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030 古代魔法

「まさか、本当にワイバーン討伐を成功させてしまうとは」


「我々は少々侮っていたのかもしれませんね」


夜も更けてきた時間、人知れぬ村の隅で何者かの話し声が聞こえていた。闇夜に紛れて話し込んでいるのは若くして村長になったという男だった。それ以外にも複数の男女の姿が見受けられる、服装からして全員がこの村の住人であることが分かった。


「これで王国騎士団を壊滅させるという計画がぱぁになってしまったわけですが如何なされますか?」


「それよりもあの冒険者どもを始末するのが先ではないでしょうか。寝込みを襲えばワイバーンを屠る実力があろうとも確実に命を狩り取れます。生かしておくのはまずいのでは?」


本来なら今日、王国騎士団の多くが命を落とすはずだった。村を乗っ取り、山の奥地からワイバーンを移動させ、討伐に失敗したように見せかけ国の剣である王国騎士団を壊滅させる手筈だった。


「ここまで準備するのに実に一ヶ月を要した。村人を全員殺し、あたかも元から暮らしていたように農作業まで覚え、決して誰にも気取られぬように完璧に村人を演じてきた。それを貴族の気まぐれで台無しにされたのだ。あの貴族、生きて帰れるなどと思うなよ」


「王国騎士団に出したはずの依頼を奪って、冒険者を送り込んできた。しかも、やってきたのは大陸最強と名高い銀の雨粒だった。おまけも付いているようだが、これは随分とタイミングが良いとは思いませんか?」


「我々が暗躍していたことが露見したと?それはないでしょう。それにワイバーンを討伐する姿をゼロと実際に観察してきましたが、実際にワイバーンを倒したのは、たった一人の女性でした」


「スリー、貴様はいつも言葉が過ぎる。我々でさえワイバーンは連れてくるのがやっとなのにソロで討伐したというのか。しかも女だと、信じられんな」


「静かに」


低く重たい声。この場のリーダー、村長である男が静かに告げる。


「不安材料はいくつかある。しかし彼らには手は出さない。我々の計画を破綻させた貴族には報復が必要ではあるが、一人厄介な人物がいる」


「それは?」


「アティ・ホノグラスだ」


「確か、噂の天才魔法使いでしたかな?我らの国にもその名は轟いていますからな」


「そうだ。彼女こそ今、主が口説いている人物だ。万が一にも彼女に危険が及んではそもそもの計画に不破が生じる可能性がある」


「では」


「ああ、このままお帰り頂こう。その後で主の意見を仰ぐことにする。誰か異論のある者は」


その言葉を最後に静寂が訪れる。


空には半分の月が浮かんでいる。時折り、雲がその姿をいたずらに隠しては地上の陰たちを夜の闇に溶かす。月明かりもおぼろげに、気配もなく佇む彼らは村人というには少々無理がある。


表舞台には一切現れない裏の世界に生きる者たち。暗殺、隠密を得意とする陰の集団。帝国クリムフンドのとある人物が送り出した隠密部隊が彼らだった。


「話は以上だ。明日から忙しくなりそうだ。今日くらいはベッドでゆっくり休もうじゃないか」


空気を変え、村の若者然とした態度でおどけてみせる。それに笑いが漏れる。


「そうね、村長の言う通りだわ」


「そうじゃそうじゃ、儂も年だしこんな夜中に起きていたらボケて徘徊していると勘違いされてしまうのう」


「はははは」


誰にも気づかれることなく。村人たちは夜の何でもない談笑を終わらせるとそれぞれの家に向かって歩き出す。だが、それは予想だにしない出来事で打ち消されることになる。


ドン!


「は…?」


突然、彼らの中心に全裸の男が出現したのだ。



(とんでもないことを聞いてしまった…)


僕は今、村人たちの輪の中心にいる。彼らと仲良くなったわけではない。信じられないかもしれないが僕は今、透明人間になっているのだ。


事の起こりは数刻前、優しい月と夜の静寂に誘われて僕は夜の散歩に出た。昼間の事でどうにも寝付けないのと、個人的にしておきたいことがあったのだ。


僕の許嫁であるアイリからプレゼントされた魔術書には古代魔法について記されていた。それをこの討伐前に解読していたのだ。


古代魔法は神代と呼ばれていた、もっと魔法が栄えていた時代の魔法のことだ。現代の魔法よりも強力でまさに神の如き力とも呼べるような魔法だったと言われている。残念ながら古代魔法は失われてしまっている。僕の手に入れた魔術書にはその古代魔法の一部が記されていたのだ。


歴史的にも魔法学的にもすごい発見だ。失われた古代魔法を僕が一番に復活させる。こんな偉業を成せば、アティが悔しがるに違いない。しかしそれは嬉しいかと言えばそうではない。怖い。それだけだ。昼にあれだけのものを見せられれば、アティの邪魔になるようなことだけはしたくないと思う。


それはそれとして、僕にも知的探求心というものはある。とりあえず使ってみたい。力を手にすれば誰しもそれを使わずにはいられないだろう。


僕が解読したんだ。権利としては当然だ。危険はない、僕の解読した魔法は攻撃魔法ではなかった。


「『インビジブル・フォース』」


古代魔法の構造を理解し、脳内で組み立てる。僕は魔力を消費すると、古代魔法を口にした。


するとどうだろう。僕の指が、手が、見えなくなって消えていく。


古代魔法の効果は透明化。気配も遮断され、完全に見えなくなるし認識されることがなくなるというものだ。


「す、すごいぞ…」


人の形に膨らんだ衣類。僕の体は見えなくなっている。透明人間の誕生だ。


人類の夢がまた一つ叶ったのだと僕は感激したが、すぐにこの魔法の危険性に気付いてしまう。


「もしこんなものが世間に公表されようもんなら、とんでもないことが起きるぞ」


悪用すれば暗殺など、し放題だ。僕は服を脱ぎ捨てると全裸になった。


これは僕だけの魔法にしよう。世間にもアティにも教えることはやめる。そして僕は全裸で村を徘徊することにした。


決して変態なわけじゃない。だって服だけが動いてたらおかしいだろ?これはあくまで仕方ないことなんだ。


そして僕が股を広げ、天に見せつけるようにポージングしているとあれよあれよという前に、彼らが僕を取り囲んで話を始めたんだ。


どうも聞いていると、こいつらは偽の村人で、王国騎士団をターゲットにして暗殺を企てていたようだ。恐らく帝国の者だろう。僕は物音を立てることができず、彼らの真ん中で股を広げてただ耐えた。


だがすぐに限界がきた。不慣れな古代魔法だ、発動に必要な魔力量を僕の魔力ではまかない切れない。もって数分といったところだ。


(やばいやばい、魔法が切れたら透明化が解除される。こんな姿を見られたら僕の人生終わっちゃう~ッ)


奴らの話を聞いていたので物理的に終わることが確定していた。そして…


ドン!


「は…?」


「…きゃああああっ」


僕は股を広げた状態で見ず知らずの女性と『こんにちは』していた。それは僕の人生の終了の合図だった。


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