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018 貴族からの指名依頼

「あの!」


活動再開に盛り上がる中、私は意を決して申し出た。


「ん?どうかしたかノエル」


「私、私は…冒険者を辞める…辞めようと思う、ごめんなさい。皆とは同じとこに行けないんだ」


「え、うそ、冗談か?」


「…本気。今日はそれを言いに皆に会いに来たんだ…」


悲しそうな顔をするシンシアと目が合う。


「それは、私のせいかな?」


シンシアには負い目があった。所属するパーティーが不名誉を着せられてSランクの面汚しになってしまった原因が実の父親のせいなのだ。そんなパーティーではやっていきたくないと思われても仕方ないと思う。アティが理由をつけて来なかったのも本当は軽蔑しているからなんじゃないかと勘ぐってしまっていた。


「違う、そうじゃないよ。私さ、お母さんともっと一緒にいれる仕事見つけたんだ。私はお母さんが幸せになれる選択をしたい。だから、もう冒険者を辞めるんだ。急だけど、ごめんなさい…」


重苦しい空気が流れる。ノエルの母親が病気で大変だということはここにいるパーティーメンバー全員が知っていることだ。ノエルが幸せになれるなら応援してやりたい。けどようやく再開するというタイミングで仲間が一人去っていくなんて、それはパーティーとしては致命的だった。


辞めるのはこの依頼の後でもいいんじゃないか。そうノエルを引き止めようと思ったアイスだったが、活動再開の起点となる依頼だ。今後一緒に活動しないのならパーティーにとって意味のないことになる。思い直すとノエルを応援する方を選んだ。


「いや、俺はノエルの気持ちを尊重するよ。今までノエルには随分と助けてもらったよ、ありがとう。今後は俺たちの活躍を応援してくれ」


「ごめんなさい…」


「そっか。残念だけど、謝る必要ないよ。お母さんを大事にしなよ」


リズもノエルに優しく声を掛ける。そうなると黎明の誓いはアイス、シンシア、リズ、アティの4名となってしまった。シルベルトの追放は良かったとして、パーティーとして時間を置いてしまったことでそれぞれの道を考え選ぶ時間ができてしまったのかもしれない。


離れていくのなら無理に止めても仕方ない。シンシアは妹のように接してきたノエルが離れたことで静かに目元を濡らしていた。自分のことが少なからず影響しているとどうしても考えてしまい、どうしようもない気持ちになった。


パーティーを離脱すれば、その後の話にノエルは参加できなかった。ノエルはもう一度別れを告げると部屋を後にした。自分がいなくなった黎明の誓いはどうなるだろう。ノエルはルーシィに冒険者を辞めることを報告し、驚かれながらも冒険者登録を抹消し、引退した。


淡泊であっけない終わり方だったが、物事はえてしてそういうモノだ。シルベルトの指示で冒険者を辞めることになったが、それもノエルの選んだ道だ。後悔と罪悪感は残ったが、貴族の屋敷で使用人というのもなろうと思ってなれるものではない。シルベルトは少々頭がアレだが、母親の病気ももうすぐ完治するし将来の安定性でいえば魔物と戦う危険のない分メイドの仕事も良いかもしれない。


「それにしてもアイスたち大丈夫かな…」


貴族からの指名依頼、もちろんそれはシルベルトによって仕組まれた狡猾な罠なのであった。



「シルベルトさんッ!」


「ぶひぃっ?!」


午後の紅茶を楽しんでいると、珍しい来客があった。冒険者ギルドのルーシィさんが屋敷まで乗り込んできたのである。


「貴方は何を考えてるんですかッ!」


「な、何ですか急に…」


「何だじゃありませんよ。匿名で黎明の誓いにワイバーン討伐を依頼しましたね。しかもノエルさんを冒険者引退に追い込んだ!貴族だからって何でも許されると思ったら大間違いです!」


「な、なんのことだか僕にはさっぱり…」


あまりの剣幕に僕は嘘を吐いた。普段は冷静な彼女がこうも怒っている姿は普通に恐怖を覚える。というかノエルのやつ、僕が辞めろと言ったから冒険者を辞めると言ったのか?


