02-2 トンデモ取締役会議議事録 二〇××年十月×日
(音声記録 日時:二〇××年十月×日 場所:ケーキカフェ「オーバーロード」ボックス席)
文字起こし:野原空
「えーと、では株式会社げんせいけん、第一回取締役会議を開催します。議長はあたし、美里絵里先生が無理やりやらされましたー。ったくいくら監査役だって言っても、面倒だっての」
「愚痴るなよ絵里。取締役会議は形だけでもいいから最低年一回は開いて議事録残しとけって、法務局のおっさんに教えてもらったろ」
「そりゃわかるけどさあ、思音。会社作ったって、全員報酬ゼロじゃんよ。やる気もなくなるっての」
「収入が当面見込めない場合、役員報酬ゼロに設定するのは、普通ではないでしょうか」
「空ったら、ここぞとばかりいい子ぶっちゃって。……それより、スマホの録音、ちゃんとできてんの」
「はい……。今確認しましたが、きちんとボイスメモが起動してます」
「あたし、文字起こしとか嫌だからね。それは空に頼むから」
「わかってます」
「早く始めようよ、絵里。一応営業時間内だから、お客さん来たら面倒だし。今ならあたしたちしかいないからさあ」
「わかったよ、あかね。焦らないの。第一回会議の議題はえーと……」(ガサガサ)
「ここオーバーロードの二階改造計画、か……。陽菜、あんたお父さん説得しといたの」
「はいですー。ウチ、お母さん出てっちゃって、二階部屋余ってたんで、特に反対もなく、三階の倉庫を狭めて、お父さんと陽菜の部屋作る形でOK取りましたー」
「あんたんとこ、お母さん愛想尽かして離婚しちゃったもんね」
「そりゃ、毎月ボヤ出してりゃねえ……」
「あ、あかねちゃんっ! 陽菜のせいじゃないもん」
「わかってるって、涙目にならないの。ごめんごめん」
「陽菜とお父上が三階に移動。空いた二階を道場と事務所にするわけね。……賃料はなしでいいのよね」
「仕切るなあルナ」
「だって思音。話が進まないじゃない」
「賃料はなしというより、現物支払いだけどな。いやつまり、げんせいけん女子のウエイトレス奉仕ってことで」
「あんたもやんのよ、思音」
「俺もか、あかね?」
「そうそう。ルナがちゃんと、思音用メイドアーマー用意してるから」
「……いやせめて、例の執事アーマーにしてくれ」
「はあ? あんただけ恥かかずに済むと思ってんの?」
「どこの世界に、社長にメイド服着せる企業があるんだよ」
「ここにあるじゃん――って、いらっしゃいませ~」
「よそ行きの声出すなっての」
「だってお客さんじゃん。ほら絵里、あんた注文取ってきなよ」
「あたし議長だし」
「じゃあ陽菜でいいからさ」
「あかねちゃん、人使い荒いですー」
(ドタドタ――バタッ!)
