで、多くの民が救われるのであれば……私たちは、それを拒む理由はありません」


「ティアーナ……お前も、それでいいのか?」


「はい。それに……」


彼女は、少しだけ悪戯っぽく微笑んだ。


「オリヴィア様なら、私たちの家族として、共にあなたを支えていける。そう確信していますわ」


「そうだよ、レン」


アリシアが、俺の胸に顔を埋めるようにして言った。


「オリヴィア様も含め、皆で家族としてあなたを支える。それが、私たちが選んだ道です」


二人の言葉が、凍てついていた俺の心を溶かしていく。


陽だまりのようなアリシアの温もり。


月影のように静かに照らすティアーナの導き。


二人の包容力が、俺の迷いを、苦しみを、優しく包み込んで消し去ってくれた。


「……ありがとう」


俺の目から、一筋の涙がこぼれ落ちた。


王として、人前で涙を見せるべきではないかもしれない。


だが、今だけは許してほしい。


「ありがとう……。俺は、世界一の幸せ者だ」


俺は、二人を強く抱きしめた。


華奢な二つの体が、俺を支えてくれている。


その温もりが、俺に再び立ち上がる力を与えてくれた。


「……分かった。俺も、覚悟を決める」


俺は顔を上げ、涙を拭った。


「オリヴィアにも、誠心誠意、俺の想いを伝える。そして、この国を……俺たち全員の居場所を、必ず守り抜いてみせる」


窓の外では、夜明け前の空が白み始めていた。


嵐はすぐそこまで来ている。


だが、今の俺には、もう迷いはなかった。


愛する妻たちが、俺の背中を支えてくれているのだから。


お読みいただいてありがとうございます!


思ったより面白いじゃん!(*'▽')(*'▽')


というお方は、ブクマしていただいたり、★ポチポチしていただいたりすると、筆者が本当に作品を書く、モチベーションに繋がります。

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