第二部:6
嵐が去った後のような静寂が部屋に染みわたる。
午後九時半。再度、自室でのプライベートタイムを得た俺はこたつで寝転びながら計り兼ねるようにしてスマホ画面を眺めていた。
『サークルメンバーと打ち上げでカラオケなう! 楽しい!』
四十分前。ちょうど五花が焦った様子で俺の部屋を訪れたときに呟かれたものである。察するに昨日の演劇の打ち上げを今しているらしい。
(サークルメンバーか……)
その中には必ず男がいるはず。実際、昨日観た演劇でも何人かちらほらと見えた。目つきが悪いやつも混じっていた。そんなやつらと夜遅くに遊んでいるとは……。
俺は湖山さんの貞操を案じる。もし何かの拍子で間違いがあったらどうするんだ。妹の処女なんていらない。そんなもの栗屋でも御来屋にでもくれてやる。でも、湖山さんの場合は別だ。処女が欲しい……いや、誰にも渡したくない。だから、極端に言えば湖山さんと結婚できるのならば俺は一生童貞でも構わない。もちろん彼女にも処女であり続けることを求める。互いに穢れを知らぬまま生涯を終えるなんて素敵なことじゃないか。究極のプラトニックでロマンチックであると言ってもいい。
(そもそも湖山さんが処女だという前提が間違っているかもしれないが)
あんなに可愛いのだからそれも十分にありうる。今朝、三二〇〇も遡ることで閲覧できた一番古いツイート。それが呟かれた日付は今年の九月二日を指していた。つまり、それ以前のものは見ることができなかったのである。で、昨日、五花から聞いた「海に行った」という話は俺の目の届かなかった七月八月の出来事だろう。
(やっぱりそこにも男はいたよな……)
彼女には俺の知らない過去がある。
そんな当たり前のことに憤りを感じる俺は彼女とともに同じ時間を過ごした男に敵愾心を燃やしてしまう。羨望ではなく嫉妬。五花や御来屋のような他のカップルに向けるのが羨望。湖山さんと付き合う俺以外の男に向けるのが嫉妬である。
(湖山さんが帰宅するまでは安心できない)
俺は独りもくもくとフリックをし続ける反復作業へと移った。




