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異世界おっさん、日本転生して「魂の仲間」を再結集 ――誰が俺の嫁かわからなくなったし、好き勝手に生きるわ!  作者: 猫目少将@「即死モブ転生」書籍化
02 絶望パーティー、企業設立……したらトンデモないことに

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02-3 ケットシーお散歩で拾った「女の子」

「あー仕事ないわねー」


 ついに完成したオーバーロード二階事務所のソファーで、絵里が溜息を漏らした。いつものメンバーが揃い、あかねは膝に例の元ケットシー猫「ちくわ」を抱いている。


 あかねは熱帯魚のブリーダーをしているせいか、動物が好きなんだよな。オリガミを使役する本能があるのかもしれないけどさ。言ってみればオリガミテイマーじゃん。


「仕事ないんなら、せっかくの日曜にこんなとこ詰めてても無駄だっての」

「まあねー」

「仕方ないだろ。そもそも俺達、賃料として一階ケーキカフェの運営任されてるんだし」「まあ……一階もほぼ新築になったしね。ゲンはいいわ」


 情けなさそうな笑みを、あかねが浮かべた。なんせ第一回取締役会議のとき、なぜか一階が半焼しちゃったんで、二階工事のついでに、これ幸いと全部直したわけよ。


「一階の陽菜、大丈夫かな。いくらルナもいるからって言ってもさあ……」

「平気でしょ、今ケーキカフェにもお客さんいないし。店番くらいなら、陽菜だって火炎放射器召喚しないでしょ」

「あれ……なんとかならんのか」

「陽菜だからねー」


 俺は思い返した。前世の戦いで、陽菜のドジっぷりは身にしみている。……まあドジなだけじゃなくて、ギリギリのところでものすごい武器を召喚して敵を一掃するのが常だから、問題ないっちゃないんだけどさ。


 なにせあの頃、陽菜――つまりミュジーヌは天才召喚士として(いろんな意味での)名声を轟かせてたからさ。「いろんな意味での」ってのが意味不明だったけど、パーティー組んだらその日のうちにわかったわ。諸刃の剣だな、陽菜は。敵だけじゃなくて味方にとっても危険という……。


「まあ、陽菜に助けられたこともたくさんあるしねー」


 ルナ設計の「対人格闘用装備・くのいち」――つまりウエイトレス制服のみんなは、しばらく黙った。それぞれ上を向いたり下を向いたりして。多分、あの頃のことを思い返しているんだろ、俺みたいに。


「おい絵里。脚組み直すとき、注意しろよな。パンツ見えてるぞ」

「あら思音、気になるわけ」


 悪い笑顔を浮かべると、わざとゆっくり、また脚を組み替えてみせた。


「……あかねみたいに見せパン穿けよ、せめて」

「ああいうの、蒸れるからイヤ」

「蒸れっこないだろ、こんなミニスカートで」

「そ……その、私も少し恥ずかしいというか。……スースーするし」


 恥ずかしげに、空が太腿をきつく閉じてみせた。なんせルナがこの制服――あっ戦闘服か――をお披露目したときは空、まだ俺達に合流してなかったしさ。


 ルナが空用に設計し直した戦闘服は、「木ノ葉隠れ改」。胸を強調するエプロンドレスの「くのいち」だと、空の胸は大きすぎてブラウスのボタンが弾けそう。なので、陽菜の「木ノ葉隠れ」をベースに、揺れすぎないよう胸を下からサポートする機能を、エプロンドレスに持たせている。


 それに「どうしても恥ずかしい」ってことで、スカート丈はやや長め。やっぱり恥ずかしいそうだから、生足見えるニーソックスとかでなく、黒のタイツを合わせている。


 だけど俺から見ると、長めのスカートの影に見え隠れする、透けない黒のタイツがかえってなまめかしくて、むしろその上……というかスカートの中をどうしても見たい欲望が目覚めるんだけどな。


