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022 ワイバーン討伐1

「そっち行ったぞ…!」


「任せろっ」


森の中を疾走する。器用に木々の間を通り抜けてワイバーンの棲む山を目指す。


『ポギィイイイッ…!』


すぐそこまで魔物が迫って来ていた。山へ向かうには深い森を抜ける必要がある。森は魔物の領域だ。腐葉土の中に隠れているような形状の芋虫が冒険者たちを喰らおうと追いかけてくる。その芋虫は人間と同じくらいの大きさで、ムカデのような脚が無数に生えている。蠢動しながら奇声を上げ、口から謎の液体を撒き散らし迫ってくる。


徐々にその距離は縮まっていく。この一団の弱点と言えば人数の多さだ。もちろんワイバーン討伐には多くの人員を必要とするのだが、森を抜けるのには不利になる。木々の間隔が狭く、武器が振るえない。森に不慣れな貴族を護衛しながらだと、より移動速度が落ちてしまう。


「もう魔法を使え!火で全部焼き尽くせぇ!」


貴族の悲鳴が上がる。一団の最後尾には銀の雨粒が控えている。魔物の口が届きそうになる度にミスリル銀で作られたバックラーでそれを弾き返している。


「今、魔法を使えばワイバーンに気付かれちまう。絶対守ってやるから前だけ見てとにかく走れ!」


斥候が持ち帰った情報によると、ワイバーンの巣は山の中腹にあるとのこと。道中のルートも安全な道を見つけて移動していた。何ヶ所か危険を避けて通れない場所もあったが、冒険者なら余裕で通れるものだった。


「くっそ…、こ、んな仕事…受けなきゃよかったっ…」


「頑張ってください!魔物にはテリトリーがあります。ここを抜ければ追って来なくなりますよ!」


開けた場所に出た。森の中にぽっかりと空いた空間。ここだけ木が生えておらず、膝上くらいまでの草が密集している。冒険者の言う通り、芋虫の化け物は追ってはこないようだった。


「はぁああぁあっはあっ……助かった…」


息を切らし、貴族が倒れ込む。冒険者たちが辺りを警戒し、それぞれ息を整えている。


「ここで、しばらく休まないか…」


「いえ、ここは一見すると安全に見えるかもしれませんが木がありません。空からワイバーンに見つかってしまいますよ」


目的の山は目と鼻の先だ。ここからだとごつごつとした岩肌が良く見える。山は草木が僅かしか生えない岩肌むきだしタイプの人を寄せ付けない山だった。一言で言えば険しい。普段人の入らない山に登山道などありはしないのだから山を進むだけでも一苦労だというのが分かった。


標高もそれなりだ。山頂には雲がかかっている。中腹と思しき場所を見るが、ここから巣は見えず、空にワイバーンの影は確認できなかった。


「皆、そろそろ行こう」


アイスが指示を出し、先頭を黎明の誓い、続いて光蜥蜴、貴族を囲うようにして火の選定、銀の雨粒が続く。危険エリアは抜けたようで、魔物は襲ってこなかった。



「アティさん、あんまり先頭を行かないでもらえますか?俺が先導しますんで、邪魔にならんようにしてもらいたい」


一団の先頭、黎明の誓いの前を行くのは銀の雨粒の斥候だ。彼の確保したルートを魔物に警戒しながら進んで行く。


「別に大丈夫ですよ。私は常に感知魔法を発動させていますから、一人でだって進んで行けますので」


アティはずんずん進んで行く。魔法職とは思えないほどの健脚ぶりだ。黎明の誓いの斥候はノエルが担当していた。ノエルの持ち帰る情報を頼りにダンジョンを攻略したり、危険を回避してこれまで進んできた。ノエルがパーティーを抜けた今となってはそれも難しいが、アティは魔法でその役割をカバーしていた。


正直、斥候の動体視力と、培ってきた経験を元に判断される結果より良いものを提示できた。今までは仲間という事でノエルの顔を立ててきたが、自分の安全を完璧に保証するために感知魔法は使っていた。ノエルを信じていなかったわけではない。ただ、そんな雑用を受け持ちたくはなかったので皆には黙っていただけだった。


「ほら、はぐれオークがその先の岩陰から出てきますよ。3、2、1…」


「っ、本当に出た」


斥候は目が良い。常人より遠くの物を鮮明に見ることができる。だが岩陰など見えないところは見えないものだ。アティが言った通りにオークが出てきたことに銀の雨粒の斥候は驚いた。


「俺が行く」


まだ距離はあったが、アイスが一足先にオークへ突撃していく。


「ね?もちろん貴方の邪魔はしないわ。だから私の邪魔もしないでもらいたいのよ」


「…お、おう」


アティが先頭を行く。銀の雨粒の斥候はその後ろ姿を見ながらやりにくさを感じ、頭を掻いた。


アティの魔法がすごいというのは冒険者全員が知っていることだ。1000年に一度の天才なんてバカにしたような称賛も地で受け取れるような規格外の魔法使いなのだ。ソロだとしてもその実力はSランク相当だと言われている。黎明の誓いには勿体無い人材だと口を滑らす者もいたが、本人は望んで黎明の誓いに在籍している。理由はやはりアイスの存在だろう。


ハーレムパーティーであり、Sランクのパーティーである黎明の誓いは常に嫉妬の的だ。リーダーのアイスはその顔の良さをうまく使い、パーティーに一人は欲しい女性冒険者を独占している。特にモテない男だけで構成されたパーティーからはやっかみが酷かった。

やはり世の中は顔の良さが一番なんだと、男の冒険者たちはアイスの顔を見ながらそう思うのだった。


「すごいな、アティ。これならノエルの穴を完全に塞ぐことができるよ。あ、でも攻撃魔法に専念できるように新しく斥候は仲間に加えるつもりだからさ。それまでの間だけ、どうかよろしく頼むよ」


「そうね、任せてもらっていいわ。…銀の雨粒の人、右方向に大型の魔物の反応があるみたい。まだ見えない距離にいるけど近づいて来てるわよ」


「分かった」


遠くから木々をなぎ倒す音が聞こえている。それが次第に大きくなっていく、近づいている証拠だ。


「皆!右方向からデカいのが来る!戦闘態勢っ!!」


『グオオオオオオオオッ!!』


全員が武器を構える、木々をなぎ倒して現れたのは通常の倍の体格のタイガーグリズリーだった。


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