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7.オロシャ国 ドン泥

お話は、一旦、日本からオロシャ国へ移ります。

 2ヶ月前ー、東南アジア、オロシャ国パトナム県…

 見渡す限りの水田、ところどころに田の大きさほどの大きな水たまりがある。ここは、土地が真っ平らなため、地面を少し掘ればどろ水が出て、水たまりになる。水はけがよくない土地。


 その一つに、ーほかの水たまりと違って、周りに木や草が茂っているところがあった。そこに集まってくるのは、トカゲやヘビ、鳥、そして小動物たちだけだった。付近の村の人たちは、その水たまりのことを、「ドン泥(ドロ)」と、よんでいた。


 数か月前から、ドン泥について、こんなうわさがささやかれるようになった。

「真夜中になると、ドン泥から、けものの鳴き声がきこえてくる」

「気味が悪い。なぜか、数か月ごとに、どん泥のあたりで、若い男が消えていく」


「不思議な格好をしたものが、あらわれて、若い男をつれていく」

「いなくなるのは、きまって体格の良い、屈強な若ものばかりだ」

噂をするのは、たいがい村の年寄り連中か、怖いモン好きのこどもたちであった。


     x   x   x   x


 そのドン泥の近くの村に、アラヤとソムサックという、若いの男女がいた。

アラヤは、近くの工業団地にある日系企業に、製造オペレーターとして勤めー。ソムサックは、家族で農業を営んでいた。


 ふたりは、幼馴染で仲が良く、結婚の約束をしていた。村ではふたりが、楽しそうに並んで歩く姿がよく見かけられた。ふたりは、このドン泥を、待ち合わせ場所に使っていた。


 ドン泥は、アラヤが働く工場からソムサックたちの村へ続くの道の、途中にある。アラヤは工場帰り、徒歩でどん泥まで歩き、そこに生えているタイサンボク木の下でソムサックを待った。やがて、田畑での作業を終えたソムサックが、バイクに乗ってやってくる。二人はバイクに乗り、近くの街にでかける。


 その日、アラヤは残業をして、待ち合わせの時間に一時間くらい遅れた。ソムサックはタイサンボクの木の下、木陰になっているところに腰をおろして、アラヤが来るのを待っていた。


 太陽が沈みかけていた。夕日が、ドン泥の水面に反射してキラキラと、黄金色に輝いていた。ソムサックは、まぶしくて、水面から目をそらせた。ところが、水面の輝きがどんどんおおきくなって、彼の視界の中に広がりだした。


 その黄金色の輝きが揺れて、その中から民族衣装をきた、若い女性が四人現れた。彼女らは、首、手や足を器用にくねらせて踊りながらー、

だんだんとソムサックに近づいてきた。いつの間にか、彼女らはソムサックを囲んでいた。


 アラヤが待ち合わせ場所についた時、まだ陽は西の空にあった。ソムサックのバイクが夕日に照らされて、舗装されていない道に長い影を落としていた。ソムサックは、いつものタイサンボクの木の下で、膝を立てた状態で、仰向けにひっくり返っていた。


 アラヤが近づきながら、彼の名前を呼んだが、彼はピクリとも動かなかった。アラヤが、屈みこんで彼の肩をゆすった。立てた彼の膝が、ガクンと横に倒れた。その反動で、ソムサックの腰から下がグルっと曲がったが、ソムサックは起きなかった。


 アラヤは、初めて異常に気が付いて、大声をだしてソムサックの名前を呼んだ。彼は、薄目を開けて白目をむいていた。口からは、よだれがだらしなく垂れていた。彼女はすぐに携帯を取り出して、取り乱しながら助けを呼んだ。


 それから、二週間経った。ソムサックはそのままだった。彼は、病院に運ばれたが原因が分からず、家に戻された。目は薄くあけ、口も半開きで、一日中ベッドの上で寝ていた。 スプーンに食べ物を掬って、口元に持っていくと、咀嚼だけはした。トイレにはいけないので、家族が交代で下の世話をした。彼は、言葉を一切発しなくなった。


 アラヤは出勤前と退社後、ソムサックの自宅に寄って、なにくれとなく彼の世話をした。アラヤが、彼の手を握って、根気よく話しかけたが、かれは、一切口を利かなかった。アラヤがいるのもわからないようだった。いろいろな病院にあたってみたが、医療関係者には、なぜソムサックがこんな状態になったのか、わからなかった。


 それでも、アラヤはあきらめなかった。なんとか、ソムサックをもとの状態にもどそうと、色々な伝手を当たってみた。首都近郊の街に、よく当たると評判の占い師がいることを知った。原因不明の病気や、霊障まで直すという噂があった。


 アラヤはその占い師を訪ね、彼女の足にしがみつくようにしてたのんだ。

「どうか、ソムサックさんを診てください」

アラヤは、金の首飾り、耳輪、腕輪、そして、お金を、彼女の全財産を占い師に差し出した。


 占い師は、ひざまずいたアラヤを上から見下ろしていたが

「できたら、コメ、ニワトリ、野菜も持ってきてほしいものだ」

と、催促した。アラヤは、家族に泣きついて、占い師が欲しいものを調達した。


 ソムサックの一家も協力してくれた。占い師は、重い腰を上げた。

お付き合いいただきありがとうございます。

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