015 緻密な計画を練り上げる僕
ノエルが僕の奴隷になってから6日が経った。
ノエル母の病気はほぼ完治した。病院では薬も薄めて投与していたらしく、正規の薬とアグノニス家の名医にかかれば流行り風邪よりも簡単に治せるものだったらしい。しかし長期に亘って病魔に侵されていた身体は弱りきっていて、一ヶ月程度の静養が必要と判断された。
その間に件の病院から何度か屋敷の方に誰かが訪問してきたらしいが、門前払いしてもらっていた。
「ノエルちゃん、もっと穂先を床と平行にして掃くんですよ」
「は、はい、こうでしょうかっ」
ノエルはメイドとして家で雇うことにした。本人は何か勘違いしていたようだが、しばらくはカノンの下に付いてもらって研修をしなければならない。なにしろ伯爵家のメイドなのだ。言葉遣いに、礼儀作法に仕事。覚えることが多くて大変だろうが頑張ってもらうしかない。
カノンにとっても後輩ができたのは良いことだ。先輩になれて嬉しかったのだろう、今まで以上に活き活きとしている。
ノエルを僕の奴隷にしたのは事実だが、彼女が想像していたようなことは一切無い。他の貴族はどうか知らないが、アグニノス家は清廉潔白で有名なのだ。それに愛人でもつくろうものなら許嫁のアイリに殺されてしまう。僕はまだ女を知らない純粋な男子なのだ。
ノエルに対する復讐はいずれ。予定を変更してノエルを僕の駒として使うことにした。谷底にいる相手をこれ以上どうやって突き落とせばいいのか分からないのだ。それならばノエルを使って他のメンバーの弱みを握ろうと思う。
「シルベルト様」
「ケイニーさん、出歩いて良いのですか?」
廊下を歩いていると看護師に付き添われたノエル母こと、ケイニーと出くわした。
「はい、少しずつ自分だけで歩けるようにならないといけませんから」
「そうですか、無理をなさらずゆっくりとやってください」
「ありがとうございます。娘の事も、職を与えて下さって感謝しております」
「いえ、いいんですよ」
「私も正直ほっとしているんです。危険と隣り合わせの冒険者なんかより、側にいられるような仕事に就けて。あの子には苦労を掛け通しですから、少しでも幸せになってくれれば…。…私が言うのも何ですがあの子は器量は良いし、見た目も悪くないですから女性らしさを少し磨けば光ると思うのです。ああ、時間を取らせて申し訳ありません。ではシルベルト様」
「ええ、お気をつけて」
礼をしてケイニーさんが歩いて行く。何かアピールのようなことを言っていたが、それは叶わないだろうな。
自室へ戻ると僕は机へと向かい、ノートを取り出した。今までの復讐は少し行き当たりばったりだったような気がする。ここで少し状況を整理して、より良い復讐を遂げる計画を練ろうと思う。
「さて」
愚かな医者のせいで復讐こそ出来なかったものの、ノエルを僕の奴隷にできたのは大きい。ケイニーの病気を治し、ノエルをメイドとして雇うことで医者の企みを潰す。つまりプラマイゼロ、僕よりすごいことをするなんて許さないのだ。それにノエルをメイドにすれば冒険者は続けられなくなる。ノエルには僕と同じように冒険者を辞めてもらう。そうすれば黎明の誓いの活動にもダメージを与えられるし、実は妙案だったのではないかと鼻の穴を大きくする。
半年分の治療費は僕が立て替えたことにして、ノエルには負債を抱えさせる。メイドの給金からほんの少しずつ僕に金を返させるようにしよう。これで母親の病気が完治しても数年は縛っておけるだろう。母親のためなら何でもする様子であるので僕を裏切ったりはしないはずだ。
まあ、アイスたちのことは裏切ってもらうがな!
正直言うと僕はアイス以外のメンバーとほぼ接点が無かった。復讐しようにもネタが無く、闇夜に紛れて暴行を加えるくらいしかできそうになかったのだ。ノエルから面白そうなネタを仕入れることができれば御の字、そうでなくてもノエルを使って何かしらできる気がするのだ。
アイスは最後に取っておくとして、残りの二人、魔法使いのアティとアタッカーのリズ。こいつらにどうやって僕を追放した報いを受けさせてやろうか。僕の持てるものは惜しみなく使うつもりだが正面からやり合うのは得策じゃない。後に報復されないように僕が関わっていることは伏せておきたい。
「ふむ、となればそろそろ活動を再開してもらうとするか」
Sランクにも難しいような高難易度のクエストを用意しよう。無茶な依頼でも、貴族が依頼主ならアイスたちも断れまい。




