8.アラヤと占い師
(前回のつづき)
……占い師は、重い腰を上げた。
占い師は、先ずドン泥へ行きー、ソムサックの倒れていた場所一帯を、長い時間かけて調べた。その後、アラヤと一緒にソムサックの家に行き、彼の様子をしばらく診た。
そしてー
「どうやら、ドン泥にすくう精霊たちに、精神と意識を、魂ごともっていかれたようだ」
と、いった。アラヤとソムサックの家族はのけぞった。
「この地方にー、数百年前に日本からきて、殺された武将がいた。武将の名前をナガマサという。彼は、恨みを残したまま死にー成仏できず、その怨念がドン泥の底にとどまったままだった。ところがー最近、その武将の霊を、怨霊として復活させたものがいる」
「ドン泥の植物に宿る精霊たちだ」
占い師はそこで言葉を切って、アラヤの反応をみた。
「精霊は、怨霊を強大にするため、若者たちの魂を集めていた。多分ソムサックの魂が、その一つになったのであろう。精霊と怨霊は、もうドン泥にはいない。彼らの目的はわからないーが、彼らは、武将ナガマサの元居た場所、日本へ向かった……」
アラヤは、精霊、怨霊、そして遠国の名前をきいても怯まなかった。彼女は
「日本へ……。それでは、ソムサックさんをもとに戻すために、どうすればいいのですか」
と、訊ねた。占い師は、彼女をしばらくみていたが、やがて口を開いた。
「ソムサックの魂はとられたばかりだ。今なら、まだ間に合うと思う。すぐに日本へ行き、彼の魂をみつけてとりもどすのだ。そして、その魂を、ここにいるソムサックの身体にもどすのだ。そのためには、大変な勇気がいるぞ。どんな恐ろしい目にあうかもしれないが、やりぬかねば、魂はとりもどせない」
「はい、わかりました」
「いいかな、取り戻すためには、ソムサックが一番愛しているもの。そして、ソムサックを一番愛しているもの。つまり、お前が、日本まで行く必要がある。日本へ行って、ソムサックの魂を見つけ出す覚悟があるかな」
「あります。ソムサックさんを戻すためなら、どこへでも行きます」
アラヤは決然とこたえた。占い師は、アラヤの健気さに打たれた。
「よし、お前の決意はわかった。さすれば、お前も魂となって、日本へ行くのだ。生身のままでは、ソムサックの魂を見つけることができぬ。お前も、魂だけの存在にならなければならないのだ。ーわかるか」
「はい、わかりました。が、どうやって魂だけの存在になるのですか」
「いいか、よく聞け。今からすぐに私が、人形を用意する。私が、お前の身体から、精神と意識をー魂ごと取り出して、その人形に宿らせる。そして、その人形を日本へ運ぶ……」
「わ、わたしがー。に、人形に宿るのですか」
アラヤは、驚いた。―そんなことが、できるのか
「そうだ。お前は、人形となって、動くことも話すこともできなくなる」
占い師によどみはなかった。アラヤは、どうなってもいい覚悟を決めた。
「は、はい。わかりました」
ただ、そんな形になって、異郷に行って、一体なにができるのであろう。
占い師は、うなずいた。確かにー
「そのままでは、どうしようもないのでー。日本に、お前の助けになるものの心当たりがある。その人物を頼るがよい」
「日本で……頼る人物……。協力してもらえる方がいるのですか」
アラヤは、はるか先に、わずかではあるが光明が見える気がした。
ほんとに、わずかだがー
「そうじゃ。そのものは、魂だけの存在になったお前を助けてー、ソムサックの魂のありかまで、お前を連れて行く…」
「よ、よろしくおねがいします」
アラヤは、占い師と未知の協力者に頭を下げた。
「それから、わしが人形に『無事、行き先にたどり着く』術を施す。その術が必ずや、お前の魂の入った人形を、協力者の元まで導いてくれるであろう」
「はい、日本で、かならずソムサックさんの魂をとりもどします。彼と一緒でなければ、この国には帰ってきません」
「ふむ、よかろう。日本での協力者は、今から100年前、ワシと一緒に修業した者じゃ。
かならずやお前の力になってくれようぞ」
「100年前……」
―ええ、それじゃあ、この占い師のおばあさん、いったいいくつなのかしら
「これこれ、女性の年齢をせんさくするものでないぞ」
「し、失礼しました」
アラヤは赤面して、頭を下げた。
「お前の首尾も心配であるがー。協力者も、今どこにすんでいるのか、わからない」
「……生きているのでしょうか」
「生きている。それは確かだ。それに、わしの術は完璧じゃ。必ずやお前は、協力者のもとにたどりつけるであろう」
―ただ、少しばかり回り道を余儀なくされることー、覚悟しておけ
「は、はい、わかりました。それで、日本で協力いただく方のお名前はー」
「いいかい、日本語の発音になるがー。そのものの名前は……」
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