020 賢さに定評のある僕
ワイバーン討伐は今から一週間後に行われることになった。依頼主の許可を取ったということで、黎明の誓いをチームリーダーとして複数のパーティーでレイド戦へ持ち込む形になった。
黎明の誓い以外に参戦するパーティーは3つ。
Sランクパーティー『銀の雨粒』、Aランクパーティー『火の選定』、Bランクパーティー『光蜥蜴』となっている。人数にすると24名程になる。
レイドで4パーティーとは少数過ぎるが、討伐対象のワイバーンは新たに巣を作るようだと前情報があることから、元の群れから別れた若い少数の群れであることが予測された。それを鑑みるとSランクパーティーも2ついることから釣り合いが取れていると判断された。
銀の雨粒は現Sランクパーティーの最高峰。Sランクパーティーは黎明の誓いを除けば8つある。その中で名実ともに大陸最強の、冒険者の頂点に君臨する冒険者たちだ。人となりは僕もよく知らないがこいつらが出てきた時点でワイバーン討伐の成功は約束されたようなものだ。何だったらこのパーティーだけでワイバーンなど討伐できてしまうだろう。
火の選定は名前から連想できる通り、火属性を得意とする集団だ。パーティー全員が何かしらの火属性を持っている。それは武器であったり、魔法であったりする。特に『フレイムマン』とか異名を持つリーダーのスルトとかいう大男は全身に炎を纏って戦う姿が人気を得ている。
光蜥蜴はアイザックのパーティーだ。特に目立った評価はされていない普通のBランクパーティーだな。
「どうにも戦力過多な気がするな…」
これだけ戦力が揃って、準備期間を一週間も用意されては僕の計画は既に破綻したようなものだ。アイスたちを苦しめるための次の一手を考えなくてはなるまい。
ルーシィから送りつけられてきた作戦書を読み終えた僕はベッドに横になる。
「ふぅ…」
僕は枕の下に挟み込んでいた本を取り出してページを捲った。これは僕の許嫁であるアイリからのプレゼントだ。古代語で書かれた魔術書、つまりは古代魔法を解き明かすための重要アイテムとなる。
古代魔法を研究しているアティに渡すべき代物なのだろうが、どうして復讐しようとしている相手の益になるようなことをしなければいけないのか。これはアティには渡さない。むしろ燃やしてこの世から葬り去れば研究の道を閉ざしてしまえるかもしれない。
かもしれないのだ。それにはアティには渡さずに、まずは本の内容がどんなものなのか知る必要がある。もしかしたら古代語で書かれているだけで、本当は誰かの日記だとか魔法と関係のないことが書かれているかもしれないからだ。
「くく、読める、読めるぞ…!」
僕は賢い。古代語なんて解読できる者はほとんどいないだろう。僕の知る限りでもアティだけだ。だがしかし、僕は古代語を何の苦労もなく読むことができた。
僕には古代語を解読した辞書がある。黎明の誓いに在籍していた時にアティの部屋に忍び込んだことがあった。その時に彼女の研究記録などの大量の書物を盗み見て、密かに複製していたのだ。そのおかげで、こうして古代語の辞書を手ずから作成し難なく古代語を読むことができるのだ。
彼女の研究成果の一部である古代語の解読という知力と時間と努力の結晶を先に世間に公表してやるのも十分に復讐にはなるだろう。ただその場合は僕が貴族であることがバレてしまうだろうし、最悪、盗んだこともバレてしまうかもしれない。危険な行為だ。
とりあえず今はやめておこう。アティの目的は古代魔法であるし、古代語を世の中に広めた結果、古代魔法の解明を早めたり、研究の助力に繋がってしまう可能性もあるからだ。
アティは天才ともてはやされ、高慢で人を見下している。自分を選ばれた人間だと勘違いしているのだ。そんなやつに、この本はやはり渡せないだろう。
この本は本物の魔術書だった。アティの求めている古代魔法というものが何なのか知らないが、この本には神代と呼ばれていた時代に使用していたであろう魔法のことが記されていた。
僕は魔術書と辞書を交互に見比べながら一文字ずつ解読しては読み進めていくという作業を、夜に眠る前の読書として行っている。この本の全容を解明すればアティよりも先に古代魔法を解明したとして歴史的な偉業者にもなれる。こっちのほうがアティのプライドを潰す意味でも良いと思われる。僕は本当に良い許嫁を持ったものだ。
◇
そして一週間が経った。今日はワイバーン討伐の日だ。
町の北門に参加するパーティーが集まり、各リーダーが出発前の確認を行っている。
ワイバーンの巣までは馬車で2日の距離、近くに元々の依頼を出した村もあるのでまずはその村に向かい、この間に変化はなかったか、巣はどの程度まで大きくなったのかなど情報を収集する予定になっている。
「なあシルベルト、本当に行くのか?」
「ああ。これだけの戦力があれば問題は無いだろうが、僕は黎明の誓いの皆が心配だ。アイザックよろしく頼むぞ」
僕はたくさんの荷物を背負っている。僕は現地でアイスたちの戦いぶりをを確認するべく、アイザックに頼んでポーターとして光蜥蜴の一員となりパーティーに紛れ込むことにした。勿論バレてしまえば僕もアイザックも不味いことになってしまうが、バレさえしなければ問題はないのだ。
出発の合図が出され、馬車が進み出す。と、そこに貴族専用の豪奢な馬車が現れ、進路を妨害するように先頭の馬車を止めた。
「何事だ!」
「頭打ったぞ」
「ちっ、貴族かよ」
勿論こういった場合は貴族が優先される。向こうが割り込んできても悪いのは平民になる。
御者が肝を冷やしていると、貴族馬車から目つきの悪い男が出てくる。身なりからして貴族であることは明らかだった。その貴族の性格にもよるが、最悪、不敬としてこの場で斬り殺されることもあり得た。
「俺はこの依頼を出した匿名の貴族である。この討伐に俺もついて行くぞ。異論は認めん」
皆が困惑するなか、その男はニヤリと不敵な笑みを浮かべるのだった。




