9.おばあちゃん
場面は、日本へもどります。
紀彦は、おばあちゃんとも暮らしている。正確に言うと、ひいばあちゃんだ。
おばあちゃんの名前は小春といった。紀彦が小さいときー物心ついたときから、彼のそばにずっといる。
いつも、ニコニコ笑って、彼のことを見守っている。年の頃は二十歳過ぎ、小柄で丸顔、手足が短くぽっちゃり体形、髪の毛が伸びたり縮んだりする。父母や祖父母に、おばあちゃんの話をすると、とても不思議がられる。
そんなときー、おばあちゃんは、彼の耳元で
「紀彦ちゃん。ここにおばあちゃんがいることは、みんなには内緒だよ」
と、ささやいた。
紀彦が小学生になってからー、周りの誰も、おばあちゃんの姿が見えていないことに気が付いた。彼しか、おばあちゃんに話しかけられないし、おばあちゃんの声をきくことができないーということが分かった。
おばあちゃんは、とても若かった。
紀彦のお母さんよりも若く見えた。どうしてなのと、訊ねたことがある。
「おばあちゃんはね、自分が一番見せたい姿を、紀彦ちゃんにみせているんだよ。おばあちゃんが、一番きれいだったころの姿だよ」
と、教えてくれた。
しばらくしてー、紀彦がもう少し大きくなって。おばあちゃんの言う「きれい」は、世の中の人たちがいう「きれい」とはかけ離れていることが分かった。でも、おばあちゃんの笑顔は、とってもかわいいと思った。
おばあちゃんが笑うと、引き込まれるように、彼まで笑顔になった。
紀彦は、中学生になってー。おばあちゃんは、『たまとり』から彼を守るために、彼のそばにいるんだということを理解した。おばあちゃんが、説明してくれたからだ。といわれても、彼は『たまとり』に襲われた記憶がない。
それは、おばあちゃんが、襲われた時の恐ろしい記憶を消してくれているからーと、知ったのは高校生になってからだった。
中学生になることから、おばあちゃんは時々、いなくなった。理由は、敢えて訊ねなかったけど、紀彦が一人になりたいと思うと、おばあちゃんの姿は見えなくなった。たぶん、紀彦が何を考えているのかー良いことも悪いことも、よくわかっていたのだろう。
けれどもー、
おばあちゃんは、彼がすることについて、何ら、口をはさまなかった。ただ、彼が相談すれば、一生懸命に考えてー。どうすればいいのか、アドバイスしてくれた。
紀彦が、二十歳を過ぎたころ、おばあちゃんは、
「紀彦ちゃんも、そろそろ、『たまとり』との戦い方を覚えた方がいいね」
と、いった。紀彦は、その言葉の意味を理解した。
おばあちゃんだって、いつまでも元気でいられるわけじゃあないー。自分の身は、自分で守らなければならないー。彼は、覚悟をした。
けれども、それから5年たっても10年たってもー。『たまとり』との戦い方について、おばあちゃんの口からきかされることはなかった。その間も、ー紀彦は覚えていなかったけど…
何度か『たまとり』らの襲撃があった。紀彦のー記憶は消されていたけどー、彼の感覚ー記憶が一定時間飛んでいたり、おばあちゃんの緊迫した雰囲気で、
―ああ、オレ『たまとり』におそわれたんだなと、わかるようになっていた。
なので、何度か、紀彦から、「どうして、戦いの訓練をはじめないの」と、訊ねたことがあった。その都度、おばあちゃんは、困ったような顔をして、
「もうしばらく、様子をみてからにしよう」
と、いった。
紀彦が30歳になったとき、カナウが彼と暮らし始めた。おばあちゃんは、カナウを気に入った。ーし、カナウもおばあちゃんになついた。カナウはおばあちゃんとは違う、不思議な能力を持っていた。
彼女は幼く、それをうまく使えていなかった。おばあちゃんは、カナウに『たまとり』との戦い方を教え始めた。
お付き合いいただきありがとうございます。




