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第三部:4

「ただいまー。名和さん、セブンスターで良かったですか? 私、タバコの種類はからっきし詳しくなくて。ナス科タバコ属の多年草ってことは分かるんですけど」

 ちょうど名和との話が終わったときに五花は戻ってきた。ああ、約二十分も会話していたことになるのか。というか、タバコってナス科なんだな。勉強になる。

「いやあ、いいよいいよ。それにしても似ている兄妹だねえ。まあ、スーパースリムサイズじゃない分、妹ちゃんの方が優秀みたいだけど」

 名和は俺と初めて会ったときを思い出してか言う。うるさい。俺はお前のためにタバコを買ったわけじゃないんだ。

「それほどでもありますよ。はい、どうぞ」

 五花は何も事情を知らないくせに『兄より優秀』と言われ上機嫌な様子になる。そして、そのままコンビニで買ってきたタバコを彼に手渡した。普通サイズのセブンスター箱中央には星が描かれていなかった。

「ありがとう。恩に着るよ。お釣りは自由に使ってくれるといい」

「はーい。ありがとうございます」

 犯罪行為をして男から金をもらうなんて援助交際みたいだなと思ったが言わないでおく。俺も加担したわけだし。

「そうだ、淀江くん。君にも何かお礼をしないとね。妹ちゃん、レシートをまだ持ってたら僕にくれないかい?」

「んにゃ? もちろん、いいですけど……一応、必要だと思ってもらっておきましたし」

 基本的にコンビニではタバコのみを買った客に対してレシートは渡さないマニュアルがあるらしいが、そこのところ五花はしっかりしていた。些か怪訝な顔をするものの、桃色の財布から小さい紙切れを一枚だけ掴み取って彼に手渡した。ヒト黒星病の葉のやり取りとは似ても似つかない挙動だ。

「〇九〇の……」

 そして、名和は胸ポケットから取り出した万年筆で器用にもその白い紙に数字を記しだした。最初の三桁で何なのかはだいたい検討つく。

「これは僕の携帯番号だ。もう君と会うことはないだろうけど、もし何かあったらここに電話するといい。僕は基本的に暇だからいつでも出ることができるはずだ」

 いらねえ……五花とはえらい違いじゃねえか。

「はあ……まあ、一応、受け取っておきますよ」

 これから先、病異のことで聞きたいことがあるかもしれない。なので、むやみに捨てはしないでおこう。なくさない努力もしないけど。

 俺は胸の前に持ってきたOUTDOORのリュックサックから財布を取り出し、十一桁の番号が書かれたレシートを杜撰にも押し入れた。

「ふむ、いいだろう」

 それをしっかり認めた彼はそう頷く。それから別れの文句が続いた。

「では、君たち。くれぐれも良い年を。せめて妹ちゃんだけでもね」

 と、壮年のくたびれた背を向けながら。俺は『……』と三点リーダーを二つ並べて沈黙せざるを得なかったし、妹ちゃんであるところの五花は『?』とただただ疑問符を浮かべるだけだった。

 気づけばもう午後一時すぎ。会話で頭を使ってカロリーを消費したことだ。ここらで一回、パン屋を襲撃しよう。

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