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029 復讐を遂げる者

ワイバーンが地面に激突する前に喉が破裂する。首と胴体が分かれて地面へと落ちた。


「やってくれるわ」


アティが血と体液で全身を濡らしながら再び空高く飛んでいく。今のでワイバーンたちはアティを見失っていて、飛んでくるアティに気付いたのは一匹だけだった。


向かって来るアティにワイバーンからブレスが放たれる。今度はそれを回避して進む。避けるアティに合わせてブレスが蛇行するが、飛ぶスピードに緩急をつけることでうまく接近していく。一匹のワイバーンに掛けてられる時間は僅かだ。モタモタしていると先程のように他のワイバーンが邪魔しにくる。


「はあああっ」


ブレスの切れたタイミングでさらに加速すると、ワイバーンの下腹を一直線に駆け抜ける。すると腹が一文字に切れ、臓物が溢れ出した。そのままワイバーンは落ちていく。アティの手にはいつのまにか、短剣が握られている。刀身が青白く光り、何らかの魔法が付与されていることが分かる。


「手首、痛った…」


そのまま加速すると残りのワイバーンの群れに突っ込んでいく。ワイバーンからすればアティは攻撃対象として面積が小さい。線で動けば分かり易いが、点で動かれると距離感を取るのが難しかった。ワイバーンは何もできずにアティの接近を許し、一匹のワイバーンが頭から尻尾の先まで切り裂かれてる。周りのワイバーンたちは急に起きた風圧にたじろぎながら、綺麗な二つの半身になった仲間の肉が地面へと落ちていくのを見る。


「残り5匹」


口から吐く息が白い、アティは誰よりも高い空の上にいた。見上げれば太陽と重なって、光で姿を確認することができない。


眼下では憐れなワイバーンがいまだアティを探して下ばかり見ていた。


アティの横に水が集まっていく。巨大な円形、そしてとても厚い水の塊だ。それが気温で徐々に凍っていく。それを炎で囲うと溶けて水の状態をキープした。


巨大な水のレンズ。光を一点に集める複合的な魔法の産物だ。


「『シューティングレイ』!」


太陽の光とアティの光属性の魔法が絡んで水のレンズに取り込まれていく。キラキラと眩しいくらいのレンズの一点から光が照射される。


ジュッ


収束された光がワイバーンの体に穴を穿つ。貫通したその穴はあまりの熱に傷口が焦げていた。


「ギャオオオオッ」


光は途切れることなく次々とワイバーンを屠っていく。まるで裁きの光だ。光に穴を撃たれ、切り裂かれ、命を奪われていく。残りのワイバーンは何もできずに光に呑まれた。


「ほ、本当に全部倒しやがった、ふがっ…」


ワイバーンを貫いた光はそのまま地面も岩肌を焼いた。戦いの跡と数々のワイバーンの死体。僕は失禁しながらアティの本気とやらを見せられた。


「どうだったシルベルト君、特等席で観戦した感想は?」


アティが黒髪をなびかせながら降りてくる。その姿は神々しいというよりも悪魔でも降臨したかのようだと思った。


「お前、これだけのことが出来て、さらに古代魔法なんて必要あるのか?」


「はあ?つまらないわね。もっと賞賛すべき事柄があるでしょうに」


ふう、とアティがため息をつく。確かに凄かった。パーティーにいた時にアティの魔法は見ていたが、その時は他の魔法使いと変わらないような活躍しかしていなかったしあくまで後方職でしかなかった。黎明の誓いにいるよりも銀の雨粒か魔法職に偏ったSランクの別パーティーに行った方がより活躍できそうだった。


彼女自身がそれを望んでいるかは別として、冒険者の実力としては文句のつけようがない。僕は、アティは大したことがないただの高慢な女だと思っていたが僕よりもだいぶ優れていることを思い知らされた。


「さっ、皆のところへ戻りましょうか。とりあえず早く村に戻ってお風呂でも借りたいものね」


そう言ってスタスタと歩き出す。こいつ、全然疲れていないじゃないか。絶対まだ魔力あり余ってるし、皆の事も治癒できただろ?


「あの、アティさん。僕の拘束解いてもらえます…?」


身分的には僕の方が上だが、僕は自然と彼女をさん付けすることにした。



「はあっ?!一人でワイバーンを倒してきただと…」


「そうよ」


山の入り口に戻るとアティが全員を回復し、ワイバーンを討伐してきたことを説明した。


「証人ならいるわ、そこのシル…じゃなかった。そこのポーターの男がちゃんと最初から最後まで見てたわ」


「本当なのか?」


「ああ、うん。見ました」


話を振ることもアウトだ。僕の正体がバレないように言葉を濁したのは正解だが、注目させるのはどうかと思う。銀の雨粒のリーダーであるクリルが僕に詰め寄る。


「実際見てきた方が早いと思いますよ。もう危険はないですし、素材回収の手間もありますから」


「そうだな、お前ら行くぞ。アイス、俺たちがとりあえず見てくる」


「分かった、お願いする」


やはり言葉だけでは信じられないようだ。銀の雨粒が山を登っていく。他の者は死んでしまったリズたちをそれぞれが弔っている。


僕はアイザックの死を悼む光蜥蜴から少し離れてその様子を見ている。


「アティ、リズはもう…」


「ええ、残念ね」


「回復は私の役目なのに、悔しいです…」


黎明の誓いでもリズの死を悼んでいる。特に回復役として仲間を助けることが出来なかったシンシアが辛そうにしていた。


僕の復讐もここまでかもしれない。僕を追放した恨みを晴らすつもりでいたがそんな雰囲気では無くなってしまった。黎明の誓いの名に泥を塗るきっかけを作りシンシアに心労を負わせ、ノエルに冒険者を辞めさせた。アティには何もできそうにないし、リズは死んでしまった。アイスのハーレムパーティーもこれで破綻したようなものだし、一応は復讐を遂げられたといってもいいだろう。


ただ何か後味が悪い結果になった気がする。僕はもっと高らかに笑って、みんなが土下座して泣いて謝るような結末をイメージしていたのだ。リズには死んでほしくなかったし、アイザックにも死んでほしくなかった。


その後、銀の雨粒が戻って来てアティの言っていたことが本当だったことが周知され、ワイバーンの素材を回収し、リズたちはこの場で焼いて弔った。アイザックの遺体だけはそのまま持ち帰るが、その空に昇る煙を全員が静かに見上げていた。


そして村に戻ってくる頃には夜になり、その日は村の好意で一泊することとなった。


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