 男の狼化を招いて逆効果というか。まあ教えると空が余計に緊張しそうだから、好きにさせてるけど。



――ピンポン――



 事務所のインターフォンが鳴った。


「お客さん二組来たよ。……誰かヘルプお願いですー」


 陽菜の声だ。


「あら指名入ったみたい。あたし行くわ」


 絵里が伸びをした。


「絵里、キャバクラか風俗みたいだぞ 指名とか……」

「あらあんた、行ったことあんの?」


 いたずらっぽく、瞳が笑ってる。ヤバイ墓穴掘った。


「前世おっさんでも、今のあんた、高校生じゃん」

「……」

「黙ってるし」


 あかねに睨まれた。


「これは怪しい。怪しすぎる」

「お、俺はおっさんだし。そ、そだ。ちくわ散歩させなきゃ」


 ちくわはネコだが元ケットシー。つまり活動量の豊富なモンスターなので、散歩が日課だ。


「じゃあルナも連れてってやんなよ。ちょうどシフト交代の時間だし。あたしがこのまま下に入るからさあ」

「あらー。絵里ったら、今日は妙にルナに優しい」

「だってあかね。あの娘、ホムンクルスじゃん。自分は偽物だって、まだ悩んでるしさ。たまには思音とデートさせてやってもいいかなって……」


 あかねが目を見開いた。


「うわ絵里あんた、ヘンなものでも拾って食べた?」

「あたしゃ優しいんだよ。ダークエルフとして、何百年生きてきたって思ってんのさ」

「こっちでは人間に転生したから、寿命も多分あたしたちとおんなじだけどね」

「いいのいいの。ヒューマンみたいに速く年取るって、してみたかったからさ、前世のとき。ながーい人生は、退屈でさあ……」

「さすがエルフ。贅沢な悩みだわー。人間と逆じゃん」


 あかねに無言で微笑むと、ポキポキ首を鳴らしてから、絵里が階段に向かった。


「ほら思音、ぐずぐずしないの。ちくわよろしくねっ」


 ちくわにリードをつなぐと、あかねが俺に渡す。一階のルナを誘って、俺は商店街へと踏み出した。


         ●


「……なんかごめんね」


 ぽつりと、ルナが口にした。ちくわは、リードを引きながら勝手にとことこ歩く。ケットシーの足の向くまま商店街を過ぎ、小川のほとりを歩いていたときだ。


「どうした」

「私、偽物でさ」


 思わず顔を見たら、なんとも言えない表情をしている。


 道すがら、妙に口数少ないと思っていたら、そんなこと考えていたのか……。


「そんなこと言うなよ。ルナらしくない」

「でも私、あの邪神再生事件で、ルーナの記憶、全部甦った。転生前にシオンとどんなに好き合ってたか、隅々まで知ってる」


 俺の目を見つめてきた。


「思音は……、そのこと、思い出してないんだよね」

「いや……」


 思わず口を濁した。しばらく考えてから、俺はまた口を開いた。


「実は……、俺もあのとき思い出した。全部な。……邪神に脳をいじられたせいさ」

「じゃあ……」

「でもそれは、俺ひとりだけの秘密さ。そんな話して、みんなを苦しませたり波風立てるのは、趣味じゃない。……まあお前にはこうして話しちゃったから、ふたりだけの秘密ってことなんだけどさ」


 若い体だが、俺の中身は、ただのおっさんだ。生死を共にした仲間と、みんな仲良くこの世界で面白おかしく、のんびり余生を過ごしたいだけなんだ。


「だから気にするな。お前はお前さ。そもそも一文字ルナは、ルーナとは微妙に違うじゃないか。肉体も心も。みんなそう。エリスなんかダークエルフからヒューマンへと、種族も変わったしさ。俺らは俺ら。今の俺らで、この時空でまったりやっていこうや」