「い、痛いよーぉ」
「だ、大丈夫ですか」
「へ、平気」
「陽菜、パンツ見えてるぞ」
「あっやだっ。……お客さん、見た?」
「いや俺達はなんにも――って、なに? 床に魔法陣みたいなのがっ!」
「あーはいはい。すみませーん」(ぽかっ)
「い、痛いよーぉ。あかねちゃんがぶったあー」
「お客様、ご注文は。……はい、コーヒーふたつと、ザッハトルテひとつですね」
「さすがルナ。卒ない……」
「それで、工事はいつから入るの」
「えーと、契約は俺がしたけど、来週からだってよ。いつもの陽菜大破の修理もついでにするから、陽菜の父ちゃん大喜びだったわ。……ルナ、前金が必要なんだけど、お前のご両親からもらった資本金、突っ込むぞ」
「社長決済ね、ふふっ」
「資本金、減るなあ……」
「平気平気。必要ならまた贈与を受けるから」
「さすが大富豪。気前いいわ」
「甘くはないけどね。……さて、コーヒーとケーキ出してくるわ」(すたっ)
「ところで絵里、お前、工務店に余計なこと言ったろ」
「えっ……。な、なんのこと」
「ストレッチ台五つとか、俺、聞いてなかったぞ」
「やだ絵里。まだ美少女ストレッチ、諦めてなかったんだ」
「あ、あははははー(バリボリ)」
「お前なあ……。仮にもケーキ屋で、持ち込んだ煎餅かじるなっての」
「じゃあふたつ。ふたつだけ入れてよ。いいでしょ、普段は仮眠用のベッドとして使えば。そんで、必要になったらストレッチ営業すれば」
「却下ですー」
「却下よね」
「却下だ」
「ダメでしょうね」
(すたすた)「あほらしい」
「では取締役会の評決、五対一で否決です」
「なんだよ空。なんであんたが議長役やってんの。それにルナ。戻ってくるなり話も聞かずに否定とか」
「絵里の提案なんて、聞かなくてもわかるわ」
「いい、議長特権、顧問教師特権、美里様特権で、ストレッチ台導入決定だかんね」
「鼻息荒いなあ……。じゃあいいよ。入れろ入れろ。マジ仮眠用に使うからよ」
「さあすが社長。太っ腹っ。絵里のこと、好きにしてもいいのよ」(ぼわっ)
「く、苦しい。胸で窒息する」
「絵里、あんたいい加減にしなよね」
「あら、あかね。やる気?」
「あんた次第じゃん」
「ちょっとふたりとも落ち着いて。立って胸ぐら掴み合って、お客さんが驚いて――あっ」
(どたーっ!)
「なに、本気でやるの」
「うるさいっ。会議が進まないじゃん。絵里のせいで」
「よしなさい、ふたりとも――いたっ!」
「ああ悪いね、ルナ。そこ邪魔だから」
「――もう怒った」
「なに、ご自慢の妖刀ムラマサもないのに、どうするっての――うわっ!」
(ガチャーン)
「い、いったーっ。投げることないじゃん」
「ふふっ。私はガーディアンのサムライ。しかもニンジャ技まで使えること、もう忘れたの」
「くらえっコショウ爆弾!」
(げ、ゲホゲホ)
(く、苦しい)
(え、絵里お前)
(カランコロン)
「あっお客さんが……。お代ももらってないのに。……絵里ちゃんー、陽菜、許さないからね」
(ウゴゴゴゴゴ――)
「陽菜よせ。なんだよその魔法陣は。たかがケンカで、どうして十芒星なんか」
「いくですーっ」
「うわわわっ」
「そ、それは――」
「陽菜、それはダメ。火炎爆発だと殺傷力が――」
(ドドドドドカーン)
(パラパラ)
(シーン……)
「う、うう……」
「い、いったー}
「陽菜ったら……」
(メラメラ……)
「やだっ。テーブルとカーテンが燃えてる」
「はうーっ。陽菜のケーキ屋が火事ですー」
「お前のせいだろがっ」
「消火器どこ」
「いや、もう初期消火は無理。退避しましょう。――絵里、あなた二階からお父上抱えて逃げて」
「まかせてっ――あっ」
「なに、戻ってきて」
「忘れてた。第一回取締役会は、これで終了です」(ドタドタ)
「妙なところで律儀なんだから」
「空、あんたも逃げるよ」
「待って。スマホがどっかに行っちゃった。議事録の録音が――」
「絵里にふっとばされたんだ。もう忘れろ」
(メラメラ)
「ヤバイ。もう大火事決定だぞ、これ」
「――あっ。あった」
「みんな逃げろーっ。社長命令だ」
(ドタドタドタ)
(メラメラ)
(メラメラ)
(メラメラ)
――以上、株式会社げんせいけん、第一回取締役会議議事録
書記:野原空 二〇××年十月×日