僕は貴族のツテを使ってあるところからワイバーン討伐の依頼を奪ってきた。村の近くに新たにワイバーンが巣を作ろうとしている気配があるから討伐して欲しいというものだ。


「黎明の誓いはたったの4人になってしまったんです。それでワイバーンに挑むなんて危険すぎます。アイスさんは乗り気のようですが、それは状況が彼らを追い詰めているだけで少し冷静になれば無理なことくらい分かるはずなんです」


「い、いや、それはアイスたちの実力を見くびり過ぎでは…。一応はSランクなんだし…」


ワイバーンは翼竜とも呼ばれる大型の魔物だ。前足がない代わりに翼を持つ空飛ぶドラゴン。一般的にドラゴンに分類される個体の中では一回り小さく、といっても人間を背中に乗せて飛べるほどに大きい。強さはそこそこ、空を常に飛んでいるから倒すには工夫がいるがドラゴンとしては格下の部類に入る。適正冒険者ランクはA相当、アイスたちなら人数の面では難しいかもしれないが命の危険まではないといったところだろう。


空を飛ぶドラゴンは他にもいるが、ワイバーンは群れで行動する習性がある。そのため遭遇戦にでもならない限りは冒険者パーティー複数でレイドを組んで倒すのがセオリーだ。基本的には王国騎士団とかが定期的に討伐に向かってるので冒険者へ依頼が回ってくることは普通無い。


「殺人です。こんな危険な事をさせようなんて、これは魔物を利用した殺人事件になりますよ。私は担当している冒険者をむざむざ死地へ送り出す愚かなギルド職員ではありません。この依頼は依頼主を冒険者ギルドに書き換え、冒険者ギルドが主導して行います。いいですね!!」


「そんなこと急に言われても、殺人とか大げさな。というかルーシィさん、屋敷まで乗り込んできて僕に失礼な態度をとるなんて困ったことになりますよ?」


「貴方は最低な人ですね。かつての冒険者仲間を何だと思ってるのですか?!そんな人間、私は恐くありません。したいようにすればいいじゃないんですか?」


「…ぐっ、分かりました。ルーシィさんの好きなようにしてもらって構いません」


「ええ、そうさせてもらいます。そろそろ黎明の誓いも活動再開していい頃合いです。急ですがB~Sランクまで声を掛けてレイドで挑んでもらいます。それでは」


僕の了承を取り、ルーシィさんは部屋を出て行った。


「……くそ」


突然のことに心臓がバクバクいっている。貴族担当ということでルーシィさんは絶対に僕の味方であると思っていたのに。貴族の僕に喧嘩を売るようなマネをして自分の立場を危うくするなんて。そんなにアイスの方が大事なのか、許せない。


今度会ったら泣いて謝るような酷い目に遭わせてやるぞ、くくく。


「シルベルトさん!」


「きゃあっ、ごめんなさいッ」


そう思っていると、ルーシィさんが再び乗り込んできた。先程より怒りのボルテージが高いように見える。


「貴方って、貴方って人は~~~ッ」


そう言って廊下の方からノエルの腕を掴んで引っ張り出してくる。


「ノエルさんに冒険者を辞めさせただけでは飽き足らず、屋敷に連れ込んで、こ、こんな破廉恥な恰好をさせるなんて…!!」


何か酷い誤解があるようだ。僕という人間をどう見てるかの先入観がそうさせるのか。僕が貴族であることは基本的に隠しているから、ノエルには僕のところでメイドを始めた事は秘密にさせていた。


ノエルがメイド姿で困惑している。口の周りにはクリームをいっぱいつけていた。コイツ!僕のおかわりのおやつを持ってくる途中で食べやがったな!


「黙ってないで何とか言いなさい、この豚!女の敵!」


「くっそおおおおおおっ!!」

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