 リードを持っていないほうの手で、ルナの手を握ってやった。


「お前がルーナだろうがルナだろうが、はたまたホムンクルスだろうが、それは同じさ。俺は気にしてないし、みんなもそうだ。……それくらい感じるだろ」


 立ち止まると、ルナは、俺の瞳を覗き込んだ。


「わかった」


 また歩き始めた。


「……ありがとう」


 下を向いたままつぶやく。


 俺達は、しばらく無言で散歩した。


「ごあーご……」


 急に、ちくわが鳴き始めた。餌をねだるときのような、媚び媚びの声で。


「わあ、かわいい」


 擦れ違うように来た制服姿の女子高生がしゃがみ込むと、ちくわを撫で始めた。ゴロゴロ喉を鳴らして尻尾を高く上げ、ちくわはうれしそうだ。


 ――はあ、猫撫で声の目的はこれか。スケベなモンスターめ。


「この子、散歩できるんですね」

「ええ。外が大好きなケ――猫ちゃんで」


 珍しく、ルナがボロを出しそうになった。ややこしいこと考えていたからだな、きっと。


「この子、名前、なんですか」

「ちくわってんだ、こいつ」

「ちくわ……ちゃん」


 ちょっとびっくしりたみたいだな。よく見ると上品そうな顔立ちで、まあまあ整っている。それなりにモテそうだ。


「か、変わった名前ですね」

「その制服、一文字学園でしょ」

「あれ、わかりますか」

「私達、円城寺だから」

「わあ、系列の人なんだ」


 楽しそうに微笑む。一文字の生徒の一部は、円城寺学園を見下している。『俺達が本家。系列の円城寺なんて下々』――ってわけさ。でも彼女は、そんなことないみたいだな。


「なんで日曜に制服着てるの」

「部活だったんで。弓道部の」


 それから俺達は、河原のベンチで、せせらぎを見下ろしながら、しばらく話した。彼女の名前は麻子ちゃん。俺達と同じ高等部一年だと。ルナが下の名前だけ名乗ったからか、彼女も名字は口にしなかった。ルナが名字を名乗らなかったのは、一文字と知られると面倒だからだろう。学園を経営する財閥のお嬢様と知られると、ヘンに気を遣われて相手に悪いしな。


 それとなく聞いてみると、麻子ちゃんは、植木屋の娘らしい。お嬢様ばかりの都心の名門校に「高等部から急に紛れ込んじゃった」――本人談――ため、微妙に居心地が悪いらしい。


「あたしなんか、場違いで笑っちゃうというか……」


 学校で本音を口にできないせいだろうが、俺達にはざっくばらんに話してくれた。


「気にしなくていいよ、生まれなんか」


 河原の大木からの落葉を眺めながら、俺は口にした。


「自分で選べないんだしさあ。名門だろうが……ホムンクルスだろうが」


 ルナが、ちらりと俺を見た。


「ホムン……なに?」

「生まれなんかより、どう生きるかが大事ってことだろ」

「……ありがと、思音」


 ルナが手を握ってきた。


「ねえねえ、ふたり、恋人?」


 そりゃ突っ込まれるか。ルナが手を離した。


「違うわ。部活仲間」

「ふーん……」


 いたずらっぽく笑った。


「まあいいか。……どんな部活なの」

「現代日本生存研究会って言って」

「はあ?」

「名前は意味不明だけどさ、要するにいろんな依頼をこなして遊ぶ、推理同好会みたいなもんで――」

「あっそれならちょっと、お願いがあるんだけど」


 麻子ちゃんの瞳は、急に生き生きと輝き始めた。


「なに」

「奇妙な失踪話があって……」

「あら、面白そうね」


 ルナが食いついた。さすがガーディアンのサムライ。戦闘の気配があると、途端にやる気になるな。


 ……まあいいか。これもスローライフのためだ。


 んでまあ俺達は喜んでその依頼を受けたんだけど、これがまたややこしい話になってさあ……。

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